医療・介護従事者による対象者(患者さん・利用者さん)への不適切な言葉づかいについては、これまでの記事でも度々取り上げてきました。
ごく例外的な場面を除いて、対象者への敬語の使用は必須であるというのが私の考えですが、一向に無くなることのない「タメ口」について、その要因を改めて考察してみたいと思います。
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1.タメ口が無くならないわけ
医療・介護職員のタメ口が横行する理由については、いくつかの記事で述べてきました。
①タメ口の方が語句が短く伝わりやすい
②「世話をしてやっている」という上から目線
③「親しみを込めている」という勘違い
④敬語の勉強不足(接遇教育の不徹底)
私の考えを大雑把にまとめると以上のようになりますが、今回は少し違う観点もまじえて考察してみます。
※タメ口を正当化するものではありませんので、悪しからずご容赦下さい。
1)エネルギー節約理論
人が物事を判断し行動に移すプロセスとしては、まず手や目などからの情報が感覚神経を伝って脳で処理され、運動神経を通って必要な筋肉を動かすに至ります。
新しいことを学ぶ時や慣れないことを実行する際は、この伝達経路が最短距離では行きません。
脳内の神経パルスは右往左往、余計な筋肉を使ってしまい、心身ともに疲れます。
スポーツでも読み書きそろばんでもそうですが、習い始めは動きがぎこちないものです。
繰り返し練習することによって「感覚入力→神経ネットワーク処理→運動表出」の経路が徐々に最適化され、より少ないエネルギーで素早く行動できるようになります。
別の言い方をすれば、生物は無意識のうちにエネルギーを効率よく使って行動しようとします。
これは会話でも同じで、気の置けない友人とは「タメ口」でやりとりするためエネルギーは最小。
一方、相手によって言葉を取捨選択する「敬語」は脳(すなわち心)を疲れさせます。
なので、対象者から「その言葉づかいは何だ!」と怒鳴られない限り、ついつい楽をしようとして何気なく崩しがちです。
昨今、コロナ禍で医師や看護師の過労が喧伝されています。
けれども、医療・介護施設の両方を経験してきた私には、日常業務における心身の疲労がもっとも顕著なのは介護職員ではないかと感じられます。
そして、対象者へのタメ口が目に余るのも、やはり高齢者施設の介護職員であるように思います(もちろんPTにも多いのですが)。
2)生活空間における意図的な敬語崩し
疾病の治療目的で一時的に滞在する医療機関とは違い、高齢者施設(老健・特養など)は利用者さんにとって「日常の生活空間」としての意味合いが強いように思われます。
そのため、仰々しい敬語が場の空気にそぐわなかったり、一部の対象者には違和感として捉えられるケースもあるようです。
最近の私の経験で言うと、ある男性の利用者さん(リハビリに対し拒否傾向が強い)に対し、
◯◯さん、こんにちは。今日リハビリを担当させて頂くことになりました、すなおと申します。
もしよろしければ、お身体の具合を診させて頂きたいのですが…
と丁重にご依頼するのですが、なかなか応じて下さいません。
そこである時、
◯◯さん、こんにちは~。調子ど~ですか?
さ、今日もマッサージ行っときましょか~😊
などと気軽に声掛けすると、すんなり了承して下さいました。
意図的に敬語を崩す上記のような対応の欠点は、いつも上手くいくとは限らないこと。
場の空気や相手の性質を読むというような、職員自身の経験や勘に頼らざるを得ないという点です。
また、先輩職員の「意図して崩した」言葉づかいを、深く考えずに真似する後輩職員も出てきます。
そうやって職場の秩序や倫理観は乱れていくものです。
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2.精神論よりもシステマティックな接遇教育を
そもそも、なぜ対象者に敬語を使わなくてはならないのか?
もちろん、相手は「顧客」であると同時に、日本を平和で豊かな国にするために頑張って下さった人生の大先輩だからです。
とは言え、そうした精神論だけで医療・介護施設から「タメ口」を駆除するのは不可能です。
そろばんが上達したら、頭の中で計算しなくても無意識に指先が動くようになるものです。
敬語も同じで、余計なエネルギーを消費せずとも流暢に使えるようになるまで繰り返し練習するしかありません。
私がかつて病院で管理職だった頃、朝礼で『接遇ミニ研修』を定期的に行っていたのもそのためです。
野球で変則的なフォームを用いる選手がいますが、通算2,000本安打とか200勝投手のように息の長い活躍をした名選手は、間違いなく基本を大切にしています。
基礎的な技術ができているから、自分に合った崩し方・変則フォームが身につくのです。
敬語も同様で、丁寧語・尊敬語・謙譲語の使い分けができない人に「場の状況に応じて敬語を崩す」なんてできるはずがありません。
3.さいごに…自己分析を怠らないこと
幼い子どもの教育なら「ダメなものはダメ!」でも良いかも知れませんが、教育すべき職員はみな立派な(?)社会人です。
病院・施設の経営者や幹部の方々、そして個々の職員には、なぜ「タメ口」を使ってしまうのかを客観的に分析して頂き、改善につなげていって欲しいです。
しかし残念なことに、私が以前『接遇ミニ研修』を部署内で独自に行っていた民間病院でも、現在勤めている介護施設でも、接遇教育の重要性に対する経営幹部の認識は極めてお粗末。
そのため、職員の言葉づかいは目も当てられない状態です。
高齢の患者さん・利用者さんによる職員への暴言・暴力・セクハラなどが問題視されることもありますが、今の高齢者はまだ従順なのかも。
私たち現役世代がいずれ高齢者になった時、求められる接遇・サービスの水準はさらに厳しいものとなる可能性があります。
病院・施設は、もうとっくに「選ばれる」時代なのですから。
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