変形性膝関節症では、軟骨の摩耗が生じています。このことから、「一度すり減った軟骨は絶対に元に戻らない」と誤解している方々も多いようですが、そうではありません。
軟骨は皮膚や内臓などと同様、生きた細胞でできており、関節液によって栄養を受けています。
若年者は再生能力が比較的高いので、歩いているうちにすり減って最終的に無くなるということにはなりません。
加齢等により摩耗と再生のバランスが崩れた時、膝の変形が起こるというわけです。
すなわち、この疾患を予防するためには「軟骨の再生能力を促進する(または維持する)」ことをやれば良いのです。
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1.予防法
以下に示す予防法は、膝の症状が出始める40~50歳頃よりも前から、意識的に行って頂きたいものです。
特に女性の方々にお薦めします。
1)ウォーキング
歩くことによって、膝の軟骨には適度な荷重・摩擦刺激が加わります。
また膝の曲げ伸ばしを繰り返すので、関節液の循環も促されます。
どちらも、軟骨の再生には好都合です。
筋肉量が増えれば膝周囲の血液循環は増進し、さらに再生能力が高まります。
同時に、膝の安定性を高めて関節保護にも貢献します。
脚を含め全身の筋肉を効率的に使ってやれば、心肺機能が向上し、生活習慣病の予防にもつながります。
歩くことは、まさに一石二鳥。いや、それ以上の効能をもたらすのです。
ウォーキングの量としては、1日8,000歩(日常生活や仕事で歩く歩数も含め)ぐらいで十分かと思われます。
できれば屋外を歩くのが望ましいです。日光浴は骨の強度を高めるからです。
ともかく、変形性膝関節症の予防という観点では、1日8,000歩を無理なく歩ける人はそれ以外の運動(筋トレなど)は不要と言っても過言ではありません。
2)バランス重視の栄養摂取
体重過多が膝に悪いのはご存じの通りです。
見過ごされやすいのは、栄養不足による痩せ過ぎ。
そして、特定の栄養素を極端に制限したり、逆に摂り過ぎてしまうことです。
例えば、糖質制限は最近定着しつつあるダイエット法ですね。私自身も「ご飯をおかわりしない」などは実践しています。
ただし、炭水化物を一切摂らないというようなことはしません。なぜなら、私の場合ご飯が少な過ぎると体に力が入らなくなるからです。
体重が落ちると当然ながら体が軽くなるので、一時的には体調が良くなったように感じますが、長い目で見ると悪影響が出るかも知れないので注意が必要です。
「サメの軟骨」が変形性膝関節症に効くといって多めに摂取する人もいらっしゃいます。
確かにサメの軟骨にはコラーゲンが多く含まれていますが、食べた軟骨がいきなり膝に沈着するのではなく、消化管で一旦分解されてから血液・体液に乗って膝まで運ばれ、徐々に人体の軟骨として造り換えられ、関節液で栄養を受けるという順序になります。
それには、消化器官・心血管・神経系など全ての身体機能が調和して働かなければなりません。
このように考えると、特定の栄養素の欠乏・過多はリスクも大きく、やはり選り好みせずバランスの取れた食事をする方が確実(無難)であるように思います。
もちろん栄養の摂り方は人それぞれなので、中には「炭水化物を一切摂らなくても大丈夫」という方もいらっしゃるでしょう。
巷で云われている「◯◯制限ダイエット」の類いを全て否定するつもりもありません。
ただ、その方法が本当に適合しているかどうかは、自分の体とよく相談し、長期的にモニタリングしながら慎重に判断した方が良いのではないでしょうか。
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2.改善のための運動療法
ここからは、すでに症状が出現している方々を対象としたトレーニング法について述べます。
結論から言うと、運動療法はウォーキングと筋トレの組み合わせが「王道」です。
まずは筋トレの種目を優先順位で列挙し、次に痛みの程度に応じた種目選択のあり方について提示します。
1)筋トレの優先順位
①膝伸ばし(大腿四頭筋)
比較的軽症の人から重症患者に至るまで、全ての方々に必要不可欠な種目です。
大腿四頭筋は膝関節の安定化に最も寄与しており、歩行能力との相関性も高い筋肉ですが、ここでは筋力upというよりも「可動域改善と痛みの軽減」を主な目的としています。
