動作観察は、理学療法プロセスの中でも重要な位置を占めています。
対象者の課題を抽出するためには必須の理学療法技術ですが、実習生や若手PTにとっては少し難しく感じられるようです。
この記事では、臨床経験の少ないPTや学生の方々、あるいは医療従事者でない人にも理解できる「動作観察きほんのき」、そのポイントについてご説明したいと思います。
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1.はじめに…「全体を観て」と言うけれど
養成校の教員の先生から、「まず全体を観察してみよう」なんて教えられたことはありませんか?
例えば歩行では…
①最初に、動作の全体の流れをおおまかに観る。
②次に、歩行時の骨盤や各関節の動きを個別に観る。
③歩行周期の各段階で生じる現象を分解し、記述していく。
上記のように、全体を観てから要素別に分けるといった観察手法です。
これはこれで間違ってはいないのですが、
歩行の観察してみて、どうでしたか?
立脚終期の股関節の伸展が少なかったです。
OK🎵 よく観てましたね。
では、それによって患者さんは何が困るんでしょうか。
貴方に今できることはありそうですか?
………………💧
こんな風に、観察はしたけれども患者さんの利益には繋げられなかったというケースも…。
では、患者さんの利益 とは何か?
PTの介入によって、その動作が日常の中で使えるようになるかどうか。
すなわち、実用的になるか否かです。
そこで私が提案したいのが、PTにはお馴染みの「実用性5つの要素」の視点から観察するという手法です。
2.動作の実用性5つの要素
理解しやすくするため、主に歩行を例として5つの要素を解説していきます。
1)安全性
よろめいたり、ぶつかりそうになったりすることなく歩けるかどうかを観察します。
骨折などの大怪我につながるため、5つの中ではもっとも大事な要素です。
できれば「歩行のどのフェーズで、運動機能のどの部分に問題があって転倒しそうになるのか?」と分析しながら観察したいところですが、今回は入門編。
まずは「何となくふらついてて危なそう…」というように、医療者の立場を離れ、直感に頼って観ることが大切です。
2)安定性
ここでは「いついかなる時も一定して同じ動作が行えるか」を観ておきます。
日中はしっかり歩けているけれど、夜になるとおぼつかなくなる。
このように1日の中で起こる変化を、医療用語で「日内変動」と言います。
また、昨日はスムーズに歩けていたのに、今日はぎこちないという場合もあります。
日によって違いが生じることを「日差変動」と呼びます。
いずれも高齢者や一部の疾患によくみられる徴候です。
PTは日中の動作しか観察できない場合が多いので、入院患者さんであれば夜間の状況について病棟スタッフ等から情報を得るようにつとめましょう。
3)速性(スピード)
「手すり伝いなら転倒せずに何とか歩ける」と言っても、あまりに遅いとトイレに間に合わないということもあります。
横断歩道なら、青信号の間に渡り切れないと危険です。
横断歩道の信号が点滅するまでの時間は、10mを10秒ぐらいで歩けることを基準に設定されているようです。
ちなみに、一般成人の平均はおおよそ8秒(時速4.5㎞)ぐらい。
より客観的(定量的)に評価したいなら、10m歩行を計測するのもひとつの方法です。
ここでは観察が主体なので、最初は自分の感性に従って判断しても良いでしょう。
ちょっと遅いなぁ…と感じる場合、たいてい10m10秒を超えています。
4)持久性(耐久性)
トイレまで歩いていく途中で疲れてしまっては、排泄が間に合わなくなるかも知れません。
200m先のスーパーへ行くのに何度も休憩を取るようでは、その歩行は買い物の移動手段として実用的とは言いにくいです。
持久力の評価が不十分な実習生・若手PTが多い印象ですが、自覚症状(息切れ・疲労感)や連続歩行距離、脈拍・血圧など、定性的・定量的な指標を組み合わせて判断すると良いでしょう。
でも、やっぱり最初は見た目で感じ取れる(気づく)ことが大切ですね。
5)社会性(外観)
独歩は無理でも、杖を使えば上記4要素はクリアできるとしましょう。
けれども「杖なんて年寄り臭くて恥ずかしい。外で使えない」となれば、その患者さんにとって杖歩行は実用的ではないということになります。
逆のケースでは、例えば更衣動作。
上着のボタンをひとつ掛け違えても、ズボンのファスナーを閉め忘れていても、とにかく寒さをしのぐことができれば実用上は問題ないのかも知れません。
しかし、ご本人が気にしなくても社会的には容認されない場面もあるでしょう。
ご本人のプライドや社会的背景が影響するという点では、他の要素と比べて判断が難しいと言えますね。
3.すべては患者さんの利益のために
前述の通り、患者さんの利益とは動作を実用的に使えるようになること。
私たちPTはそのためにアプローチしています。
例えば、ある入院患者さんの杖歩行を観察した結果、ふらつきがあったとしましょう。
ここでPTは、その根本原因を分析します。
筋力の低下?
それともバランス反応の障害?
ほかには…
検査・測定ですぐに明らかになることもあれば、原因不明の場合もあります。
それでも患者さんは病棟で日々生活をしています。
原因が判明するまでアプローチせず放置しておくわけにもいきません。
仮に筋力低下がふらつきの原因だと解ったとしても、筋トレを処方して次の日に筋力が強くなるわけでもありません。
日中の病棟内歩行は、当面の間は歩行器を使用するようにして下さい。
夜間の歩行は評価できていないので、看護サイドで観て頂けませんか?
安全が確認できるまでは、夜間のトイレはナースコールを押してもらい、付き添いでお願いします。
了解しました!
根本原因は不明でも、転倒リスクさえ把握していればこのように即応できます。
実用性に着目して動作を観察する理由、お分かり頂けたでしょうか?
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4.さいごに
「立脚中期で体幹が側方動揺します」
「骨盤の回旋が少ないです」
「足関節の背屈がみられません」
実習生に歩行観察の結果を尋ねると、だいたい上記のような言葉が返ってきます。
なまじ専門知識を有するがゆえに、細かい所にばかり注目し、何が問題なのかという本質にはなかなか辿り着かない。
木を見て森を見ず になりがちなのです。
経験が浅いこともあるでしょうが、養成校での教育の仕方にも問題があるようです。
全体を観よ・要素的に観よと言いつつ、具体的にどのような着眼点で全体(or 要素)を観るのかを明らかにしていないように思われます。
観察のための観察では、ただの独りよがり。
どうせ(と言っては失礼ですが)分析的に観察できないなら、「あ、ちょっと危ないかも」「少し歩くのが遅いね」というように、一般人のピュアな感覚で観たほうがよっぽど理解しやすいですし、患者さんの利益に繋がります。
そう。動作観察の入口は、
Don’t think. FEEL!
(考えるな、感じろ!)
で良いと私は考えます😊
次回の記事では入門編から一歩踏み込んで、より論理的に動作を分析するための手法を解説します。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
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