すなおのひろば

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◆1995年1月17日 - 阪神・淡路大震災が発生、最大震度7。日本で初めての大都市の直下を震源とする大地震。

【変形性膝関節症とともに生きる:その8】人工膝関節置換術について…④術後のリハビリテーション

f:id:sunao-hiroba:20211211115445p:plainいよいよ当シリーズも最終回となりました。
今回は、TKA術後リハビリテーションの進め方について解説します。

術後リハビリでは、静脈血栓塞栓症や体力低下・認知症など、過度の安静による弊害(廃用症候群)を防ぐとともに、早期退院・社会復帰を果たすことが目標となります。

そのため整形外科系の手術では、翌日からリハビリを開始するのが通例です。

 

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1.基本的な術後リハビリの考え方

序文で述べたように、廃用症候群を予防し早期退院・社会復帰を目指すのが術後リハビリの主目的です。


通常、杖歩行によるADL自立を退院時の目標とするのが一般的です。

また、日常動作に必要とされる膝屈曲角度は以下の通りです。

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◆歩行:70°
◆階段昇降・イスからの起立:100°
◆自転車こぎ:120°
◆しゃがみ~正座:150°~160°


100°ぐらい曲がれば最低限の日常生活は送れるということになりますが、少し余裕があればそれに越したことはありません。

そのため、退院時の目標可動域は110°~120°が妥当でしょう。

上記を前提とした『TKA術後プログラム』の一例を示します(字が小さくて申し訳ございません💦)。

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以下、このチャートに沿って術後リハビリの流れをご説明します。

 

2.術前

 

1)自立度・関節可動域の確認

f:id:sunao-hiroba:20211211115445p:plainリハビリを担当するPTは、可能であれば前日のうちに患者さんを訪問し、ADL自立度(動作レベル)や膝の可動域を確認しておきます。

一般的に術前の状態が良い人ほど術後の機能予後(回復の見込み)も良好なので、退院時の目標を立てる上でも術前のアセスメントは重要です。

2)術前リハビリ指導

以下の2つは術後早期から行うべき運動ですが、術前に指導しておくことで患者さんへの意識づけになります。

①足関節底背屈運動

f:id:sunao-hiroba:20211211133151p:plain足をパタパタ動かす練習。術前のリハビリ指導としては必須です。

ふくらはぎの筋肉を収縮・弛緩させることによって「筋ポンプ作用」を促し、術後リスクの代表格『静脈血栓塞栓症』を予防します。

私はいつも患者さんに対して、

手術が終わって麻酔から覚めたら、すぐに始めるぐらいの気持ちで。
気分が悪くなければ、回数はできるだけたくさん行って下さい。

と伝えています。

②クアド・セッティング(Quad-setting)

大腿四頭筋(膝を伸ばす筋肉)、特に内側広筋の収縮を促すものです。
術後の膝蓋骨外側亜脱臼を防止する意味でも重要です。

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これも、回数は可能な限りたくさん行って頂きます(まずは朝・昼・晩、各20回ぐらいを目安に)。

 

3.術後1日~1週

 

1)自立度(目標):車椅子~歩行器

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手術の翌日、遅くとも3日目ぐらいまでには車椅子へ移ります。
可能ならリハビリ室へ行き、平行棒内での起立~歩行。さらには歩行器による病棟生活自立へと進めます。

2)関節可動域(目標):30°~90°

f:id:sunao-hiroba:20211211141239p:plain屈曲については90°、すなわち直角まで曲げることが最初の1週間の目標です。
伸展は0°、まっすぐ伸ばすようにするのが理想です。

ちなみに、抜鉤(ばっこう:傷口を閉じている医療用ホッチキスを抜くこと)は術後1週~10日目くらいで行います。
抜鉤が済んでいない段階で膝を曲げていくのは痛いですし、患者さんにとってはキツいものです。

ただ「鉄は熱いうちに打て」という言葉通り、最初の1週で90°曲げられれば、後が楽になるのも事実です。

3)リハビリ

まずは術前に指導したを徹底して行います。
その上で、身体状況に応じてプログラムを徐々に追加していきます。

③関節可動域拡大運動

前記の通り、術後すぐに膝を曲げていくのは怖いですし、それなりに痛いです。

昔は担当PTがギュッと曲げるような強引な方法がまかり通っていたものですが、そんなやり方をしても早く回復するわけではありません。

私はいつも『ボールころがし』を行って頂きます。
ホームセンター等で販売されているエクササイズボール(50~60㎝)を使用します。

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痛みや恐怖感を患者さんご自身で調節できるので、とてもお薦めです🎵

④膝関節伸展運動

クアド・セッティングをさらにダイナミックに行うものです。
大腿四頭筋レーニングと同時に、膝の可動域向上にもつながります。

⑤股関節内外転運動

膝関節症の方々は、股関節周囲の筋肉も弱くなっていることが多いです。
最初はごく軽い負荷で、無理せず行うことがポイントです。

⑥歩行練習(平行棒~歩行器)

