すなおのひろば

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【変形性膝関節症とともに生きる:その1】発症のリスク要因について

f:id:sunao-hiroba:20211008150019p:plain変形性膝関節症は、中高年の女性が悩まされることの多い整形外科疾患です。

このシリーズでは、その概要と予防・改善法について、理学療法士(PT)の視点から述べたいと思います。

最近よく行われる『人工膝関節置換術』に関してもシリーズ後半で解説する予定ですが、第1弾の今回は基本的な病態、および発症に影響を与える危険因子について列挙していきます。

 

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1.変形性膝関節症とは

膝の痛みと可動範囲の制限を伴う加齢性疾患のひとつであり、40歳以上の5人に1人が罹るとも云われます。

五十肩などと同じく、関節を構成する種々の組織(骨・軟骨・半月板・滑膜・靭帯・筋肉)の劣化・老化によって起こります。

1)症状

f:id:sunao-hiroba:20211015153428p:plain動作時の痛みが主症状であり、早朝など体が冷えている時に生じやすいです。
痛みの部位はさまざまですが、膝の内側に出現することが多いです。

炎症が強くなると関節水腫を呈します。いわゆる「水がたまる」という状態です。

関節の変形が進行すると、曲げ伸ばしできる角度が狭くなり、立ち座りや歩行・階段昇降など、日常生活にも支障をきたすようになります。

2)病態

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最も特徴的なのは、膝の軟骨や半月板がすり減ることです。

軟骨が摩耗して薄くなると、最終的には硬い骨同士がぶつかり合い、結果として強い痛みを生じます。

日本人の場合、内側がすり減るケースが圧倒的に多いため、以下のような内反変形(O脚)を呈することとなります。

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正常な膝では、大腿骨と脛骨で構成される角度(生理的外反)は175°前後。
内反変形では180°を超えてしまいます。

3)診断

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※画像引用元:X線撮影技術学(小田敍弘,𡈽井 司  共編・オーム社


主にX線撮影で変形の程度を把握します。

軟骨や半月板・靭帯などはX線画像では透過してしまうため、必要に応じてMRIも活用します。

炎症の有無や他の疾患と鑑別する目的で、血液・尿検査を行うこともあります。

4)治療

薬物療法

貼付剤(湿布)、消炎鎮痛剤の内服、ヒアルロン酸の関節内注射などがよく用いられます。

運動療法リハビリテーション

関節の可動域を拡げたり、膝周囲の筋肉を鍛える運動(膝の曲げ伸ばし・自転車こぎなど)を中心に行います。

痛みに応じて、歩行能力の維持・向上を図ります。

③手術療法

一般的に、関節鏡・高位脛骨骨切り術・人工膝関節置換術の3つがあり、年齢や変形の程度などに応じて選択します。

近年では、高齢者に対し人工関節が用いられることも多くなりました。

 

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2.主な危険因子について

1)加齢

f:id:sunao-hiroba:20211015160611p:plain日本における患者数は統計上700~800万人というのが一般的な見解ですが、一説には3,000万人とも云われます。

日本の65歳以上人口は2021年現在3,640万人ですから、これが本当なら高齢者の80%以上が罹患していることになってしまいます。
そのため3,000万人説はちょっとオーバーのように感じられますが、あながちそうとも言い切れません。

私は現在、老健施設に勤めています。

膝を触診したり動かしてみると分かるのですが、ほとんどの利用者さんは大なり小なり膝の変形を有しています。

なかには変形が重度にもかかわらず、ほとんど無症状という人もいます。

痛みや生活上の困り事が無ければ、わざわざ整形外科を受診し『変形性膝関節症』の診断を受けることもないので、正式な統計データには反映されないというわけです。

そういう意味では、薄毛・白髪・老眼・皮膚のたるみなどと同様、程度の差こそあれ誰にでも起こる老化現象のひとつと言えるのかも知れません。

2)女性

女性発症率は男性の2~4倍と云われていますが、私の臨床経験上、女性比率はもっと高い印象を受けます。

日常生活に支障をきたすほど症状が重いのは、たいていの場合、女性です。
人工膝関節の患者さんも、私のPT歴23年の中では、数例を除いてほぼ全員が女性でした。

理由はハッキリとは解っていませんが、閉経後のホルモンバランス変化や遺伝的要因が考えられます。

3)骨粗鬆症

f:id:sunao-hiroba:20211015160611p:plain変形性膝関節症と言うと、「軟骨のすり減り」がやたらと強調されがちです。

しかし私は、骨密度低下による背骨や下肢骨の変形が、アライメント(骨格の位置関係)の微妙なズレを引き起こし、「身体重心の変化→姿勢の悪化→膝の内側への負担」へとつながっていくのではないかと考えています。

これは、「閉経後の女性が骨粗鬆症になりやすく、変形性膝関節症にも罹りやすい」という事実とも符合します。

4)肥満

f:id:sunao-hiroba:20211015161142p:plain人が歩く時、膝には体重の約3倍の負荷が掛かると云われます。
力士に膝のケガが多いのもうなずけますが、巨漢力士がみな重度の変形性膝関節症になるわけではありません。

「加齢」+「女性」+「肥満」

これら3つのリスク要因が重なった時に、罹患する可能性がぐっと高まるのではないかと思われます。

5)栄養不良(痩せ過ぎ)

人工膝関節に至るほど重症な方は、体重過多の女性が多いように思います。
その一方、手術は不要ではあるけれど長年膝の痛みに悩まされている高齢女性には、「若い頃から偏食で、痩せていた」という方々も一定割合で存在するようです。

f:id:sunao-hiroba:20211015161142p:plainただ、「栄養不良の人は変形性膝関節症に罹りやすい」という確たる根拠はありません。

あくまでも私の臨床経験に基づく印象ではありますが、若年からの過度な食事制限や、特定の栄養素を全く摂取しないといった極端なダイエット法は、高齢になってから悪影響が出てくる可能性もあるのではないかと考えています。

6)運動不足

これも私の印象ですが、若い頃からウォーキングなど適度な運動をしてきた人は罹りにくいように感じます。

「歩き過ぎると、さらに軟骨が減るのではないか?」と考える方もいらっしゃるようです。
確かに、すでに罹患している人は歩き過ぎに注意すべきでしょう。

f:id:sunao-hiroba:20211015161142p:plainしかし、歩数が少ないと骨・関節に刺激が入らず、組織の再生が促されません。また関節液の循環は滞ってしまい、軟骨への栄養供給も阻害されます。

昨今のコロナ禍で、外出機会が減ったことで膝の痛みが悪化し、人工関節に至ったというケースも目にしました。

7)外傷歴

過去、膝周囲にケガを負ったことのある人は、一定のリスクを有しています。
前・後十字靭帯の断裂や、半月板損傷がその代表例です。

 


続きは次回とさせて頂きます… m(_ _)m

<次回予定>

基本的な予防・改善法について

 

 

 

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