ゆえに、負荷量も最大2.0㎏程度と軽めに設定します。
低負荷で曲げ伸ばしを交互に繰り返すことで血流を増やし、関節液の循環も促進します。
イスに座って行うため膝に過度な荷重が掛からず、安全かつ効果大。
この種目だけを地道に半年~1年継続し、膝痛が改善したという事例(80~90代の女性患者さん)をたくさん診てきました。
②膝曲げ(ハムストリングス)
『きんさんぎんさん』が行っていた筋トレとして有名(?)です。
目的としては「①膝伸ばし」とほぼ同様ですが、ハムストリングスは比較的脆弱で、いわゆる「こむら返り」を起こしやすい筋肉でもあります。
負荷量は最大でも1.5㎏ぐらいに留めておくと良いでしょう。
③お尻上げ(大殿筋・背筋)
変形性膝関節症では、股関節周囲や背中の筋力も弱くなりがちです。
前かがみ姿勢の人は、この種目を取り入れてみるのも良いでしょう。
④股関節外転(中殿筋)
同じく、変形性膝関節症では弱くなりやすい筋肉の代表格です。
歩く時に「横ゆれ」しがちな人は、中殿筋が弱化している可能性があります。
⑤かかと上げ&つま先上げ(下腿三頭筋など)
変形性膝関節症のみならず、全ての中高年の方々にお薦めしたい種目。
自重トレーニングですが、両足で行えば関節への負担は軽度です。
立位バランス・歩行・血液循環向上など、さまざまな効果が期待できます。
⑥立ち座り・スクワット
スクワットは手軽に行える方法ですが、日常生活動作能力に直結するという意味では「立ち座り」の方が効果的と言えます。
大腿四頭筋の筋力upとしては最も有効な種目ですが、自重トレーニングのため膝に掛かる負担も大きいです。痛みの強い人にはお薦めできません。
どうしてもやりたい人は、膝を深く曲げ過ぎないように工夫して下さい(立ち座りなら座面を高めに、スクワットなら曲げる角度を少なめに)。
2)痛みが軽度な人のメニュー
膝の痛みや可動域制限がごく軽い人であれば、やはりウォーキングに重点を置きたいものです。
痛いからといって歩かないでいると、ますます症状が悪化することも往々にしてあるからです。
歩数については、理想は「1日8,000歩を最終目標に」と言いたいところですが、無理は禁物。
翌日に痛みや疲労感が強く出るようなら、歩き過ぎのサインです。それを基準に、ご自身で段階的に調節していきましょう。
例えば1日4,000歩で翌朝に痛みが出たのであれば、1ヶ月内は3,000歩に留めておく。
1ヶ月後に再チャレンジし、可能なら4,000歩に引き上げるといった具合です。
筋トレについては、「①膝伸ばし」は必須。
その他の種目は、必要性とご自身の意欲に応じて。
痛みが無いか極小であればスクワットなどの自重トレーニングもOKですが、翌日の症状悪化に注意しましょう。
筋トレの種目は、欲張り過ぎると継続するのが億劫になりがちです。中途半端になるぐらいなら、1~2種目に絞って確実に行うようにしたいものです。
3)痛みが重度な人のメニュー
痛みや可動域制限が重度な人の場合、まず筋トレを先に行います。
いわば、歩く前の準備運動のような位置づけです。
例えば「①膝伸ばし」「⑤かかと上げ」を低負荷で実施し、膝が温まってからウォーキングへ移行するといった具合です。
歩数目標は、やはり痛みに応じて段階的に上げていきます。
最初のうちは筋トレ優先で良いですが、膝の痛みが和らいできたら徐々にウォーキングも増やしていきたいところです。
ウォーキングの際は杖や歩行器など、歩行補助具を活用するのも良いでしょう(詳細は次回の記事で述べます)。
4)ウォーキングの代替メニューについて
①水中ウォーキング
浮力によって膝関節への負荷が軽くなるため、痛みの強い人には実行しやすいものです。
その反面、荷重刺激が加わりにくいというデメリットも理解しておく必要があります。
②自転車エルゴメーター
ウォーキングと並んで有酸素運動の代表格ですが、膝の曲げ伸ばしを繰り返すことで関節液の循環を高め、痛みや可動域の改善にも有効であることが実証されています。
関節に負担が掛かりにくいため痛みの強い人にも推奨できますが、デメリットも水中ウォーキングと同様です。
続きは次回とさせて頂きます… <(_ _)>
<次回予定>
代償手段について…①歩行補助具・膝装具
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