最近では「PTは供給過多で、そのうち溢れかえる…」といったことも業界内外で囁かれています。厚労省で需給に関する検討がなされているのも、供給量の多さを踏まえての事と思われます。
しかしその一方で、「人が足りない、募集しても応募数が少ない」という声も一部の職場では度々聞かれます。
なぜ、このような矛盾が生じているのでしょうか?
そして、これからのPTはどのような方向へ活躍の場を拡げるべきなのでしょうか?
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※当記事の作成にあたり、下記のウェブページを参考にさせて頂きました。
1.必要な場所に供給されているのか
私自身、今も介護現場で働くPTとして率直に感じることは以下のようなものです。
◆リハビリテーションを求めている患者さん・利用者さんは数多く存在する(ニーズは有る)。
◆それに対し、十分な量・質を伴うサービスが提供できていない。
◆その理由としては主に下記の2つが挙げられる。
①人員不足
②PTの質の低下(規制緩和による養成校増加→人員の増加→教育の質低下)
②の「質の低下」の本質については、ここでは本題から逸れるので割愛します。
それはともかく、上記①・②は内容が矛盾していることにお気づきかと思います。
養成校の激増に伴って今も毎年1万人のPTが作られていますが、老人保健施設や訪問リハといった介護分野では、大体において人手不足に悩まされています。
すなわち、PTは増えていても
「必要な職場にきちんと供給されていないのではないか?」
と疑われるのです。
統計上、PTの就業先の分布としては、
◆医療:8割
◆介護:1割
◆その他(福祉・教育・行政など):1割
となっており、明らかに医療分野に偏在しています(図1)。
図1:「就業先別の理学療法士数の推移(H24.4~)」
また、介護現場では医療機関と比べてPTの離職率が高く、応募者も少ないようです(図2)。
図2:「医療機関・介護福祉領域の離職について」
※平成25年から27年の3年間の1年あたりの平均離職者数(離職者/在籍者総数)を回答 。
これは介護施設の給与が病院よりも相対的に少ないとか、病院の急性期や回復期と比較して専門職・技術職としての「やりがい」が少ない(?)などの理由からと考えられます。
「人員不足感」をPT部門責任者に問うたアンケート調査(図3)においても、「高度急性期」を除くと、全般的に介護現場において不足感がより高く、逆に病院の回復期では不足感は少ないという結果が出ています。
実際、回復期病棟を有する病院のリハ部門ではPTだけでも50人超の人員を抱えているところも珍しくありません。
図3:「医療機関・介護福祉領域での人員不足感および
その理由について」※理学療法部門責任者の意見として回答。
※前々回の記事(その11:①調査結果から考える)で述べたように、回復期病棟を有する病院に対する調査では「2025年までに現状よりも人員を増やしていく」と答えた割合は比較的高く、上記の内容と矛盾しているようにも思えます。
「経営者サイドの将来展望」と「現状における現場責任者の感じ方」との温度差が表れているのでしょうか…。
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2.今後の活躍の場は…
今のところ回復期リハ病棟のために多くの人材が割かれているように見えますが、昨今の診療報酬改定の状況や厚労省における審議内容を見ている限り、回復期リハ病棟も今後は必ずしも「稼げる部門」ではなくなるのではないかと思われます(以下資料参照)。
現行の病床機能報告制度の抱える課題
平成 29 年度の病床機能報告の結果においても、病床機能報告の集計結果と将来の病床の
必要量とを単純に比較し、回復期機能を担う病床が各構想区域で大幅に不足しているとの
誤解させる状況が生じている。
その要因としては、
①回復期は、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟に限定されると言った
誤解をはじめ、回復期の理解が進んでいないことにより、主として回復期機能を有す
る病棟であっても、急性期機能と報告されている病棟が一定数存在すること
②実際の病棟には様々な病期の患者が入院していることから、主として急性期や慢性期
の機能を担うものとして報告された病棟においても、回復期の患者が一定数入院し、
回復期の医療が提供されていること
が考えられる。
このため、定量的な基準の導入も含めて病床機能報告の改善を図る必要がある。
どのみち、政府の方針としては医療費を抑制するため、「入院治療・療養」よりも「在宅医療・介護」を重視する傾向が強まっていくことは間違いありません。
ということは、PTもそういう方向へ就労の場をシフトしていかなくてはならないでしょう。
介護分野は「やりがい」が無い(残念ながら、潜在的にそう感じている自称「専門職」の方は多いです)などというのは、一個人の好みの問題でしかありません。
