私は現在、介護老人保健施設(以下、老健)にPTとして勤務しています。
このシリーズでは仕事中の出来事や、そこでふと感じたことをつれづれなるままに綴っていきますが、単なる雑感ではなく、若手療法士や中高年の方々にとって何らかの参考になるような内容を心掛けたいです。
今回は、過去記事でも何度か取り上げてきた「医療・介護従事者の言葉づかい」に関する私なりの思いです。
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1.タメ口でも絶大な信頼を得る、ベテラン療法士
私の職場には、20年近く在籍しているベテランの女性OT(作業療法士)がいます。
彼女は、要介護高齢者である利用者さんに対し、基本「タメ口」で会話しています。
とても話し上手で、さりげない日常会話・雑談のなかで利用者さんの困り事・ニーズを把握するのを得意としており、ほとんどの利用者さんから絶大な信頼を得ています。
昭和の歌謡曲や軍歌にも精通しており、よく利用者さんと一緒に歌いながらリハビリを行なっています。
趣味でバンドのボーカルをしていることもあり、かなりの美声です。
声質も女性としては程よく低く、高齢者には聞き取りやすい波長であると言えます。
これらは単に才能があるというだけでなく、彼女なりに相当な努力をしてきた結果でしょう。
療法士としては数年先輩である私にも、彼女のコミュニケーションの取り方は参考になる点が多く、尊敬に値します。
しかし、対象者への「タメ口」は私の信条に反するので、その点だけは肯定できません。
2.関西圏特有? それとも…
私は21年のキャリアのなかで、現職を含め3つの老健に勤めた経験があります。
いずれも関西圏内の施設ですが、職員の言葉づかいはほぼ例外なく「タメ口」が基本で、たまに思い出したように敬語を使っているというのが実情です。
関西人特有の、よく言えば「ざっくばらん」、悪く言えば「なあなあ」な感じ…。
他の地域では、どうなのでしょうか?
他府県の医療・介護従事者に直接尋ねたことが無いのでよく分かりませんが、SNSなどインターネット情報から察するに、この「タメ口問題」はどの地域でも多少はあり得ることのようですね。
※Wikipediaにおいても、タメ口は『場合によっては言葉による暴力となり、エイジズム(老人蔑視)の一形態である』と、かなり否定的に記述されています。
⇒タメ口 - Wikipedia
また、私の印象では医療機関(病院・診療所など)よりも、介護施設の職員の方が「タメ口傾向」が強いような気がします。
3.なぜ介護従事者はタメ口を使ってしまうのか?
過去記事で同様の考察をすでに述べています。
内容が一部重複し申し訳ございませんが、あえてもう一度検証してみましょう。
1)伝わりやすい
例えば難聴や認知症の高齢者の場合、語句・文節が長くなればなる程、うまく意図が伝わらないことがあります。
①「◯◯さん、朝ごはんは召し上がりましたか?」
②「◯◯さん、朝ごはん食べましたか?」
③「◯◯さん、ごはん食べた?」
①で伝わるならそれに越したことはありませんが、③の尋ね方をしてみてようやく理解して頂けるということもよくあります。
利便性という意味でも、言葉は手短にした方が高齢者には伝わりやすいのですが、それが介護従事者にとってタメ口が癖になってしまう「落とし穴」であるとも言えます。
ちなみに私自身は敬語を基本としてはいますが、「尊敬語」の多用はどうしても語数が増えてしまうので、②の「丁寧語」を使い、ゆっくり話すようにします。
ゆっくりといっても、
「あ~さ~ご~は~ん~食~べ~ま~し~た~か~?」
では余計伝わりにくくなります(^_^;)
基本的には文節で区切り、適宜ジェスチャーも交えるようにします。
◯◯さん(目線を合わせてニッコリ)、朝ごはん(食べるまね)、食べましたか?
といった具合です。
2)親しみを込めたい
先に述べたベテランOTのごとく、親近感のある言葉づかいは警戒心を取り除く効果があるでしょうし、会話の中で利用者さんの困り事を引き出すきっかけにもなります。
ただし、対象者と心理的に一定の距離を置くことも、一方では大切ではないかと私は思います。
信頼関係・親近感と「依存」「なあなあ」は、つねに紙一重です。
あまり親密になり過ぎると、頑張ってリハビリを行なって欲しい時など、ついつい職員に対する「甘え」が入ってしまい、うまくいかないこともあるものです。
さらに、長期にわたって施設を利用されている対象者と古参職員との関係が親密過ぎる場合、新入職員や非常勤職員・実習生・ボランティアの方々にとっては介入しにくくなるということもあります。
3)「世話をしてやっている」という奢り
医療・介護は、言わば「他人の不幸を飯のタネにしている」業種であり、だからこそ常に謙虚な姿勢が求められます。
ところが、社会的弱者を支援する職業では時に「我々が世話をしてやっているのだ」という感覚が無意識的に芽生えてしまうような気がします。
タメ口の中にその「無意識」が見え隠れしているように思えるのは、私の邪推でしょうか…?
