例年、4月は様々な医療職の養成校において臨床実習が始まる時期ですね。
ところが皆さまご存じのように、昨年からのコロナ禍により実習の受け入れを中止している医療機関も多いようです。
そこで当シリーズでは、理学療法に関する最も基礎的な知識・技術について、自主学習できるよう解りやすく述べていきたいと考えています。
未だ実習の目途が立たない学生さん、また実習を経ずしてPTになられた方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
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1.『理学療法プロセス』の流れ
最初のテーマは、理学療法プロセスです。
最終学年の学生さんや新卒PTの方々には釈迦に説法かも知れませんが、基礎を積む上では外せないものです。
ちょっと我慢してお付き合い下さい😅
『理学療法プロセス』とは、PTが担当患者さんのリハビリテーションに介入する際の手順、あるいは思考過程を指します。
これはPT特有の概念ではなく、医師の『診療プロセス』や看護師の『看護プロセス』、ケアマネージャーの『課題分析』など、他の医療・介護職種とおおよそ共通のものです。
一般企業でよく使われる『PDCAサイクル』とも同等と言ってよいでしょう。
私たちPTは医師の指示に基づいて医療行為をおこなうため、主治医から指示箋が来た時点でプロセスが動き始めるのが通例です。
以下、プロセス全体の流れを述べていきます。
※項目の分け方は全国一律ではないため、私の個人的解釈も一部含みます。何とぞご容赦下さい。
1)情報収集
①間接的情報収集
指示箋・カルテや他職種、患者さんのご家族等から得られる情報です。
<一般情報>
◆住所・氏名・年齢・性別など
<医学的情報>
◆疾患名・既往歴・検査データ・手術記録・看護記録など
<社会的情報>
◆家族構成・家屋構造・職業など
年齢や性別、各種医学的情報は、リスク管理や疾患の予後(回復の見込み・余命)を考慮する上で重要です。
看護記録からは、入院患者さんの普段の過ごし方や言動が把握できます。
社会的背景を知ることは、目標を設定するために不可欠となる場合があります。
②直接的情報収集
患者さんご本人から得られる情報全般を指します。
<面接・問診>
◆意識状態・コミュニケーション
◆主訴・デマンド(要求・要望)
◆問診・視診・触診
まず、会話を通じて意識レベルや精神状態、意思疎通の能力をおおまかに把握します。
できれば現時点での困り事(独りでトイレに行けないなど)や、将来の希望(家に帰りたい・職場復帰したいなど)も聴取しておきたいものです。
痛みや機能障害の部位など、主観的・外観的な所見も診ておきましょう。
2)動作観察
◆臥位・坐位・立位の姿勢
◆基本的動作(寝返り・立ち坐り・歩行など)
日常生活上の姿勢・動作を観察します。
できれば、機能障害の部位や程度を予測しながら観たいものです。
PTは「動作を評価する専門家」であり、その技術は特に重要です!
詳細は次回の記事で🎵
3)検査・測定
◆バイタルサイン(血圧・脈拍など)
◆形態測定(四肢長・周径)
◆関節可動域測定・筋力検査・神経学的検査など
動作観察で予測した機能障害に対し、その有無や程度を確認するため各種検査を行います。
手術直後の介入など、動作遂行に制限があるケースでは先に検査・測定から行うこともあります。
動作観察→検査・測定の順に進めるのを「トップダウン評価」。
検査・測定→動作観察の順に行う場合を「ボトムアップ評価」と言います。
どちらを先に行うかはケースバイケースですが、ボトムアップでは「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」になりがち😅
PTとしての洞察力を高める意味でも、トップダウンで評価できるように研鑽することが大切だと思います。
4)統合と解釈
ここまでのプロセスで得られた情報を統合して関連性を明らかにし、問題点(課題)を導き出す工程です。
例えば、
杖歩行の観察をしていると、どうも左側へふらつく。
左の大殿筋と中殿筋、そして大腿四頭筋の筋力低下を疑い、それぞれ筋力検査をしてみた。
結果、左中殿筋が著しく弱化していた。
ゆえに、「歩行時のふらつきは主に左中殿筋の筋力低下によるもの」と結論づけられる。
といった具合です。
医師は、問診・触診・採血・画像検査などを行った上で患者さんの全体像を分析し、最終的に「貴方のお腹が痛いのは急性胃炎によるものです。悪性腫瘍じゃなくて良かったですね」などと診断を下しますが、基本的にはそれと同じです。
ゆえに、統合と解釈は理学療法プロセスの中核をなしています。
正しい分析(解釈)をするためには、情報収集や動作観察、検査・測定で得られたデータをフル活用し、ここで適切にひも付けしたり、ふるいに掛けることが大切です。
