前回の入門編では『動作の実用性5つの要素』に着目しつつ、まずは直感で観ていくことをお薦めしました。
今回はそこから一歩踏み込んで、より分析的に観察する方法を述べていきます。
分析すると言うと面倒に思えますが、着眼点を絞って観察すれば決して難しくはありません。
何事も最初はシンプルに考えるようにしましょう。
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1.はじめに…歩行周期について
理解しやすくするため、今回も歩行を例として解説していきます。
予備知識として、まずは歩行周期について確認しておきましょう。
歩行周期は、足が地面に接地している立脚相と、地面から離れている遊脚相で構成されます。
立脚相は5つ、遊脚相は3つの段階に分けられます。
左右どちらの足も接地している両脚支持期が1歩行周期で2回あるなど、さらに細かく見ていくとキリがありません(知識としては重要ですが)。
なので、立脚相は…
◆前期(初期接地~荷重応答期)
◆中期(立脚中期)
◆後期(立脚終期~前遊脚期)
の3段階に大別し、遊脚相は1つの流れとして捉えるぐらいで良いでしょう。
あまり複雑に考え過ぎないのがポイントです。
2.歩行周期のどの段階で異常が現れるか?
『実用性5つの要素』の中で最も重要なのは、言うまでもなく安全性です。
転倒せずに歩けるかどうかが、対象者にとっては切実な問題だからです。
「分析的な観察」の第一歩は、歩行周期のどの段階で転倒しそうになるかを把握することです。
前述のように立脚相を3段階、遊脚相を1段階(一連の流れ)と考え、ザックリと確認しておきましょう。
細分化し過ぎると、木を見て森を見ずになってしまいますからね😊
歩行中の転倒には、大きく2つのパターンがあります。
1)立脚前期(初期接地~荷重応答期)の問題
ひとつ目は、フラッとよろめくような前兆のあと大きくバランスを崩すというケースです。
右の初期接地~荷重応答期は、同時に左前遊脚期でもあります。
すなわち左脚→右脚への荷重(重心)の受け継ぎが始まる局面であり、バランス障害のある人にとっては難しい時期に当たります。
また、踵が接地する際には床からの強い反力が生じるため、衝撃を吸収し体軸を安定させようとして多くの筋群が総動員されます(後述)。
ゆえに、筋力の弱い高齢者等にとってはふらつきを生じやすい瞬間なのです。
よく「立脚中期で体幹が側方動揺する」という表現を用いますね。
けれども、予兆はすでに初期接地の段階で起こっており、それが立脚中期~後期にまで波及している場合が多いものです。しっかり観ておきましょう。
2)遊脚相の問題
ふたつ目は、ほとんど前兆が無く急激にバランスを崩すような転倒です。
もっとも典型的なのが、右遊脚相で右足関節の背屈(はいくつ:つま先を上に反らす)が不十分なため、床の凹凸に足先を引っ掛けてつまずくパターンです。
ただし、右遊脚相で生じる問題の原因が右脚だけにあるとは限りません。
右遊脚相は、同時に左立脚相の時期でもあります。
左側への荷重移動が不十分なために、結果として右足が引っ掛かった可能性も念頭に入れておきましょう。
3.分析的に観るための基礎知識
歩行周期のある時期に、特有の現象が観察できたとしましょう。
その「ある時期」に、身体のいかなる部位が、どのように働いているのか。
運動学的知識を身につけることで、はじめて分析的な観察が可能になります。
歩行においては、特に下肢の筋活動についての知識が重要です。
クラゲから鳥、陸上生物に至るまで、動物のロコモーション(移動能力)は常に筋収縮に依存しているからです。
1)筋活動
PTの国家試験にも頻繁に出題される歩行時の筋電図(一部のみ掲載)ですが、試験勉強のために覚えるのではありません。
歩行分析には必須の知識です。
立脚中期で骨盤が遊脚側へ大きく傾くのを『トレンデレンブルグ徴候』と呼びます。
中殿筋の筋力低下が主な要因ですが、異常歩行に関する知識としては実習生にはお馴染みですね。
それゆえに「中殿筋は立脚中期に強く働く」と間違って覚えている方々が多いのですが、図を見るとお分かりのように、もっとも強く作用するのは立脚前期(初期接地~荷重応答期)です。
立脚前期で大殿筋・中殿筋・大腿四頭筋などの主要な筋群が一斉に働くことで、床からの衝撃を吸収し骨盤を安定させるのは前述の通り。
さらに立脚中期の側方バランスや、後期での前方推進力にも波及するのです。
2)骨盤の動き
寝ていても歩いている時でも、人間の重心は常に骨盤の周辺(正確には仙骨)に存在します。
ゆえに、歩行時の微妙なふらつきなどは骨盤の動きをみておくと察知しやすいです。
◆骨盤の回旋:左右4°の計8°。右遊脚相で左へ、左遊脚相で右へ回旋。
◆骨盤の傾斜:立脚中期で遊脚側へわずかに傾く。
他にも前・後傾など、骨盤の動きはもっと細分化できますが、上記2つぐらいは覚えておきましょう。
※角度のデータは文献によって若干異なります。
トレンデレンブルグ徴候は骨盤が遊脚側へ傾く現象。
だから、正常歩行では逆に遊脚側が上がるはずでは?
