すなおのひろば

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【理学療法士をめざす人へ:その5】理学療法士のお仕事…①リハビリテーションとは

f:id:sunao-hiroba:20181023130214p:plain今回からは、いよいよ理学療法士を志す方々にとっての本題に入っていきます。

医療従事者のなかでも、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などの職種は「リハビリテーション専門職」といわれています。

ですので、まずは「リハビリテーション」とは何か? といった原理原則論から話をはじめようと思います。

 

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1.「リハビリテーション」の語源と、実際の使われ方

養成校に入学すると、「リハビリテーション概論」などの講義で、最初にその語源や定義を学ぶことになります。

それがすべて実務に役立つかどうかはともかく、PTやその学生がリハビリテーションの意味や定義を聞かれた時にスラスラと答えられないようではまったく話にならないので、必ず頭に入れておくことをおススメします。


“rehabilitation”の語源は、ラテン語の re(再び)・habilis(適する)を組み合わせたもので、直訳すると「再び適した状態にすること」といった感じでしょうか。

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もともとは、

◆失われた権利の回復。

◆犯罪者の更生、社会復帰。


というような意味合いで使われていたようです。

現在の私たち日本人がイメージするニュアンスとは少し違うような気もしますね。

日本人にとっては「リハビリ」という言葉が和製英語(?)としてすっかり定着していますが、この略語は、一説によれば政治家の田中角栄さんが脳梗塞になった時、新聞・テレビなどの報道で使われ出したのがはじまりともいわれています(真偽のほどは定かではありませんが…)。


よく「脳卒中になった芸能人の〇〇さんは、血のにじむようなリハビリを行い、奇跡的に回復した」といったような使い方をされますが、その場合の「リハビリ」とは、

◆弱くなった筋肉を鍛えるための筋力トレーニング。

◆硬くなった筋肉や関節をほぐすためのストレッチ。

◆やりにくくなった動作を再学習するための歩行練習。


などの、いわゆる「運動機能回復訓練」を指していることがほとんどのように思います。

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あるいはまた、痛みのある部位に対する温熱・電気刺激といった「物理療法」や、筋肉の凝りに対するマッサージなども、ひとまとめにして「リハビリ」と呼ぶ人も意外に多いです。

しかし、それらは対象者のリハビリテーションを行う上での手段のひとつに過ぎず、本来の意味合いとは少しずれているようです。

 

2.「リハビリテーション」の本来の意味とは

医療従事者と、その対象者(患者さん等)にとっての「リハビリテーション」とは、

◆心身に障害を持つ人が、人間らしく生きる権利を回復するために行われる全ての過程。


本来、そのような意味合いだろうと考えられます。

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この「人間らしく生きる権利の回復」を、

全人間的復権


と言ったりもします。


少し抽象的で分かりにくいかも知れませんので、具体例をひとつ挙げてみましょう。


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80才の男性「Aさん」が、自宅内で転倒して股関節のつけ根を骨折し、入院したとしましょう。

Aさんは、最近は脚の筋力が落ちて歩くのが不安定になりがちで、居間からトイレまでは周囲の家具や柱などを伝うようにして何とか歩いていたようでしたが、今回ちょっとした段差でつまずいて転倒してしまったとのことです。

ここで医療従事者が行う最初のアプローチとしては、

◆医師
⇒骨折の治療(折れた部位を金属プレートやスクリューで固定する手術)。

◆看護師
⇒手術前後の全身管理や、服薬・食事・排泄など療養上の援助。

理学療法士
⇒手術翌日からの機能回復訓練(筋力増強や歩行練習など)。


大体このようなパターンになるかと思います。

これら骨折という外傷(およびそれに伴う身体症状等)に対する直接的なアプローチは、いわば「治療」とか「看護・介護」、あるいは「身体的(医学的)リハビリテーション」といったものでしょう。

しかし、骨折を金属プレートで固定し全身状態が安定したとしても、必ず順調に回復して元気にスタスタ歩いて帰れるとは限りません。

何といってもAさんは高齢ですし、もともとの動作能力も「自宅内の歩行が不安定で、伝い歩きをしていた」というレベルです。

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一般的には、高齢者が脚の骨折で手術した場合、手術前の動作能力とまったく同等レベルまで回復する確率は少ないです。

リハビリテーション=機能回復」と短絡的に考えるとすると、元の機能レベルまで回復しなかったAさんはもう「リハビリテーションの対象外」となってしまいます。

 

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3.包括的リハビリテーション

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「自分の意思で歩いてトイレまで行き、用を足す」という行為は、人間の尊厳としては極めて重要なものです。

これが困難となり、ベッド上でおむつ内に排せつするとなると、本人の心身への影響はもちろんのこと、それを介護する家族にも多大な負担が及びます。

実際、退院後の自宅への受け入れにあたって「自分でトイレに行けること」が前提条件になる場合が多く、それが不可能なために他の病院や介護施設を転々とする高齢者も珍しくありません。


ここでPTその他のリハビリテーション専門職としては、

◆脚の力をつけるための筋力トレーニング。

◆トイレまで歩いて行くための歩行練習。

◆トイレ内でズボンや下着を上げ下ろしするための練習。


f:id:sunao-hiroba:20181023150950p:plainといった機能訓練・動作練習のみならず、

◆ベッド~トイレ間の動線に手すりを設置。

◆ベッド~トイレ間の床面の段差を解消。

◆トイレ内の手すり設置と、便座の高さ変更。


f:id:sunao-hiroba:20181023151339p:plainなど、現状の動作能力のままであってもトイレまでの歩行や排せつ動作を安全に行えるように、在宅における「住環境」そのものを改善することも、アプローチの対象になります。


もちろん、それはPTだけで行えるものではありません。

介護保険制度を利用して手すりや段差解消といった住宅改修を行うためには、介護サービスの計画・調整を担う「介護支援専門員(ケアマネージャー)」と連携したり、福祉用具や住宅改修の業者に対して適切な手すりの形状・位置・高さを提案し、協議するといったことも必要になります。

これらチームアプローチの中でのPTの役割は、大変重要なものとなります。

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運動機能回復訓練が「身体的(医学的)リハビリテーション」であるならば、社会保障制度などを活用し、物的・人的環境を改善することで失われた機能を代償するアプローチは、「社会的リハビリテーション」と言えるでしょう。

他にも、職能訓練としての「職業的リハビリテーション」や、障害児の教育支援などを目的とした「教育的リハビリテーション」といった領域も、広い意味でのリハビリテーションの範疇に含まれます。


もうお分かりかと思いますが、一般の方々がイメージするような機能回復を主体とした「リハビリ」とは、狭い領域でのリハビリテーションであり、総体としての「リハビリテーション」はもっと包括的な意味合いを持っています。

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運動機能が十分に回復しなかったとしても、代償的な方法によって可能な限り自立した生活を送ることができ、本人の尊厳が損なわれることがなければ、広い意味で「人間らしく生きる権利を回復する」ことができたと言えるかも知れません。

対象者の全人間的復権をさまざまな方向から支援することが、PTなどの「リハビリテーション専門職」にとっての重要な社会的役割なのです。

 

 

www.sunao-hiroba.com

 

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