すなおのひろば

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【こんなPT要注意!:その5】診療内容に一貫性の無いPT

f:id:sunao-hiroba:20190408105040p:plain病院・介護施設等で行われるリハビリは、将来の見通しや到達目標に基づき計画的に進められる必要があります。

ところが、目標・方向性が曖昧なまま、その都度実施する内容がコロコロ変わり、その理由すら説明できないPTも残念ながら存在しています。

なぜこのような事が起こってしまうのでしょうか?

 

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1.コロコロ変わるリハビリ内容…4つの理由

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例えば、脚力を向上させるための筋トレを行うに際して、

・今日はスクワット(太ももの筋肉)
・翌日はヒップアップ(お尻の筋肉)
・その次の日はかかと上げ(ふくらはぎの筋肉)

このように毎回コロコロと実施内容が変わってしまうことがあります。

筋トレは最低でも1ヶ月は継続しないと効果が現れないのが定説ですが、鍛える筋肉が毎回違っていて同種の運動が二度と行われず、全く一貫性が感じられないような場合は、ちょっと注意すべきでしょう。

リハビリの実施内容が日々変化する理由として、以下のようなケースが考えられます。

①評価(アセスメント)のため

◆脚力をつけて、日常生活動作(歩行・階段昇降など)の実用性を向上させる。

◆腰痛を自身でコントロールできるようにして、最終的に職場復帰につなげる。

このような「リハビリによる到達目標」を明確にするためには、まず患者さんの現状を評価しなくてはなりません。

とくにリハビリ開始当初は身体能力をしっかりと把握し、当該患者さんにとって最適な治療法を選択するために様々な方法を試してみる必要があります。

例えば、大腿四頭筋(太ももの前面)を鍛えるには自重を用いた筋トレ(立ち座りやスクワット)が最も効果的ですが、膝関節にも相応の負荷が掛かります。

実際に行ってみて翌日膝の痛みが出現するようなら、より負担の少ない、イスに座ってウェイトを装着した「膝伸ばし運動」に変更するといった措置を取るのが妥当です。

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このように、評価を念頭に置いたリハビリ内容の試行錯誤は、概ね正当であると思われます。

②病状の変化(改善 or 悪化)が大きい場合

例えば、

脳卒中の発症から1ヶ月以内。

◆骨折の手術直後。

このような状態の変動が大きい「急性期」に関しては、患者さんの回復度合いに対応するため、リハビリの内容も毎日のように更新していく必要があります。

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これも診療行為として適切であるのは言うまでも無いでしょう。

③診療内容に自信がない場合

リハビリでは、「同じ内容を地道に1ヶ月以上続ける」といった粘り強さが時として必要になります。
これは別の言い方をすれば、1ヶ月間は目立った改善がみられない可能性もあるという事です。

こういう時、患者さんとしては不安になりますが、そこで「続ければ必ず効果が上がる」ということを根拠に基づき具体的に説明するのが、PTとしての重要な役割です。

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ところが経験の浅い(または勉強不足な)PTは、患者さん以上に「結果がすぐに出ない」事に対して焦りが生じ、コロコロと実施項目や指導内容を変えてしまいがちです。

「もしや自分のアプローチ方法が間違っているのでは…」と疑心暗鬼になってしまうのでしょうが、これは悪い意味での試行錯誤になりかねません。

④ただの「思いつき」で行っている場合

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こういうPTが居ないことを願いますが…。

つねに「最適の解」を求めようとせず惰性で診療を行っているPTは、このような事もあり得るでしょう。

 

2.一貫性の有無を見分けるには

患者さん側から前記①~④を見極める方法としては、その担当PTが

内容を変更する理由について、その都度分かりやすい言葉を用いて納得のいく説明ができるかどうか。

でおおよそ判断できると思われます。

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もちろん説明責任はPTの側にあるのですが、自分の評価・治療内容に自信の無いPTほど、自ら口を開くことを躊躇するものです。

