社会的動物である人間は、どのような職業を選んでも自分のできる範囲で社会に貢献するのが第一義であるということを前回述べました。
今回はそれを前提として、医療従事者が果たすべき社会的役割について考えてみましょう。
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1.医療機関、および医療従事者の役割
病院やそこで働く医療従事者(専門職)が社会のなかでどのような役割を果たすのかは、誰でも何となくイメージできるとは思いますが、ここで法的な観点も含めて再確認してみましょう。
「医療法」という法律には、病院等の適切な管理運営に関するさまざまな条項が定められています。
その第一条を要約してみますと…
◆国民の健康保持のために、医療従事者は良質な医療を提供するよう努めなければならない。
◆医療を受ける者との信頼関係を築くため、適切な説明等により理解を得ることが重要である。
◆医療とは単に治療のみならず、疾病予防のための措置やリハビリテーションも含む。
◆上記の目的を果たすために、医療施設の整備や安全確保、施設間の連携などが必要である。
おおよそ、このようなことが記されています。
さらに、医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・診療放射線技師・理学療法士など医療に携わる国家資格者は、それぞれに資格法が存在し、その第一条で「医療及び公衆衛生の普及向上に寄与することを目的とする」といった基本理念が明記されています。
ザックリと言えば、病院などの医療機関、および医療従事者の役割は、国民の健康を守る事です。公立・私立病院にかかわらず、国民の利益になることをするのが「医業」というものです。
当然ながら、病院経営者や医療従事者にとっての利益の追求を主目的とするようではダメで、医業にはあらゆる面で「公益性」が求められるということになります。
2.医療の値段を決めるのは
医療(ここでは保険診療のことを指します。医療保険が適用されない美容整形のような「自由診療」は除外します)の財源には、健康保険料や、公費(税金)が投入されています。
もちろん、これは国民が負担するものです。
そして診療報酬(医療の値段)は、国の行政機関である厚生労働省が定めています。
例えば、PTが脳卒中の患者さんに対してリハビリテーションを1単位(20分)行った場合、一定の施設基準を満たす病院であれば、「245点×10円=2,450円」の診療報酬が得られます(2018年現在)。
診療報酬は全国一律の公定価格ですから、商品たる医療行為の値段を医療機関ごとに勝手に決めることはできません。
「ウチの病院は腕の立つ外科医が揃っているから、他の病院よりも手術料を高く設定しよう」というようなことはできないわけです。
ちなみに、介護保険(介護報酬)についても基本は医療制度とほぼ同じと考えて頂いて結構です。
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3.人の不幸が飯のタネ
国民の負担と、国の行政機関が決めた制度に基づいて成り立っているのが保険診療であるからには、医療機関は法や制度に基づいて診療行為を行う責務がある、ということがお分かり頂けたと思います。
当たり前のことですが、病院が儲かり黒字を保ち存続していくこととか、そこで働く従業員が給料をもらって生活するのが医療の「目的」ではないです。
それらはあくまでも、国民の健康を守り抜くための「手段」です。
こう述べると、「なにキレイごと言ってんだ…」と反論する病院経営者や専門職の方もいらっしゃることと思います。しかし私はキレイごとを言っているわけでも何でもなく、全くの事実です。
実際のところ病院とか医療従事者というのは、病気やケガで苦しんでいる人や、高齢になって心身が衰え生活に支障をきたす人が一定割合で存在するからこそ成り立つものです。
近未来になって、病気・ケガ・老化などがすべて解消されるような世の中になれば、医師もPTも必要なくなるわけですから。
ある意味、「人の不幸を飯のタネにしている」のが病院であり、医療従事者なのです。
だからこそ、病院経営者や専門職は、いつのまにか目的と手段がすり替わってしまわないように自身を戒め、常に謙虚であり続け、自己研鑽に努めなくてはならないのです。
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