前回述べた『診療参加型臨床実習』を行なうに際して特に大切なことは、学生が実施可能な(法的に許容される)行為の範囲、及びその水準を明確にすることです。
これは、PT実習生に理学療法技術を実施させるに当たり「無資格診療」との指摘を受けないようにするためにも重要です。
例によって一部私見を交えて記述させて頂きますので、何とぞご容赦下さい。
※参考資料:以下のウェブページをご覧下さい。
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7.違法性の阻却に必要な4要件
1)医学生(医師の実習生)の場合
医学生の実習については、1968年のインターン制度廃止など時代背景に応じて変革してきました。
そして1991(平成3)年に厚生省で取りまとめられた臨床実習検討委員会最終報告(いわゆる「前川レポート」)において、以下の条件が明示されるに至ります。
<臨床実習において医学生に医行為を行わせるために必要な4条件>
Ⅰ.侵襲性のそれほど高くない一定のものに限られること。
Ⅱ.一定の要件を満たす指導医による細やかな指導・監視の下に行わせること。
Ⅲ.臨床実習前に、医学生の評価(CBT・OSCE)を行うこと。
Ⅳ.医学生である旨の明確な紹介、及び患者等の同意を得て実施すること。
これらは、医学生による医行為が違法でないとする法的根拠(=違法性の阻却)のベースになっています。
2)PT実習生の場合
臨床実習における学生の理学療法行為が「無資格診療ではないか?」との指摘を受けた昨今、PTも医師等に倣い、違法性の阻却に必要な4つの要件が示されることとなりました。
項目的には、医学生とほぼ同一と言ってよいでしょう。
①患者等に同意を得た上で行う
前回の記事(PT学生における『診療参加型臨床実習』)で同意書の一例を提示しています。
②臨床実習指導者の指導・監督の下で行う
今回の『PT・OT養成施設指導ガイドライン』改定により、指導者要件が他の医療関連職とほぼ同等(5年以上の業務経験+指定研修修了)になりました。
③侵襲性がそれほど高くないと判断した行為は行える
※後述。
④臨床実習前に学生の評価を行う
これも前回の記事で述べましたが、現時点ではCBT・OSCEなどの試験は義務化されていません。
今後は全国統一化の方向で検討されるとの事です。
※参考資料:厚労省『理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会報告書 平成29年12月25日』
8.PT学生に許容される行為の範囲と水準
「侵襲性がそれほど高くない」と判断するためには、学生の間に経験しておくべき(すなわち、一般的な臨床現場でPTに求められる)基本的な理学療法技術の水準を明確にしておく必要があります。
そこで今回、理学療法行為の侵襲性・リスクの程度等から3段階に分類されることとなりました。
これも例によって、医学生・看護学生における水準設定をベースにしているようです。
字が小さくて申し訳ございません… (^_^;)
※引用元:日本理学療法士協会 資料『臨床実習において学生が実施可能な基本技術の水準について』
水準1:指導者の直接監視下で実施されるべき項目
水準1の技能は、実習中に修得し、患者さんに対し実践できるまでを教育目標としているようです。
一般的な介助・評価・治療技術がここに含まれていますが、低リスクの患者さんに限られることが条件です。
「直接監視下」というのも大事なポイントです。
仮に優秀な学生だったとしても、指導者がその場を立ち去る(目を離す)ということはあってはなりません。
水準2:指導者の補助として実施されるべき項目および状態
模擬患者やシミュレーターで技術を修得し、患者さんに対しては補助的に実施するまでを目標としています。
要は、「指導者のお手伝い・介添え」程度に留めるということでしょうか。
急性期疾患や、各種チューブが挿入されているようなハイリスク状態の患者さんを想定しているようです。
水準3:見学に留めておくべき項目および状態
患者さん(ご家族)への各種説明・教育・指導などが含まれますが、これは担当PTとしての責務であり当然のことでしょう。
喀痰吸引については、PTが実施する技術の中でも「体腔内にチューブを挿入する」という極めて例外的なものです。
特に侵襲性の高い手技なので見学に留めるのは妥当ですが、その分、学内教育や卒後教育の充実が求められます。
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<今回のまとめ・次回予告>
遅ればせながらPTの実習においても実施可能な水準が設定されたわけですが、実際に運用するとなると、現場の判断がなかなか難しそうです。
例えば『関節可動域運動』や『各種動作練習』は水準1に設定されていますが、これらは対象者が急性期・ハイリスクの状態であれば、水準2に上がります。
では、「人工股関節置換術後のリハビリ」の場面ではどうでしょうか?
通常、手術した翌日から股関節の可動域運動や車いすへの移乗練習などが開始されます。
人工股関節は術後3週ぐらいの間は特に脱臼リスクが高く、そうでなくとも動かす際に痛みを伴うものです。
これを「急性期・ハイリスク状態」と捉えるなら、学生はあくまでも補助的にしか関われず、結果として卒後教育への負担が増します。
※画像引用元:人工関節センター - 大阪急性期・総合医療センター
医師・看護師も含め、実施水準が厳密に設定された背景のひとつに「患者さん等の権利意識向上」があります。
それはそれで大事なことですが、長期的に見た場合、患者さん、ひいては世のため人のためになるかどうか微妙ではあります。
ともかく、上記のような症例の場合、患者さんやご家族の同意はもちろんの事、危険性の度合いや学生の能力などを総合的に勘案し、「どこまで補助すべきか?」を的確に判断しなければならないのでしょう。
言うまでもなく、「指導者のスキルと経験」が非常に重要となるわけですね。
次回は、実習におけるハラスメント防止に関する内容をお伝えする予定です。
しばしお待ち下さい m(_ _)m
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