5)問題点の抽出
杖歩行の左へのふらつきに対し、複数の機能障害(左中殿筋と大腿四頭筋)があったとしましょう。
もし「左中殿筋の弱化の要素の方がちょっと大きい」と分析したならば、問題点としてはそれが上位になるでしょうが、左大腿四頭筋にも全く問題がないわけではありません。
また、この患者さんの退院先である自宅には階段があり、2階へ上らなければ在宅生活が成り立たないとすると、杖歩行よりもむしろ階段昇降の困難さが問題になることも予測されます。
そうすると、
◆機能障害における問題点は…
①左中殿筋の筋力低下
②左大腿四頭筋の筋力低下
◆動作能力に関する問題点は…
①階段昇降の安全性低下
②杖歩行の安全性低下
このような順序になることも考えられます。
問題点の抽出とは、統合と解釈を要約し、リハビリ対象要素に優先順位をつけて整理したものだと言えるでしょう。
6)目標設定
短期・長期と分けて設定するのが一般的ですが、期間の決め方はケースバイケースです。
例えば現在、大腿骨頸部骨折の術後1週とすると…
◆短期目標(術後2週):歩行器を使用した院内歩行の自立
◆長期目標(術後6週):手すり支持での階段昇降自立・在宅復帰
というように、患者さんのデマンド(要望)やニーズ(必要性)、身体能力に応じた現実的な目標を立てます。
もちろん、妥当な目標を設定するには疾患の一般的な経過や予後に関する医学的知識も重要です。
同じ疾患であっても年齢や性差、罹患する前の動作能力、患者さんのモチベーションなどによって回復の度合いは変わります。
予後を予測するのは思いのほか難しく、PTとしての経験値がものを言う部分です。
7)理学療法プログラム立案・実施
問題点に応じてプログラムを立て、実行します。
例えば、
◆機能障害に対しては…
①中殿筋の筋力増強運動
②大腿四頭筋の筋力増強運動
◆能力低下に対しては…
①手すり支持の階段昇降練習
②杖歩行練習
◆社会的不利に対しては…
①住宅改修(手すりの設置)
②デイサービスの利用
というように、身体機能・動作能力・社会的背景それぞれの問題点に対応したプログラムを考慮しましょう。
課題と優先順位が明確であれば、漫然としたアプローチにならずに済みます。
8)再評価
設定した目標どおりに進まない場合、これまでのプロセスのどこかが不十分だった可能性があります。
統合と解釈で全てのつながりを明らかにできれば良いのですが、実際には「明確化する」には至らず「推察する」までに留まっており、プログラムを実行してみて初めて「あ、やっぱり中殿筋じゃなくて大殿筋だったんじゃないか?」と気づくというケースも、多々あるものです。
残念ながら、そのようなことはベテランのPTでもあり得ること。
患者さんに無駄な時間を浪費させてしまったとすると誠に申し訳ないのですが、人間の身体は千差万別で、的確に分析するのはなかなか難しいです。
誤りを謙虚に受け入れて振り出しに戻り、情報収集からやり直すことも大事ですね。
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2.すべてのプロセスは目標達成のために
一般の方々からみると、PTは「上腕骨の骨折には上腕二頭筋の筋トレ」「脳卒中で半身麻痺の人には麻痺を回復させる運動」というように、各疾患に対応したトレーニングを型どおりに当てはめているように思われるかも知れません(実際そういうPTもいますが💧)。
しかし、疾患に対し直接的な治療を行うのは主に医師の役割です。
PTは疾患そのものではなく、それによって2次的に生じる様々な問題点に対してアプローチしているのだと言えます(一部例外はあります)。
そして、個々の患者さんが抱える固有課題を抽出するのが統合と解釈であり、理学療法プロセスなのです。
私自身、今でも対象者の全体像や課題が掴めなくなることがあるのですが、そういう時には…
あしたのためにその1、情報収集!
あしたのためにその2、動作観察!
このようにプロセスを再確認しながら、日々業務に取り組んでいます (^^ゞ
実習生や若手PTの方々に見られる傾向として、何に役立つのか不明確なまま漫然と情報収集や動作観察、検査・測定を行っていることがあります。
理学療法プロセスとは、優れた食材を選りすぐって美味しい料理に仕上げるシェフの技のようなもの。
そして私たちPTの存在意義は患者さんの幸せ(目標達成)を縁の下で支えることですから、大事な情報を使わずに腐らせることのないようにしたいものですね。
次回は、学生さんや新卒PTには苦手意識の強い『動作観察』の方法について述べたいと思います。
最後までご覧下さいましてありがとうございました。
長文失礼致しました m(_ _)m
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