拙者の名はダーク小次郎。
剣術師範として小倉藩(現在の北九州)に召し抱えられた兵法者でござる。
流派は『巌流(がんりゅう)』と号する。
時は慶長17年4月。
世間からは天下一と評され、藩主・細川忠興公に剣術指南を施すなど多忙で充実した日々を送っていた。
そんなある日のこと…。
※この物語は史実に基づいたフィクションです。
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1.ダーク小次郎の意地
※画像引用元:小倉城 - Wikipedia
ダークどの~、たっ大変でございます!!
どうした、波呂。そのように血相を変えて…。
波呂(はろ)は、小倉城下で拙者の身の回りの世話をしてくれている小姓である。
あ…あのフィグマ武蔵が、小倉へ下ってきたとの噂!
武蔵と言えば、京の都で吉岡を倒したという男のことか?
吉岡家は代々、かの足利将軍家の剣術指南役だった由緒正しい家である。
フィグマ武蔵は、当主・吉岡清十郎以下100名余りの門弟をたった独りで打ち負かし、断絶に追いやったという。
武蔵がこの小倉に…それは確かか?
いかにも。武蔵と同じ播磨国(現在の姫路)出身の地つき牢人、須奴比とやらが申しております。
須奴比(すぬうひ)か…。よし、話を聞いてみよう。
おぬしが須奴比か。
武蔵がこの小倉に逗留しているとのこと、まことか?
……左様でござる。
武蔵は確か二刀流の使い手で、吉岡一門をことごとく打ち破ったと聞いておるが、怪しいものじゃ。
いかにも眉唾ものであるが…?
無礼な! 我が播州の剣客、フィグマ武蔵どのこそ天下一の兵法者でござる!!
なっ、なんだと!?
この巌流・ダーク小次郎を差し置いて天下一とは片腹痛いわ!!
武蔵など、拙者がひと太刀で成敗してくれる!!!
……なんじゃ、騒々しいのう。
一体どうしたのじゃ、ダーク。
あっ!
五爾羅どの!
五爾羅(ごじら)どのは、細川家の筆頭家老である。
……なるほど、面白い。
なら、どちらがまことの天下一か、いちど試合ってみてはどうじゃ?
望むところでござる!!
まさか武蔵、臆して逃げ出すのではなかろうな…ふふっ ♪
なっ…フィグマどのに限ってそのようなことはござらん!
今すぐ試合の件、伝えて参る!!
よし、決まりじゃな。
五爾羅どの、拙者は単なる稽古試合とは考えておりませぬ。これは決闘でござる。
当日の得物(えもの:武器のこと)は真剣にて試合いとうございます✨
結構。では須奴比、フィグマ武蔵にも得物の種類を聞いて参れ。
ははっ…。
2.フィグマ武蔵の兵法観
……と、いうわけでして💦
おいおい、「と、いうわけで」とちゃうやろ💢
勝手に安請け合いしやがって…俺は旅の途中で立ち寄っただけやで。
いや、そこを何とか…。
フィグマどのも、本当はダーク小次郎の噂を聞きつけてはるばる小倉に参られたのでは?
むぅ……💧
拙者、ダークがこの小倉藩でデカい面してのさばってるのがどうにも気に入らぬ。
フィグマどのがヤツを倒して下さったら、同じ播州武士としても鼻高々でござる。
……ところで、小次郎は一体どんな剣技を使うんや?
フィグマどの、し…試合って下さるのですかぁ!?
早合点するな、ちょっと興味があるだけや。
わかる範囲でええから教えてくれ。
ダーク小次郎の得物は、『物干竿』と云われるほどの大太刀。
橋の下をくぐって飛来する燕に、ひと太刀浴びせる。
燕が身をひるがえしたその瞬間、刃を返して跳ね上げ、すかさず斬る。
その名も『燕返し』…。
刀身は長ければ長いほど良く、太刀筋は速ければ速いほど良い。
太刀の長さと速度こそが、巌流のすべてでございます。
ふぅん……。
……違うな。
俺の兵法観とは全然違う。
得物の長さの優劣は闘いの場によって変わるから、最初から「長い方が有利」と決めつけたらあかん。
それに、太刀筋は速ければ速いほど良いわけやない。相手の出方によっては、むしろ太刀はゆっくり振ったほうがええ。
その時の状況に応じて柔軟に変化すること。
太刀を速く振る以前に、まず燕をじっくりと観察することが大事なんや。
……よし。此度の試合、受けてみるか。
ま、まことでござるか!? よっしゃあ~!!!
あ、ところでフィグマどの、当日の得物は何をお使いになりますか?
向こうは真剣で来るようですが…💦
小次郎が真剣で来ることに異存はない。
こっちは『刀』を使うと言っておけ。
それは、どのような刀を?
刀と言えば刀や。それでええやろ。
……ふん、わざわざ手の内を見せるようなことするかいな。
常に相手の裏を掻く。試合前の駆け引きも勝負のうちや。
再び、小倉城…。
……ということでござる、五爾羅どの。
なるほど。噂に違わぬ人物じゃの、フィグマ武蔵…。
ふん、どうせこけおどしのチャンバラ二刀流であろう ♪
わはは~🎵
…くっ💢
試合の場所は船島(ふなしま:現在の巌流島)。
試合日は1週間後の4月13日、辰ノ上刻(午前8時)じゃ。よいな?
ははあっ!!
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3.物干竿に対抗するには…?
ダークどの、武蔵はどんな戦法を使ってくるでしょうか…。
案ずることはあるまい。
二刀流など児戯のようなもの。実戦の役には立たぬ。
もう拙者が勝ったも同然じゃ ♪
……フィグマどの、此度の試合はやはり得意の二刀流でござるか?
…………。
剣術勝負は、太刀の長さや速さだけで決するんとちゃう。
けど今回の試合場はひらけた場所やから、長い太刀の方が有利や。
須奴比の内偵によれば、小次郎の『物干竿』は刀身3尺1寸2分(約95㎝)。
俺の太刀も3尺8分(約93㎝)と、普通と比べたらかなり長い特注品やけど、わずか4分の差が勝敗を分けるかもしれん。
そうは言っても、物干竿より長い太刀をあと1週間で刀鍛冶に造らせることは到底無理や。
さて、どうするか…。
……ん?
……これやっ!!
<後編につづく>
2020年も当ブログをご愛顧頂きありがとうございました。
今回が今年最後の記事になります。
読者の皆さま、良いお年をお迎え下さい🎶
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