伝達講習の最終回は、PTの実習で特に問題視されている
◆アカデミックハラスメント(以下、アカハラ)
これらの防止対策についてご説明します。
学生に発奮を促すための言動が「ハラスメント」と指摘されてしまう事にならないよう、ここでしっかりとパワハラ・アカハラの内容を整理しておきましょう。
※参考資料:以下のウェブページをご覧下さい。
www.sh-help.provost.nagoya-u.ac.jp
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12.『パワハラ・アカハラ』とは?
セクハラと同様、PT実習に特有の定義が存在するわけではありませんが、ここでは実習生を労働者に準ずる立場とみなし、まずは職場におけるパワハラの定義について確認しておきましょう。
1)職場におけるパワーハラスメントの定義
以下の3つの要素をすべて満たすものです。
①優越的な関係を背景とした、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、
③就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)。
※適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たりません。
※引用元:厚労省 資料『パワーハラスメント対策が事業主の義務となります! ~セクシュアルハラスメント等の防止対策も強化されます~』
2)アカデミックハラスメントの定義
「研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為」
※引用元:NPO アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)
「教員 or 実習指導者→学生」という関係性の下で生じるパワハラの派生型とも言えるものです。
3)実習中のパワハラ・アカハラ具体例
◆指導をしない。必要な情報を伝えない。挨拶を無視する。
◆大声・怒鳴り声で話したり、指導する。
◆「実習をする資格がない」「この仕事に向いていない」「やる気がないのであれば帰れ」などと言う。
◆他の実習生と比較するような発言や、実習生の能力の低さを必要以上に指摘する発言をする。
◆「不当な課題達成」を強要する。
◆不当に低い評価をしたり、単位を与えない。
◆実習と無関係な雑用を強いる。
◆自分の考えを過度に押しつけた指導を行う。
◆実習生はこうでなくてはならないとの信念があり、その信念から外れた実習生は「ダメな実習生」とレッテルを貼る。
※参考資料:大阪府養成校協議会『2019年度臨床実習指導者講習会 講義資料』
13.パワハラ・アカハラ判断に関する注意事項
セクハラでは「受け手が不快に思うかどうか(不快性)」が重視されるのに対し、パワハラ・アカハラでは「客観的な判断(不当性)」が重視されるようです。
◆指導との関連性・必要性
⇒教育的見地からの指導か、単に「気に入らない」だけか?
⇒過大な要求(作業課題)を与えていないか?
⇒不当に低い評価をしていないか?
◆言動の内容・態様(暴言・暴行)
⇒人格を否定するような発言か(名誉毀損・侮辱)?
⇒言い方が威圧的・陰湿的ではないか?
⇒回数はどうか?
◆発言の場・日頃の環境
⇒発言の場に配慮(第三者がいる場)はあったか?
⇒普段の実習環境に様々な配慮があったか?
すなわち、
◆指導者の言動に「相当性」があったかどうか
⇒実習指導という目的を達成するための手段として、適切だったか?
これがパワハラ・アカハラにおける違法性判断のポイントになると考えられます。
14.PT実習でパワハラ・アカハラが起こる理由
1)嫌がらせの意図を持って積極的に加害を行っている場合
言語道断ですが、実際に実習生が自殺した事例では、指導者による
「(間違った方法で検査をしても)意味がないから中止」
「今日はもう(患者さんを)見せたくない」
「帰れ」
などの発言が、裁判では実質的にパワハラ認定されています。
私と同世代のPTたちも、学生の頃には非常に厳しい実習指導を受けてきたものですが、それを教訓として
今の学生には、同じような理不尽さを与えないように注意して指導しよう。
ではなく、
自分もパワハラに耐えてきたんだから、後輩にも同じような仕打ちを…。
とばかりに、まるでイジメの連鎖のようになってしまっている指導者も一部存在するのが現実であり、痛恨の極みです…。
2)嫌がらせの意図は無いが結果として相手を傷つけた場合
熱意を持って発破を掛けるつもりの発言が問題視されてしまったり、実習においては「日常会話」の一部と思っていた発言がパワハラに…ということも多いようです。
不謹慎ですが、「うっかりハラスメント(?)」と言うべきなのでしょうか…。
私自身、過去に実習指導者をしていた時のことです。