これは業界裏話ですが、無理難題を押しつけてくる対象者や悪質クレーマーに対し、職員同士で愚痴を言い合ったりすることは結構多いです。
「全てのお客様(利用者様)は神様です」というわけでもないので、ある程度やむを得ないとは思いますが、限度を超えて「悪口」がエスカレートすることもあります。
私は管理職だった頃、それを戒めるため
患者さんの居ない所でその人を話題にする時は、必ず「◯◯さま」と呼称しましょう。
と取り決めていました。
リハビリの中で直接会話する際には「◯◯さん」の方が自然なので、通常はそうお呼びしますが、目の前に居ない時ほど「さま付け」で敬意を払いましょう、というわけです。
言葉とは不思議なものです。
相手に対し敬意が無いからタメ口になる…という考え方もあるでしょうが、逆に
言葉づかいが乱れると、話の内容や対応まで敬意を欠いたものになる。
とも言えるのではないでしょうか。
4)接遇教育の不徹底
私自身、完璧に敬語を使いこなしてはいませんし、時には意図的に崩すこともあります。
ただ、利用者さんに合わせて言葉づかいを柔軟に変えましょう…というのは簡単ですが、では具体的に「こういうケースではどうするの?」と問われた場合、明確には答えづらいと思います。
何と言っても、対象者は千差万別です。
経験の少ない部下や後輩に対して「柔軟に対応せよ」といった指導は、実質的には有効な職員教育とはなり得ません。
やはり一定の基準・標準を設けておくことは必要なのです。
それが「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」といった敬語の習得であり、これをベースとして接遇対応の練習を繰り返すことが重要なのだと私は考えます。
基本が身についていない人に、「状況に応じて言葉づかいを崩す」ことなど出来るはずがありませんから。
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4.適応の結果か? …それでも私は敬語を基本とする
以前、私は「タメ口絶対ダメ派」でした。
しかし、冒頭で述べたベテランOTの例もあり、今ではタメ口職員を全否定してはいません。
少なくとも介護施設で職員の言葉づかいがそうなりがちなのは、「自然淘汰・適者生存」の結果なのかも知れませんし、評価すべき点もあると考えています。
ただし肯定するわけでもなく、諸手を挙げて賛成ということもありません。
タメ口で話しかけられて一見喜んでいるようでも、心の中では医療・介護従事者に遠慮し、我慢して下さっているのかも知れません。
あるいは、目の前の対象者は親近感を持って下さっていたとしても、それを聴いている第三者(ご家族や他の利用者など)には不快に感じられることもあるでしょう。
それくらいの洞察力は、医療・介護に携わる職種には求められて然るべきだと思います。
今の私は、難聴や言語理解に問題のある対象者には状況に応じて言葉づかいを崩すことはありますが、それでも敬語を基本とするように心掛けています。
それ故か、あまり親しみを感じて頂けないことも時にはありますが…(^_^;)
そもそも敬語で話すと堅苦しくなって信頼関係が築けない…などというのは、私の専門職としてのコミュニケーションスキルがまだまだ未熟だからでしょう。
私の父は生前、とてつもない医療不信者でした。
その理由のひとつに、「上から目線」な医療従事者の態度が気に入らなかったというのがあったようです。
脳出血で倒れ、継続的な治療が必要になってからも、病院へ行くことを極端に嫌がり、また在宅介護サービスも頑なに拒否していました。
ある時、主治医が父に対し子供を扱うようにあからさまなタメ口で話しかけた瞬間、父の形相がみるみる怒りモードになっていくのを私はハラハラしながら見ていたものです。
読者の皆さんはいかがでしょうか?
私たちもいずれ老人となり、医療・介護従事者の「お世話」になる時が来るでしょう。
そんな時、貴方は自分の子や孫世代の若造から、タメ口で話しかけられたいでしょうか…?
今回は「職場での出来事」と言いつつも、過去記事の二番煎じになってしまい誠に申し訳ございませんでした σ(^◇^;)
言葉づかいを含め、接遇についてご興味のある方は以下の記事も参考にして頂けるとありがたいです。
最後までご覧下さいましてありがとうございましたm(_ _)m
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