国家資格者であり国民の健康を守る使命を有するPTは、本来「やりがいの有無」ではなく「国民のニーズの有無」で職場を選ぶのが筋道だろうと思われます。
そういう意味では、養成校を卒業したばかりの人はともかく、私のようなベテランPTはすすんで介護老人保健施設とか訪問リハビリテーションへ出ていくべきでしょう。
特に訪問リハは豊富な経験とスキルが求められる領域ですから。
また、当ブログのテーマのひとつである「中高年以上の方々の健康問題」も、今後のPTの活躍の場と大きく関連しています。
疾患を有する要介護高齢者が増えていくことで医療・介護に関わる社会保障費も増大するわけですから、政府としてはそれを未然に防ぐための「生活習慣病予防」とか「障害(介護)予防」といった領域には今まで以上に着目していくでしょうし、現在も行政が進めている介護予防事業(各自治体によって温度差はあるようですが)などには積極的に関与していくことが求められます。
他にも、動作を分析する専門職としての立場から「介護ロボット」の開発に関与したり、妊産婦などを含めた「ウィメンズ・ヘルス」、また「学校保健事業(児童の発育・健康増進)」といった領域にも、すでに関わっている諸先輩方がいらっしゃいます。
これら疾患予防・介護予防・健康増進などの「予防医学」に関する領域については、どの程度活躍の場が拡がるのかは今後の国の政策にも左右される面があるため未知数ではあります。
しかしいずれにせよ、我々の側からも「PTはこんな事もできますよ」と積極的にアピールしていかなければ、道は閉ざされてしまうでしょう。
なぜなら、PTの仕事は法的には「業務独占」ではないので、運動療法や物理療法、それに類似した行為については看護師や柔道整復師・健康運動指導士などでもある程度代用できる(!)という一面があるからです。
そもそも「高齢者の増加に比例してPTを増員させる必要があるのか?」といった根本的な議論もあるかと思います。
高齢者が増えて必要になる人材としては、介護職とか看護職の方がはるかに優先度が高い、という言い方もできます。
ともかく、職域が確立(独占)されていないという点では、私たちPTはもっと危機感を持ち、自ら活躍の場を拡大していかなければそのうち本当に「溢れかえる」ことになりかねません。
PTという枠に自分を閉じ込めず、付加価値を身につけ、「できることを増やす」努力をすべきでしょう。
いろいろと偉そうなことを述べていますが…私自身も肝に銘じておきたいです。
<まとめ>
例によって文章が長くなり収拾がつかなくなってきたので(汗)、最後にまとめてしまいます。
私個人の見解も一部含まれていますが、あしからずご容赦下さい。
1.PTの有資格者数
⇒2018(平成30)年時点で、累計数は約15万人。
⇒現在、毎年約1万人ずつ増加している。
⇒2004(平成16)年時点で必要数は46,000人と見込まれており、計算上は需要と供給が逆転した。
⇒その後新たな需要も創出されており、今後どれだけの必要数が見込まれるかは未知数である。
※2019/4/7追記
第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会における需給推計(案)では「2040年頃にはPTの供給数が需要数の約1.4倍となる」というデータが出ています。
→理学療法士・作業療法士需給分科会 資料(H31/4/5)『理学療法士・作業療法士の需給推計を踏まえた今後の方向性について』
2.病院・施設における人員の充足度
⇒施設基準上は充足しているが、採算上・運営上は未だ充足していない職場も多い。
⇒回復期病棟を有する病院への供給が多く、逆に介護分野は不足している。
3.病院・施設における今後の雇用拡大について
⇒新卒者の99%は就職できており、今のところ雇用は安定していると言える。
⇒2025年問題を見据えて増員を検討する一方、決めかねている病院も多い。
⇒医療・介護制度の動向に左右されるため、経営者側は増員に慎重な面も。
4.PTの給与について
⇒平均年収は400万円程度。生活に困る程ではないが、一般企業の平均より低め。
⇒この20年間で確実に減少している(PT以外の医療専門職は増加)。
⇒有資格者数・雇用数が増え続けると、給与は減少傾向になる。
⇒リハビリテーションに関する診療・介護報酬の引き下げは、PTの給与の減少に拍車を掛ける。
5.今後の職域について
⇒回復期病棟は徐々に飽和状態となり、稼げる部門ではなくなる可能性がある。
⇒介護分野(老人保健施設や訪問リハなど)の人手不足を補う必要がある。
⇒疾患予防・介護予防・健康増進など、予防医学の領域における活躍が望まれている。
⇒自ら職域を拡大していかなければ、供給過多で溢れてしまう可能性も。
PTは安定した職業か?・・・結論!!!
「現時点では雇用も給与条件もまずまず安定していますが、職域を拡大していかなければいずれ供給過多で溢れかえってしまいます。選り好みをせず、活躍の場を拡げる努力をしていきましょう!」
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