後編の今回は、腕相撲の最中に上腕骨を骨折してしまった患者さんのお話しです。
前編のAさんとほぼ同時期、立て続けに2名の腕相撲骨折を担当することとなったのですが、骨折パターンは類似していても細部の状況は異なります。
患者さんにとっては悲劇であるため表現は不適切なのですが、医療従事者としては色々と参考になる事例でもありました。
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4.復習…腕相撲骨折とは
前編の復習です。
上腕骨の骨幹部(中央部)に対し、ねじれの力が強く加わることによって「螺旋骨折(らせんこっせつ)」を生じることがあります。
野球のピッチングや腕相撲のような状況がこれに当たります。俗に「投球骨折」「腕相撲骨折」と云われるものです。
整形外科的治療法としては、保存療法(ギプス固定など)・手術療法(金属の棒やプレートで骨折部をつなぐ)があります。
骨折後の合併症として神経麻痺が生じることもまれにありますが、手足の骨折の中では後遺症は残りにくい部類と言えるでしょう。
同じ上腕骨でも、関節に近い部位で骨折した場合(上腕骨頚部骨折など)は腕の可動性に支障をきたしやすいものですが、骨幹部ではそういうことも比較的少ないです。
5.Bさんの場合
2例目は、20代後半の男性患者・Bさんです。
Bさんは趣味でスポーツジムに通っており、筋骨隆々の逞しい体型。
ジムのサークル活動として、アームレスリングに興じていたようです。
手術方式はプレート固定。例によって、手術の翌日からリハビリが始まります。
プレート固定の場合、手術創(切開する範囲)がやや大きめなので、リハビリの際に痛みを伴うこともあります。
※画像引用元:一般社団法人 日本骨折治療学会
Bさんも最初の頃は、肩や肘を動かす際に痛みに怯えながら行っていましたが、退院時には日常生活に支障をきたさない程度まで回復しました。
1)勝ちそうな時でも
PTとして、気になっていたことがひとつあります。
それは、骨折した時の詳細な状況についてです。
医師や看護師は、最初の問診の際に骨折時の状況を聴取しており、「現病歴」としてカルテに記載しています。
そのため、腕相撲骨折であることはリハビリオーダー(医師の指示箋)が出た段階でPT側も承知してはいますが、細かい部分については直接聞いてみないと解りません。
ただし、ケガをした瞬間を思い起こすことは、患者さんにとってはトラウマにもなり得ます。
踏み込んだ質問をする場合、患者さんとの間にしっかりと人間関係を築いた上で、慎重に行うことを若手PTの方々にはお勧めします。
幸い、Bさんは気さくな方で、親切に色々とお話しをして下さいました。
失礼ですが、骨折した時は、負けそうになった瞬間に…ですか?
それがね~、もう少しで相手をねじ伏せるところで…だったんですよ!
一般的に腕相撲骨折は負けそうな時に起こると云われているため、これは私にとって新たな知見でした。
すなわち、「自分より弱い相手との腕相撲であれば骨折の心配は無い」とは言い切れないということです。
2)強い骨を造るには
若年者の骨折と生活習慣には、どれくらい関連性があるのだろうか…?
これも、私が気になっていたことです。
Bさんは、運動は常に室内のスポーツジムで。
職業も事務職で、日常生活のなかで日光を浴びることがあまりない、とのことでした。
食事については、かなりの偏食家だとおっしゃっていました。
Bさんは骨密度検査なども実施されていませんでしたし、上記のような生活習慣が原因で骨がもろくなっていた…と決めつけるのは早合点。
とは言え、適度な日光浴とバランスのとれた栄養摂取が骨を強くする要因であることも確かです。
カルシウムが足りてないんかなぁ。
やっぱ、牛乳とかちりめんじゃこですかね~?