担当患者さんの疾患について調べておくように再三指示したにもかかわらず、全く学習してこなかった実習生に対し、
「そんなんじゃあ、今日は患者さんを見せられないよ」
と叱ったことがあります。
調べるといっても、
ネット検索で見つけた文章を実習日誌にコピペして、大事な箇所にアンダーラインを引いておくだけでいいよ。
と、時間外課題が重荷にならないよう充分配慮したつもりだったのですが…。
しかし、パワハラ・アカハラの定義からすると「患者さんを見せられない」という発言はちょっと問題があるかも知れません。
どんな言動が「実習指導上、正当では無い」とみなされる可能性があるのか、しっかり認識しておく必要があるかと思います。
15.パワハラ・アカハラ防止策
当然ながら、「組織対策」と「個人への働きかけ」の両面が必要になります。
基本的な防止対策はセクハラの場合と同様なので、お手数ですが前回の記事をご参照下さい(PT実習におけるハラスメント防止対策…①セクハラについて)。
ここでは、実習指導者として留意すべきポイントに絞って記載します。
1)パワハラ・アカハラを知る
まずは、どんな言動がパワハラ・アカハラに該当するのかをしっかり確認しておきましょう。
冒頭でご紹介した厚労省の資料等に、懇切丁寧に記載してくれていますので是非参考にして下さい。
実習指導者(いわゆるスーパーバイザー)がハラスメントの知識を習得するのは当然ですが、職場を統括する立場にある管理職の方々は、特に深い理解が必要となります。
リーダーとして、「この職場(臨床実習)からハラスメントを無くすべき」という明確なメッセージを発することが、とても重要だからです。
2)指導時のチェックポイント
◆指導内容の具体化
⇒何が問題で、どのように改善すれば良いのかを明確に示す。
◆指導時間の考慮
⇒リミットを最初に決めておく。人の集中力はせいぜい30分~1時間。
◆肯定的なフィードバック
⇒良い面や努力したことを認める。
⇒当たり前のことでも、きちんと出来ていることに関しては褒める。
⇒具体的にどこがどう良かったのかを伝える。
◆何度目の指導?
⇒今までの指導が効果的でないと感じるなら、方法の変更を考慮。
3)叱るときのポイント
◆怒りをコントロールする
⇒「怒る」と「叱る」は異なる。相手の人間性を否定するのではなく、事実を伝えること。
⇒感情的にではなく、社会や勉学のルール・理論などを冷静に説明すること。
◆指導は「一番搾り」で
⇒改善点は、優先度の高いものをひとつ厳選して指導する。達成したら、また次の目標設定を行う。
◆考える能力を身につけさせること
⇒「同じ失敗を繰り返さないようにするにはどうすれば良いのか」を自分で考えさせる。
◆「褒める→叱る→褒める」のサンドイッチで
⇒叱るとは、望ましい行動を促す動機づけ。「褒めるために叱る」ことが大切。
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16.さいごに
臨床実習指導者講習会の内容をまとめた伝達講習シリーズ。
当初は3回程度で終わるはずが、ずいぶん長くなってしまいました。誠に申し訳ございません。
最後はやや理想論的な内容となってしまい、現場の指導者の方々からは「そう簡単にはいかないよ」という厳しいご意見も出てきそうです。
昨今、教師やスポーツ指導者等の体罰・パワハラが世間を騒がせており、PTの実習指導に対する厳しいご指摘もその延長線上にあると思われます。
ハラスメントに対して厳しい世の中は、社会が成熟した証拠でもあり基本的には歓迎すべきですが、一方で職場の上司や教育者は必要以上に萎縮していることも事実です。
実際、あからさまなセクハラは別として、熱心な臨床指導とパワハラ・アカハラは時に紙一重であり、明確な線引きが難しい場合も多々あることは承知しています。
なかなか難しい問題ですが、まずは指導者側・学生側の双方が正しい知識を身につけて対処していくことが肝要ではないかと私は考えています。
そして、現代の社会通念に合わせた「褒めて育てる教育法」と、真に患者さんのためになる「厳しくも充実した実習指導」を両立させられるよう、現場のPTとして試行錯誤していきたいです。
また、いちPTとしての意識向上も必要ですが、職能団体として現状を共有することも大切です。
私自身は日本理学療法士協会の幹部ではなく、しがない「いちPT」に過ぎません。
それでも、この記事をご覧になった療法士の方々が今回の指定規則・指導ガイドライン改定の趣旨を理解し、PT協会の下、さまざまな問題に対処すべく相互に協力して下さることを強く望みます。
皆さま、何とぞよろしくお願い申し上げます。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
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