医療・介護現場で働くPT、およびリハビリテーション部門責任者の中には、人手不足を実感している方も多いことでしょう。
それに呼応する形で、この20年ほどの間にPTの有資格者数は爆発的に増加してきました。
一方で病院・施設経営者としては、超高齢社会に向けて今後増員を検討してはいるものの、具体的には決めかねている様子も見受けられます。
これらの事象について掘り下げてみたいと思います。
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※当記事の作成にあたり、下記のウェブページを参考にさせて頂きました。
1.経営者側が増員に慎重な理由
前回の記事(その11:①調査結果から考える)で提示したように、運営上の人員は充足していないことが分かっていても、増員に対して慎重にならざるを得ない最大の理由は、収入と人件費のバランスが崩れることに対する懸念からです。
昨今、病院の経営は非常に厳しいものとなっています。
その主な理由としては、高齢化によって医療を始めとする社会保障費が増大し、国の財政を圧迫していることです。
一定の税収のなかでやりくりする政府としては、医療に掛かる膨大な費用を少しでも減らしたいわけで、てっとり早いのが診療報酬の引き下げです。
そうなると、商品の値段が下がる(すなわち収入が減る)病院としては経営が苦しくなるのも当然ですし、もちろんそれはPTの雇用数抑制(あるいは、雇用を維持または拡大しながら給料を減らしていく)ということにもつながるわけです。
医療現場においてPTを増員するかどうかの経営判断は、今後の医療・介護保険制度の動向によって左右されると言えます。
厚労省の調査で、雇用拡大の可能性について「未定」と答えた施設が多かったのも、将来の公的医療・介護制度に対する不透明感からくるものでしょう。
リハビリテーションに関連する診療報酬はここ20年間、実質的な引き下げが続いています。
この傾向は高齢者医療費の増大に伴い今後しばらくの間続くと思われますので、全体的に厳しい状況であることは間違いありません。
仮に雇用を増やすとしても、前述のように給与は相対的に抑えられる傾向となるでしょう。
実際、ここ10年間のPTの平均年収は大体400万円前後とほぼ横ばいですが、今から20年ほど前(私が資格を取った頃)は平均430万円くらいでしたから、全体としては減少傾向にあります。
ちなみに他の医療専門職(医師・看護師・薬剤師等)は過去20年間で着実に増加しており、減少しているのはPTだけ、といったデータも出ています(図1)。
図1:「主な医療関係職種の給与水準」
◆主な医療関係職種の給与⽔準は、加重平均でみて、上昇トレンドを続けてきた。
◆医療関係職種の中でも、特に医師・⻭科医師・薬剤師などの給与⽔準の伸びが⼤きい。
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2.増え続けるPT・減り続ける給与
2018(平成30)年時点でのPTの累計人数は、約15万人です。
要介護高齢者の増加等によりリハビリテーションのニーズそのものは年々高まっており、それに呼応するようにPTの数も増大してきました(図2)。
図2:「理学療法士数の推移」
私がPTになったのは1998(平成10)年です。当時のPT累計数は約2万人でしたから、この20年で実に7~8倍も増えたのですね…今更ながら驚きです。
2000(平成12)年当時の厚労省における検討会のなかで、「2004(平成16)年時点で、PTの必要数は46,000人」と見込まれていました。
小泉政権下において1999(平成11)年に養成校新設の規制緩和が行われた結果、2006(平成18)年あたりで有資格者が5万人を超え、計算上は需要と供給が逆転したということになります。
しかし、需要というものは社会の要請や制度改革に応じて変化するものです。
回復期リハ病棟や地域包括ケア病棟の創設、介護保険のリハビリサービス増加なども相まって、現段階では養成校を卒業したPTの99%は無事就職できており、雇用は「今のところ」安定していると言えます。
ただ、人員の激増と診療報酬の引き下げは結果としてPTの給与の減少をもたらしました。
年収400万円前後は、普通に生活していくには問題ない金額とは言えますが、一般サラリーマンの平均額には及びません。
私個人としてはあまりお金のことを言いたくはありませんし、「お金儲けをして裕福な暮らしがしたい」という方は、そもそもPTという職業を選ばなくても良いと考えていますが、人それぞれに価値観や生活事情があるとも思いますので、いちおう言及させて頂きました。
このような現状を踏まえ、次回の記事では今後PTがどのような方向へ活動の場を拡げていくべきなのかを検討していきたいと思います。
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