こう思い込んでいる実習生が極めて多いです。
正常歩行をきちんと観察せず、暗記だけで覚えてしまっている証拠ですね😅
3)重心移動
歩行時の重心は、前進しつつ上下・左右に移動します。
特に左右への移動は重要。立脚側へ揺れるように、滑らかなS字を描きます。
これが感覚的にも知識としても理解していれば、動作観察のみならず歩行介助の際にも役立ちます。
4.観察条件を変えてみよう
ここまでの内容を踏まえて観察しても、
何が分からないのかが分からない💦
これが、経験の浅い実習生や若手PTの常というものです。
観察する位置は考慮していますか?
では一度、視点を変えてみましょう。
当然ですが、前 or 後ろから観れば側方へのふらつきが分かりやすいですし、真横から観れば上下動や関節の角度変化が把握できます。
それでも分かりにくい時は、思い切って歩行様式を変えてみましょう。
例えばシルバーカーで歩いている患者さんは、あるウイークポイントをカバーするためにそれを使っているわけですから、シルバーカー歩行だけ観察していても課題は見えにくいままです。
片側手すりや杖歩行、独歩を試してみると、ふらつきが顕在化してウイークポイントが明らかになるかも知れません。
独歩でも問題点が掴みづらい軽症の患者さんであれば、
◆横歩き
◆後ろ歩き
◆継ぎ足(つぎあし:綱渡りをするように1本のライン上を歩く)
などの応用歩行を評価するのもひとつの方法です。
右遊脚相で右足先が引っ掛かるのが「左立脚側への重心移動が不十分な為ではないか?」と予測したなら、骨盤を少し左へ介助(誘導)して右脚の振り出しが改善するか試してみても良いでしょう。
いずれも転倒の危険を伴う評価なので、対象者の許諾を得るとともに、しっかりリスク管理をしながら観察しましょう!
条件を変える方法は、姿勢観察にも応用できます。
例えば立位姿勢の評価では、普通の立ち方で課題が見えなければ、片脚立ち。
足関節の要素を排除したければ、膝立ち。
動的バランスも含めて評価したければ、リーチ動作。
坐位姿勢であれば、椅坐位(背もたれのあるイス)から端坐位(背もたれのないイス)へ。
両足を接地した端坐位から、両足を浮かせた端坐位へ。
他にも方法は沢山あると思います。
ただ漠然と見るのではなく、頭を柔らかくして色々と試してみましょう🎵
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5.さいごに…正常動作を観察しよう
病院・施設へ実習に行けなくとも、街中で歩いている人を観察するだけならタダです。
それに今はYouTubeなどの動画コンテンツも大いに活用できます。
チンパンジーやペンギンなどと比較すると、人間の直立二足歩行は体軸の揺れがはるかに少なく、骨盤の位置もビシッと安定していることに驚かされます。
また、骨盤の回旋・傾斜は男性よりも女性の方が動きが分かりやすく、まさに教科書通りであることが理解できます。
若年者と比べて、高齢者の骨盤がぐらつきがちであることにも気づくと思います。
観察対象がご家族や職場のスタッフ、養成校の同級生等であれば、骨盤にベルトやゴムバンドを巻いてもらうと微妙な動きが把握しやすいですよ。
ともかく、正常動作を理解せずして異常な動作を評価することはできません。
平素から人の動きをさりげなく、じっくりと観察することを心掛けたいものです。
街中で他人のお尻をジロジロ見て変質者扱いされないようにだけ注意して下さいね😅
それでは、最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
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