度を超えたヘアカラー・無精ヒゲなど、身なりのだらしない医療従事者は、医療人である以前に社会人としても困りものです。
ところが「医療業界の常識は一般社会の非常識」と揶揄されるように、基本的な接遇マナーさえ身についていない医療従事者が意外と多いことに驚かされます。
前回と同様、医療・リハビリを受ける一般の方々にとって参考になれば幸いですが、逆に医療従事者にとっては耳の痛い話もあるかと思います。閲覧注意です。
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1.接遇教育に関心のない病院経営者
昨年まで私が勤めていた病院では、年1~2回程度の「接遇研修」は行われていたものの、全ての職員が参加するわけでもなく、実質的には形骸化している状態でした。
もちろん、職員の身だしなみ・言葉づかいなど接遇のレベルは目を覆いたくなるものでしたが、どの部署も現状を改善しなければならないという認識が乏しいように見受けられました。
あれは、管理職(リハビリテーション科の科長)として入職し3ヶ月ほど経ったころの事だったと記憶しています。
法人の理事長(経営者)と面談する機会があった際、
この病院を発展させるために、何か提案があれば遠慮なく言ってみたまえ。
そう促されたので、これ幸いとばかりに上申しました。
これからの医療機関は、おもてなしの良し悪しで選ばれる時代です。
以前勤めていた職場では“接遇委員会”が主導して職員教育を行っていました。プロの接遇インストラクターも外部から招聘していました。
それでずいぶん接遇が改善したように思います。
当院でもそのような事をしてみてはいかがでしょうか?
しかし、理事長はあまり興味が無かったようでした。
今は目の前の課題(病棟稼働率の低下による収益の落ち込み)をひとつずつクリアしていかないといけないからな。
まぁ、接遇もそのうちにな。
2.まずはリハビリテーション科から
そこで私は、直属の上司(部長)の了解を得た上で、まず自部署内で接遇教育を徹底することから動き出します。
本当は病院全体で統一的に行うべきなのですが、トップダウンが不可能であれば逆に「ボトムアップ」で私自身が率先して実行し、成果を挙げたうえで経営者を納得させようと考えたのです。
手始めに、身だしなみ改善のための相互チェックから行うことにしました。
もちろんこのような試みについては科内会議で部下に提案し、全員の意見を取り入れた上で開始します。
なぜなら、「ヘアカラーの是非」など、病院全体での統一見解が無く、就業規則にも明記されていない事を部下に求めるのは、ヘタをするとこのご時勢「パワハラ」と言われかねないからです。
予想通り、さっそく異議を申し立てるスタッフが現れました。
入職して2年目、茶髪の王子様系イケメンPT「Kさん」です。
すなお科長、髪の毛の色とPTの仕事に何か関係があるんですか!?
Kさん。もし貴方のお父さんが病気で入院し、リハビリが始まったとしようか。
担当のPTが紫色の髪で「担当の◯◯です、よろしくお願いします」といって目の前に現れたら、貴方はご家族としてどう感じるだろうね。
む、紫色って…それは極論でしょ? ダメに決まってますよ。
では、どれくらいまでなら許せるのかな。
それは…。
だからね、やっぱり基準というか、一応の目安は決めておく必要があると思うんだよ。
①身だしなみチェック
学校の生活指導などで使われるようなヘアカラースケールを提示し、「ここまでならOK」という基準をスタッフ全員の合意の下で設定しました。
※画像引用元:東京カラーズ株式会社
そして毎週月曜の朝のミーティングで「身だしなみチェック」を行うことにしました。
チェック表の内容は以下の通りです。
これを配布し、2人ひと組でチェックし合います。
②接遇ミニ研修
さらに他の曜日については、日替わりローテーションで以下の『接遇ミニ研修』を行うようにしました。
内容的には、ミーティングの最後の5分間で実施できる程度のものです。
◆お辞儀の練習
◆言葉づかいの練習
◆接遇ロールプレイング(実際の場面を想定した寸劇)
※これらの内容はまた機会があれば記事にします。
「年1回、2時間みっちり」というような研修のやり方では、接遇はなかなか身につきません。
筋力トレーニングや試験勉強などと同様、「少量頻回」で毎日コツコツ続けることが、学習理論的にも妥当のようです。
「身だしなみチェック」は皆の同意で開始したにもかかわらず、またKさんが異論を唱えました。
月曜だけチェックしても意味ないと思うんですけどね。
他の日は守ってなくても注意されないんでしょ?
やれやれ…。
身だしなみチェックは、スピード違反の取り締まりとか、中学・高校の生活指導とは違うんだよ。これをきっかけにして、私たち医療従事者が身なりを整えることの真の意味をみんなに考えて欲しいんだ。
それが理解できれば、他の曜日でもそれぞれが自主的に行なえるようになるはずだからね。
3.病院全体には広がらず…
接遇研修はまず形から入りますが、我々はすでに大人であり社会人ですから、その「形」がなぜ大切なのかを努めて理解しなくてはならないのだと思いますし、強制されなくともできるように意識すべきでしょう。
心の中でいくら相手のことを思っていても、それを適切な言葉とか態度にして示さないと伝わりませんし、伝わらなければ「思っていない」のと同等であると言えます。
接遇とは、おもてなし・思いやり・いたわりの気持ちを形にして伝えることです。
私はそう言って、粘り強く接遇教育を続けました。
そして数年後、ある外部機関が行った患者さんへのアンケート調査で、リハビリ科は接遇に関して際立って高い評価を頂くことができました。
しかし、やはり理事長や他部署の関心を引くことはできず、病院全体のムーブメントには結びつけられませんでした…。
自分の力の無さを痛感した次第です。
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4.「身だしなみ」と「おしゃれ」は違います
余談が長くなってしまいましたが…。
身だしなみについてはその時代ごとの価値観や風習・常識に大きく左右されます。
実際、江戸時代まではちょんまげ・月代といったヘアスタイルが普通だったわけですから。
そういう意味では、茶髪などの社会的許容度も昔とは違うでしょうし、どこで線引きをするのかは私自身も明確には申し上げられません。
ただ、おおよそ誰が見ても不快感・不潔感を感じさせない(自然に見える)ように身だしなみを整えるのが医療者として当然なのは、ほぼ全ての方々に同意して頂けるのではないかと思いますし、他のサービス業などにも当てはまる事ではないでしょうか。
また、爪や髪の長さ(束ねているかどうか)・貴金属類の装着などに関しては、感染対策とか、介助の際の安全性といった点も考慮しての事であるのは言うまでもありません。
医療従事者としてふさわしい「身だしなみ」と、個人の趣味としての「おしゃれ」を混同しているPTないし医療従事者は、自分の身なりが患者さん(ご家族)にどのような印象を与えるのかといった客観的な見方ができず、自分目線で己の格好良さを見せつけることにしか興味・関心がないのでしょう。
そういう人が、きちんと患者さんの状態を観察し健康と命を守るため迅速に行動できるのかというと、ちょっと疑問ですよね。
民間の病院・施設であっても、国家資格を有し診療(介護)報酬を得ることで成り立つ医療従事者である以上、「自分の髪を何色に染めようがヒゲを伸ばそうが、個人の自由だ」とは言えない、というのが私の見解です。
「おしゃれ」は業務終了後や休日に思う存分楽しめば良いし、勤務中は患者さん目線で「身だしなみ」を整えるというように、メリハリをつければ良いだけだと思います。
不快感を与えない、いつも清潔感ある身だしなみの医療従事者は、ちゃんと患者さんのことを大切にしてくれると信じています。
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