歩行器で病棟内のトイレに行くなど、移動手段として実用的に使えるよう練習します。

 

4.術後1~2週

 

1)自立度(目標):歩行器~杖歩行

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術後1週までに歩行器が習得できていれば、杖歩行の自立を目指します。

2)関節可動域(目標):90°~100°

直角を超えたら、100°まではそう遠くないと思われます。
『ボールころがし』を地道に行えば大丈夫でしょう。

3)リハビリ

前記に加え、患者さんの状態に応じて以下の運動を行います。
この時期では、自重トレーニングを増やしていきます。

⑦タオルギャザー

足の指の動きを良くするとともに、足の裏の接地感覚を高めるのが狙いです。
と同様、静脈血栓塞栓症の予防にもつながります。

⑧お尻上げ

殿筋・背筋のトレーニングです。
膝が100°曲がっていれば行えるでしょう。

⑨かかと上げ・つま先上げ

歩行バランスの向上・静脈血栓塞栓症の予防に有効です。

⑩立ち座り・スクワット

これも大腿四頭筋を鍛えますが、自重を積極的に利用するのがとの違い。
自重トレーニングの方が筋力強化しやすいですし、ADL自立にも直結します。

膝が曲がりにくい人は座面を高くしたり、ハーフスクワットにするなど工夫して行いましょう。

⑪歩行練習(4点杖~T字杖)

歩行器を卒業できるよう、杖歩行の練習を進めます。

一気にT字杖まで習得できれば理想ですが、難しい人は先に4点杖ロフストランド杖を試すのも良いでしょう。

 

5.術後2~3週

 

1)自立度(目標):杖歩行

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T字杖歩行の自立を目指します。

2)関節可動域(目標):100°~110°

3週で110°まで曲がれば、概ね順調と言えます。

術前の時点で90°以下の人にとってはなかなか厳しいですが、それでも100°は確保したいところです。

3)リハビリ

に加え、進捗状況に応じて以下の動作練習を追加します。

⑫階段昇降練習

f:id:sunao-hiroba:20211211145918p:plain階段昇降は、

◆2足1段(にそくいちだん):1段昇る(降りる)ごとに両脚&杖を同じ段に揃える方法。

◆1足1段(いっそくいちだん):普通に昇り降りする方法。


上記の2パターンがあります。

まずは膝を深く曲げる必要のない2足1段で練習します。方法については過去記事をご覧下さい。


1足1段は最低でも100°、余裕をもって降りるなら120°は必要です。
筋力の強さも求められるので、危険を冒してまで練習しなくてもよいでしょう。

⑬動作指導(床上動作など)

退院後の住環境にもよりますが、和式生活では床上の立ち座り動作が必要となります。

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※座り込む時は、逆の順です。


上の方式は過去記事(日常生活動作の工夫 - 床から立ち上がる時)から引用していますが、この場合、術側は後ろに引いた右膝としています。

手術した膝を床に接地する際は、「ドスン!」と衝撃を加えないように注意しましょう。
執刀医によっては、術後早期では術側の膝の接地を禁止する場合もあります。

 

6.術後3~4週

 

1)自立度(目標):すべて自立→退院へ

f:id:sunao-hiroba:20211211115445p:plainT字杖歩行を始め、在宅生活を送る上で必要な動作の自立を目指します。

問題がなければ自宅退院となります。

2)関節可動域(目標):110°~120°

退院時120°なら順調と言えます。

達成した人はさらに目標を高く設定することもありますが、通常は130°まで曲がれば十二分と考えられます。

3)リハビリ(退院時指導)

f:id:sunao-hiroba:20211211115445p:plainこれまでリハビリで行った運動の中から特に必要なものをチョイスして、自宅でも継続して頂けるよう指導します。

また、必要に応じて日常生活上の助言や介護保険サービスの提案なども行います。

 

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7.さいごに

ここまで一般的な術後リハビリについてご説明しました。

医師の考え方や術式等によって進め方は微妙に異なりますし、もっと早いペースで退院へ導く医療機関もあると思います。

特に順調な人であれば独歩(杖無しの歩行)での退院も可能となりますが、歩行器に留まるケースもあります。
膝の角度も個人差があり、退院時120°以上を余裕で達成する人もいれば90°~100°に留まる場合も。

f:id:sunao-hiroba:20211211141239p:plainいずれにしても、TKAは痛みの軽減やADL・QOL改善のために行うものです。
退院の時点では目標に到達しなくても、自宅で生活しているうちに徐々に改善していくことも珍しくありません。
そのためには、ホームプログラムの継続が重要になります。

特に、歩く能力の維持は一番大切だと私は思います。
ウォーキングだけは欠かさず行って頂きたいものです。


それでは、変形性膝関節症シリーズを終了とさせて頂きます。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m

 

 

 

 

 

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