骨を鉄筋コンクリートに例えると、
◆鉄筋=コラーゲン線維(タンパク質)
◆コンクリート=カルシウム
と言えます。
そして骨に栄養を届けるための循環系、骨・関節を動かすための筋肉、筋肉に命令を送る神経系など、人体の構造・機能は全体の調和で成り立っています。
骨を生成し強度を保つ要素はカルシウムだけではないので、あらゆる栄養素をバランス良く摂取すべきでしょう。
あとは、骨に対し荷重をかけることも、骨密度を高める上で重要です。
バーベル・ダンベル運動も良いのですが、腕立て伏せなど自身の体重を利用した筋トレも取り入れたいですね。
上記のようなことを、Bさんには伝えました。
治ったら、またアームレスリングに復帰したいですか?
む~、今はさすがに怖い気持ちの方が強いですねぇ💧
おいおい考えたいと思います。
でしょうね…。愚問でした💦
6.Cさんの場合
3例目は、20代半ばの女性患者・Cさんです。
職場の忘年会の余興(?)で、男性上司と腕相撲をしていて骨折。
パワハラ・セクハラ的なものではなかったようですが、それにしても不運でした…。
Cさんの手術方式は髄内釘。
前編でも述べましたが、術式は骨折の部位や程度、破片の状態などから総合的に判断します。
また、女性の場合は美容上の問題もあるので、手術創は小さいに越したことはありません。
髄内釘は、金属棒やスクリュー(ねじ)を挿入する部位の切開だけでよいという利点があります。
※画像引用元:一般社団法人 日本骨折治療学会
Cさんの術後リハビリは順調で、退院時には日常生活や就業(事務職)にも支障のない程度まで回復しました。
1)凍りつく宴
やはり、骨折時の状況は患者さんにとっては回想したくもないでしょう。
十分にコミュニケーションが取れるようになった頃合いを見計らって、それとなくお尋ねしました。
幸いCさんも、とても物腰の柔らかい、優しい人でした。
上司もかなり手加減してくれてたと思うんですけどね。
五分五分というか、拮抗している時でしたよ。
そうですか…。
……痛かったでしょう?
いえ、それがそうでもなくて。
忘年会の席ですし、アルコールが入っていたからでしょうか…。
私はそんな飲んでた記憶ないんですけど。
でも、ゴキッて音しました。みんなに聞こえるぐらいの。
その瞬間、場が凍りつきましたね…😱
楽しい宴会の場が、一瞬にして…((((;゚Д゚))))
悲惨な光景を思い出して頂き、本当に申し訳なかったです…。
2)女性は特に要注意
一般的に、女性は男性と比べて骨が弱いものです。
特に閉経後はホルモンバランスの変化などもあり、骨折や変形性関節症など生じやすくなります。
若い女性でも、無理なダイエットが骨密度低下の原因になるのはご存じの通り。
日焼けを極度に嫌って、フル装備で外出するのもちょっと考えものですね…😅
残念ながら、Cさんに関しては生活習慣のことをお尋ねした記憶がありません。
外見的には普通の体型であり、肌の色も健康的だったように思います。
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7.さいごに
これらの患者さんに対し「自己責任だから、しゃあないでしょ」と一蹴するのはどうかと思います。
自らの意思で行ったこととは言え、人は誰でも思わぬところでミスをするものであり、ケガをしたくてするわけではありませんから。
今回の話は2006年頃のことですが、その後ゲームセンターの腕相撲マシンにおける骨折事故が報道でも取り上げられ、腕相撲の危険性については徐々に一般の方々にも知られるようになりました。
私も子供の頃はよく友達と腕相撲をしたものです。
どんな遊びにも一定のリスクはつきものですし、ここで「腕相撲など危険極まりない。PTとしては推奨しない」などと言うつもりもありません。
リスクを把握し、正しく怖がる。
その上で、骨折したくなければ止めておく。
やりたい人は、十分注意しながら各々楽しめば良いのではないでしょうか。
拙い記事ですが、そのための助力になれば幸いです。
それでは、最後までご覧下さいましてありがとうございました。
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