これまでの記事で述べたように、TKAは膝痛や可動域制限によって日常生活に明らかな支障が出ている場合に適用されます。
「痛みのために長い距離を歩けない」「立ち座り・階段がつらい」などが主な理由ですが、特に痛みの緩和が第一目的となることが多いです。
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1.手術に至るまでの判断材料
ここで重要なことは、
「関節変形が重度であっても、日常生活に困っていなければ適応にはならない」
「逆に、変形が軽度でも痛みや動作困難が重症であれば適応になり得る」
という事実です。
一般の方々には不思議に思われるかも知れませんが、私の臨床経験上、変形が強くても痛みがほとんど無いという方々は数多くいらっしゃいます。
◆関節変形の程度
◆関節可動域制限の程度
◆痛みの強さ
◆日常生活の自立度
これらの要素は互いに関連性がある一方、必ずしも比例するわけではないということを最初に頭に入れておきましょう。
1)動作能力と生活の質
下記2つの要素がどれだけ損なわれているか(or 我慢できるか)が、判断基準としては重要です。
◆日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)
◆人生の質(Quality of Life;QOL)
例えば「近所のスーパーへ買い物に行くのも難しい」「自宅のトイレにも行けない」というように、日常の暮らしが立ち行かなくなっている場合(ADL低下)。
あるいは「ゴルフ・山歩き」等、その人の人生に欠かせない趣味活動に悪影響が出ているとか、耐え難い痛みのために心身が疲弊している場合(QOL低下)などです。
それが確実に「変形性膝関節症に起因している」と言える場合、TKAは選択肢のひとつになり得るでしょう。
2)保存療法の効果
代表的な保存療法は以下の3つです。
◆薬物療法(鎮痛剤内服・湿布・関節注射など)
◆食事療法(栄養指導・ダイエット)
◆運動療法(大腿四頭筋トレーニングなど)
上記以外に、装具療法や歩行補助具(杖・歩行器)などの代償手段があります。
これらを併用しても症状が改善せず、ADL・QOLの低下が補えない場合には手術も検討されます。
3)リスク因子
糖尿病や心疾患・易感染性(免疫力低下)など基礎疾患を有する人は、術後のリスクが高くなりがちです。
また一般的に高齢であるほどリスクは高く、術後成績(可動域やADLの改善)も若い人には劣ります。
「リスク」と「効能」を天秤にかけて手術に踏み切るかどうかは、主治医の見立てに頼るところも大きいでしょう。
ただ、リスクの程度は人によって異なりますし、運にも左右されるのが正直なところ。
最終的には、やはりご本人の意思決定を尊重すべきでしょう。
2.やたらと手術を勧める医師は…
手術には、絶対的適応(救命目的)と相対的適応(ADL・QOL改善目的)があります。
1)TKAは「相対的適応」
例えば、腰部脊柱管狭窄症という疾患があります。
歩行に伴う脚の痛みが典型的な症状ですが、重症化すると膀胱・直腸障害(排尿・排便が困難になる)が起こることもあります。
痛みや歩行障害だけなら相対的適応、すなわち手術するかどうかは患者さん次第です。
膀胱・直腸障害はただちに命に関わるので、絶対的適応になります。
一方、TKAやTHA(人工股関節)には絶対的適応はありません。
どれくらいADL・QOLが損なわれているかを判断するのは患者さん自身であり、執刀医でないのは明白です。
2)良心的な医師の見極めは
上記のことから、TKAに際しては患者さんの意向を十分に反映しなければなりません。
時には患者さんよりもそのご家族の考えが重視されることもありますが、特別な理由がない限り、それは好ましくないと思います。
ましてや、医師が決めることではありません。
医療従事者は、術後リスクなどネガティブな内容も含め、患者さんが客観的に判断するために必要な情報を提供するのが役割。
決定はあくまでも患者さん側に委ねられます。
私が以前勤めていた病院の話です。
膝が痛いと言って受診してきた多くの患者さん(手術してくれと頼んだわけではない)に対して、
このまま放置すると、もっと歳を取った時に手遅れになる。
早めに手術した方がいいよ。
などと判で押したような脅し文句でTKAを強く勧める医師がいましたが、全くの論外です。
今どきそんなお医者さんが居るの? と疑われそうですが、手術の実績を伸ばしたい整形外科医、ひいては「儲けたい病院」はいくらでもあります。
一概には言えませんが、個人経営の民間病院には、地域の医師会からも要注意人物として目をつけられているような「一匹狼医師」がまぎれ込んでいることも。
悪徳医師かどうかの判断は一般の方々には難しいですが、すでに手術を受けた患者さんの口コミや、当該病院に勤めているPTに評判を聞けば大体分かります(正直に答えてくれたらの話ですが😓)。
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3.まずは保存療法から
TKAは若いうちに(おおよそ80歳未満で)行った方がリスクも少なく、術後成績も良い場合が多いです。
ゆえに、「早めに手術した方がいいよ」と勧める医師の言い分も、あながち間違いとは言い切れません。
けれども、どんな手術でもリスクはゼロではないことも、医師はちゃんと分かっています。
「相対的適応」であるTKAに対しては慎重に判断するのが普通であり、症状が軽度であればまず保存療法で様子を見るのが良心的な医師というものです。
私の個人的な意見としても、ADL・QOLの低下が許容範囲内であれば、恐怖を振り払ってまで手術を受ける必要はないと思います。
実際、運動療法や歩行補助具の活用によって痛みが減少し、ADLが向上した例も少なからず存在します。
軽めの運動で膝の軟骨が再生するといったデータが出つつあるということも、過去記事でご紹介した通り。
軟骨は再生せずとも筋力upによって関節を保護し、痛みの改善につなげることもできます。
「軟骨は消耗品である」という表現は、“手術が好きな” 整形外科医にとっては好都合なものですが、まず保存療法で経過をみてから手術に踏み切るのも選択肢として十分アリではないでしょうか。
※TKAは適応を誤らなければ患者さんにとって有益なものです。手術不要論を唱えるものではありませんので悪しからずご容赦下さい。
続きは次回とさせて頂きます… m(_ _)m
<次回予定>
人工膝関節置換術について…④術後のリハビリテーション
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