なので、納得のいかない事や不明な点があれば、患者さんの当然の権利としてどんどん質問をぶつけていくべきでしょう。


医療機関では、クリニカルパスというものを運用することがあります。

これは疾患や手術ごとに標準的な治療(リハビリ)のタイムスケジュールを示した「工程表」のようなものです。

例えば人工膝関節(※下図参照)の手術では、通常は遅くとも術後4週間(早ければ2週間程度)で日常動作が自立し、退院となります。

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※画像引用元:人工関節ドットコム


それでも手術直後はまだ創部が痛むので、心身ともに気分がすぐれず不安になる患者さんも多くいらっしゃいます。

そういう場合、クリニカルパスに沿って

「まずは平行棒の中で歩く練習から始めましょうか。順調にいけば、1週間もすれば歩行器で病棟のトイレまで歩けるようになりますよ」

「2週間が経ったので、歩行器で病棟の中をどんどん歩いて下さいね。リハビリでは私と一緒に杖で歩く練習も始めましょう」

f:id:sunao-hiroba:20181110150822p:plain「いま3週間で、膝の曲がる角度は110°です。順調にいってますね。120°曲がれば、階段の上り下りもかなり楽になりますよ。退院までに、この運動で膝をもう少し柔らかくしていきましょう」

「ご自宅では床に座る必要があるとの事ですので、床に座ったり、そこから立つ練習もしておきましょうか」

このように具体的な方向性(見通し)を明示していけば、患者さんのモチベーションも自ずとUPするものです。

「リハビリの工程表」を言葉でよどみなく呈示できるPTは、充分に信頼できると言ってよいでしょう。

 

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3.若手PTの方々へ…思考プロセスを伝えましょう

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前回の記事(診療内容について説明不足なPT)でも述べたように、ベテランPTであっても「問題点」がすぐには明確にならず、疑心暗鬼に陥りがちなケースも少なくありません。

ここで大切なのは、思考プロセス(専門職として現状をどのように評価し、いかなる推論を立てているのか)を患者さんにきちんと伝えるということです。

例えば『肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)』などは、痛みや関節の動きを制限している部位が不明瞭な整形外科疾患の代表です。

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私はそういう時、いつも「骨模型」とか「解剖学のテキスト」などを患者さんに示しながら説明します。

「いま◯◯さんの右肩を外へ広げた時、こことここに痛みがありましたね。私の現時点での見方としては、ここにある△△靱帯の硬さがおもな原因になっていると考えています」

「この骨模型をご覧下さい。こうやって動かすと、この靱帯が引っ張られますよね。こういう原理になっているんですよ」

「先ほど試してもらった運動を、自宅でも自主トレーニングとして続けて下さいませんか? この動きはいまお見せしたように、△△靱帯をストレッチする効果があるんです」

「硬くなった靱帯は電子顕微鏡で見ると、もともと真っ直ぐ綺麗に並んでいるコラーゲン線維が、複雑に絡まってしまっている状態なんです」

「毎日20回×3セットを1ヶ月続ければ、絡まったコラーゲンがほぐれて柔らかくなっていくと言われています。根気よく続けることが大切です」

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「私の考えがピッタリ合っていれば、1週間程で効果が出始めるはずです。これを毎日行って頂いた上で、また1週間後に見せて頂けますか?」

「もしあまり効果が無ければ、いまの推論は間違っているのかもしれませんので、別の可能性も検討します。1週間後の状態によって、この運動を続けて頂くかどうかを判断したいと思います」

実際、このようにリハビリの結果から当初の推論が正しかったのかどうかが初めて明らかになるケースも珍しくないものです。

ここが、「PTはとかく経験主義的で科学的根拠に乏しい」と揶揄される所以でもあるのですが…。
誤解を怖れずに言えば、分からないことは「分からない」と認める勇気も必要だと思います。


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ともかく、患者さんの現状に共感し、専門職として熱心に探究する姿勢を前面に出せば、患者さんはそれに反応し、PTとともに苦しい状況を乗り越えて下さるものです。

お互いの信頼関係が構築されることで、はじめてリハビリテーションが成り立つのだと信じています。


次回は逆に、診療内容に変化のなさ過ぎる「ワンパターンPT」について言及したいと思います。

 

 

www.sunao-hiroba.com

 

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