すなおのひろば

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【すなおのPT失敗談:その8】PT・OTの協働体制…②次第に悪化するHさんの状態

f:id:sunao-hiroba:20190920223035p:plainT字杖歩行のリスクを考慮し、歩行器を使って病棟内を移動するようになったHさん。

PTでは在宅復帰を目標に、筋力・持久力訓練や歩行等の基本動作練習を行なっていました。
OTに関しては、片麻痺機能回復訓練と応用動作練習が中心でした。

私の勤めるリハビリ病院に転院してから約1ヶ月間、Hさんは順調に回復しているように思われました。

 

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5.次第に悪化するHさんの状態

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ところが、それ以降は歩行器で歩くのがだんだん難しくなっていきます。

 

やがてベッドから立ち上がるのもおぼつかないくらい体力が低下していきました。

2ヶ月経過した頃には、ベッド上での寝返り・起き上がりは何とか自立していたものの、車いすへ移るのにも介助が必要な状態でした。

表現が不適切かも知れませんが、まるで坂道を転がり落ちるように、どんどん衰弱していくのが見て取れました。

食事量が減って栄養状態は悪くなり、痩せていく一方です。

 

もちろん医師としてはただ手をこまねいていたわけではありません。

f:id:sunao-hiroba:20190921114807j:plain当然ながら脳腫瘍の悪化・転移、あるいは全く別の疾患の併発など様々な状況が予測されましたが、詳細な検査についてはリハビリ病院(回復期リハビリ病棟)で対応できることが限られてもいます。

徐々に身体機能が低下し始めた1ヶ月半の時点で、手術した元の「B病院」へ受診し各種検査が行なわれましたが、その段階では衰弱していく原因は特定できませんでした(のちに理由は判明するのですが…)。

 


医師の治療方針としては、栄養も含めた全身状態を可能な限り保持しつつ、当面の間様子を見る、といった対症療法のみでした。

 

私は改めて主治医に尋ねてみました。

 

腫瘍がまた拡がり始めているんでしょうか?
検査では問題無いとのことですが…。

 


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組織学的に悪性の脳腫瘍(神経膠腫など)は、正常脳組織との境界線が不明瞭であり、手術で完全に摘出しきれないことも多いものです。
進行が早く、再発・転移の可能性も高いです。

一方、良性の脳腫瘍(髄膜腫など)は境界線が明瞭で、比較的摘出しやすいのですが、部位によっては全摘出できないこともあります。
腫瘍の増殖はゆっくりであり、通常は転移することもありません。

しかし髄膜腫にもまれに悪性のものがあり、その場合は進行が早く転移の可能性も高くなります。全摘出できていないと、当然そのリスクは増大します。
不運なことに、Hさんがそうでした。


 

そうだね…。かも知れないけど、ハッキリしたことは言えないなぁ。

 

画像等の検査で患者さんの状態が全て把握できるわけではありませんし、医師であっても解らないことはあります。


ただ、その時関わっていた全ての医療従事者が、

Hさんの「生命の灯」が、徐々に弱まりつつあるのではないか…


そう感じていました。

 

6.看護ケアとリハビリの再検討

回復期リハビリ病棟では、患者さんの治療・リハビリ方針に関するカンファレンスが定期的に行なわれています。

当時、各患者さんに対し月2回実施していました。

 

Hさんのカンファレンスでは、低下したADL(Activities of Daily Living;日常生活活動)に対応した看護ケアとリハビリの方向性について話し合われました。

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参加メンバーは毎回ほぼ同様です。

◆主治医(リハビリテーション専任医)
◆病棟看護師長(or 主任)
◆リーダー看護師
◆担当PT(すなお)
◆担当OT(F主任)



Hさんは立ち上がるのもやっとの状態でしたが、それでもナースコールを押さず単独でベッドから降りようとすることがありました。

ここで、以前却下された「センサーマット案」が見直されることとなりました。

 

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その他、排せつ・入浴などのADLについてはほぼ全て病棟スタッフの介助を要していました。

介助方法については何か特殊な対応が必要だったわけではありませんでしたが、Hさんの思いを尊重しながら自身で安全に行なえる部分については行なって頂き、できない部分を適宜介助するという基本方針で一致しました。

 


私は、PTとしてのリハビリ状況の報告と今後の方向性について発言しました。

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Hさんはかなり体重が減少していたことと、ベッドや車いす上で思うように身体をコントロールできないことからか、常に腰の痛みを訴えていました(腫瘍の腰椎転移なども考えられましたが、検査の結果はシロでした)。

まず、寝る時や車いす使用時の姿勢・動作について色々と試した結果を説明しました(結局、腰痛軽減の効果は乏しかったのですが…)。

PTとしてはいささか手詰まり状態であることを率直に話した上で、可能な限りADL低下の防止に努めること、そして腰痛に対してはマッサージなどの治療手技も含めて対応していく旨を報告しました。

 

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私は通常、腰痛に対してそのような手技を使うことはあまりありません。

受け身的な(患者さん自身の頑張りを必要としない)方法は、腰痛の根本的解決にならない場合が多いからです。

無論、今回のケースは別です。

Hさんに対してはある意味「緩和ケア」的な対応が必要であり、マッサージもその中のひとつと位置づけてよいと思われました。

 

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7.手詰まり状態の中で…

f:id:sunao-hiroba:20190921111655p:plain今思えば、ここでの私の失敗は、看護師など病棟スタッフによる介助の様子をほとんどアセスメントできていなかったことです。

実際に目で見てしっかりと確認した上で、患者さん・スタッフ双方にとって負担の少ない動作(介助)方法を提案するのもPTの大事な業務のひとつですが、Hさんに関しては極めて評価不十分でした。

 

当時「回復期リハビリテーション病棟」と銘打ってはいたものの、その病院では開設直後だったこともあり、看護部門とリハビリ部門との連携は未だ十分ではありませんでした。

職場にもよるとは思いますが、異なる専門職の間では情報共有や意思統一が行なわれにくく、「縦割り」になりがちです。

私は回復期専従のPTの中で最も経験年数が高かったこともあり、部門間の橋渡し的な役割を期待されていたのでしょうが、その頃はまだまだ自覚に欠けていたと言わざるを得ません。

 

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もうひとつは、Hさん自身が今どんな事に不安を抱いており、何を望んでいるのか…言わば「人間としての尊厳」に関わる根本のところを理解できていなかったことです。

私は、「ADLの低下」とか「腰痛の増悪」という表面部分だけでしかHさんを捉えていなかったような気がします。

 


ただ、「手詰まり状態」については他の職種も同様だったようです。


看護師長は私の報告にニッコリ笑ってうんうんとうなずき、主治医は

 

うん、それでいいよ。よろしく頼むね。

 

と同調して下さいました。

 

 

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そして次に、OTからの報告が始まったのですが…。

F主任の発言に、場の空気は一変します。

 

<第3話につづく>

 

 

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