相撲技のひとつである『かち上げ』を装った『肘打ち』が問題視されています。
大相撲がれっきとしたスポーツである以上、重大な後遺症につながるような危険行為は反則技として規則化すべきと私は考えます。
まずは『かち上げ』と『肘打ち』、この2つの違いを明確にするところから話を始めましょう。
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※当記事の作成にあたり、下記のウェブページを参考にさせて頂きました。
⇒ハッキヨイ!せきトリくん > おしえて八十二手 > 禁じ手反則
1.『かち上げ』は効果的な相撲技
『かち上げ』は、以下の写真のように肘を「くの字」に曲げた状態で相手の胸のあたりにぶつかる相撲技です。
その目的は、立合いに相手の上半身を起こして重心を上げ、自分有利の体勢に持ち込むことです。
前回の記事で述べた「頭突き」や、肩の辺りでぶつかる立合い(アメフトの「ショルダータックル」のようなもの)と同様、いわゆる体当たり系の技(相撲用語では「ぶちかまし」)であると言えます。
◆『かち上げ』では、肩~上腕~前腕の「面」を使う。
◆相手の胸を突き上げ、立合いを有利に運ぶのが本来の使用目的である。
これらについてご理解頂けたかと思います。
特にここでは、肘という「点」のみを使った打撃技でないことにご注目下さい。
2.凶器としての『肘打ち』の危険性
①非常に硬い「肘頭」の構造
2本ある前腕骨のうち、尺骨の基部は解剖学的には「肘頭(ちゅうとう)」と呼び、ヒトの腕の骨の中でも特に硬く尖っている部位です。
手の指は、よほど鍛錬しないと強くはなりません。素手で顔面を殴れば、指の骨など簡単に骨折してしまいます。
一方、肘頭は特段鍛えなくても元々かなり頑丈にできており、上腕骨を軸にして振り回すことで高い攻撃力を発揮します。
それゆえに、ムエタイなどの一部を除き、ほとんどの格闘技では「頭部への肘打ち」は禁じ手となっています。
サッカーなど格闘技以外のスポーツでも使われることがありますが、もちろん非常に危険なため一発退場などの厳罰になるケースが多いです。
ところが、大相撲では「握りこぶしでの殴打」は反則とされているものの、肘打ちについては何も規定されていません。
②『かち上げ』に見せかけた『肘打ち』の威力
◆2016(平成28)年夏場所:白鵬(はくほう)vs. 勢(いきおい)
※白鵬 vs. 勢の取組映像は4:00~。
立合い、白鵬はまず左から張り手を行いますが、これはフェイントであり、その後すかさず右から『かち上げ』を繰り出します。
腕の形こそ『かち上げ』に準じていますが、胸を突き上げるのではなく、相手力士の顎~顔面にヒットさせています。
これは、意図的な『肘打ち』といっても過言ではないでしょう。
白鵬は、一歩間違えれば非常に危険な行為であると認識していながら、
『かち上げ』は、相撲技のひとつである。
『肘打ち』は、反則と明記されていない。
この2つの事実を巧妙に利用し、「勝つ」という目的のためにルールの抜け道を突いているのだろうと私は見ています。
白鵬は過去、他の力士にもこの手段を用いていますし、同じモンゴル出身力士では横綱・朝青龍(既に引退)も同様に肘打ちを使ったことがあります。
こう述べると「これだからモンゴル人は…」と差別的な感情も出てきそうですが、過去、日本人同士の対戦でも「かち上げが顔面を直撃し一発KO」というケースはいくつもあります。
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3.『肘打ち』の全面禁止を!
まず、私なりの結論を述べます。
①故意の有無にかかわらず、直ちに反則負けとする
反則と明記されていない限り、今後もルールの抜け道として『肘打ち』が使われることは間違いありません。
決して白鵬を擁護するわけではありませんが、横綱には品格が求められる一方、「勝ち続けること」も強く要求されます。
ルール違反でない限り、効果的に勝つ方法があるなら積極的にそれを活用しようとするのは、勝負に貪欲な横綱なら当然とも考えられます。
だからこそ、以下のようにルールを明確化すべきと考えます。
◆『肘打ち』:
⇒顔面はもちろんの事、身体のいかなる部位に当てても反則負け。
◆『かち上げ』:
⇒本来の使用方法ならOKだが、首から上に当たれば「故意の有無」にかかわらず『肘打ち』と同等とみなし、直ちに反則負け。
腕の骨のなかでも飛び抜けて硬く尖っている肘頭は、頸部に当たれば喉頭・気管などの重要器官の損傷につながる恐れがあり、顎や顔面に当たれば簡単に骨を粉砕してしまいます。
いくら鍛え抜かれた力士がぶつかり合う大相撲とは言え、無用なリスクは未然に避けるべきです。
そして単にルール化するだけでなく、疑わしきはすぐに「物言い」をつけてVTRで確認するなど、実際の取組できちんと適用することを徹底して頂きたいです。
②横綱審議委員会は役割を果たしているのか?
『横綱審議委員会(以下、横審)』は、日本相撲協会の諮問機関です。
その役割は、横綱に関する諸々の案件について協会の諮問に対し答申したり、協会の発議に基づいて進言することとされています。
まぁ簡単に言えば、
1)協会から意見を求められたら協議し、その結果を協会へ報告する。
2)横綱の言動に問題がある時は、協会の意向に沿って横審から当該横綱へ注意を与える。
こんなところでしょうか。
2017(平成29)年12月、横審の北村委員長(毎日新聞社名誉顧問)が、張り手・かち上げを多用する白鵬の取り口を「横綱相撲とは到底言えない。美しくない」といった相撲ファンからの投書を引用し、苦言を呈しました。
こういうところが「根本的におかしい」と私は考えます。
一般人と同じ感覚で、感情的に「品格が無くてケシカラン」などと言うのは素人同然です。
それよりも、肘打ちを反則として明文化することを協会に提案するのが先ではないでしょうか?
「白鵬のかち上げが危険で見苦しいと言っても、ルールで禁止されていないではないか」
「横綱としての品格といった抽象論・感情論で、認められている技を自粛させるというのは、スポーツとしてフェアではない」
「白鵬の品格を云々する前に、まずはルールの不備を正してはどうか」
このような審議結果を答申し、協会にルール改正を促すのが横審の本当の役割ではないかと思います。
横審のメンバーは「相撲に造詣の深い有識者」で構成されており、なかには弁護士なども選出されているようです。
にもかかわらず、そういう真っ当な意見が出てこないのですから、私には不思議で仕方ありません。
③相撲協会は保守的体質を一部改めてはどうか?
横審もそうですが、協会は張り手の品格論と今回の『かち上げ(を装った肘打ち)』を混同してはいけません。
張り手は、耳や目などを意図的に狙うものでない限りそれほど危険な技ではありませんし、相手力士はいくらでもつけ込むことができるものです。
しかし、『肘打ち』は明らかにリスクが高く、また『かち上げ』を装って首から上を狙う悪質なものになりがちです。
こぶしで殴るのと同等、あるいはそれ以上に危険なのですから、禁じ手とするのは妥当でしょう。
少なくとも、品格論と絡めて白鵬個人を注意するような些末な問題ではありませんし、ルールに書いてはいないが自粛すべきといった「紳士協定」のような曖昧なものではダメだと思います。
しかし、一度定められた規則を変更することに対しては、何かと抵抗感が強いようです。
こういうところにも日本相撲協会のフットワークの鈍さ(悪い意味での保守的体質)が現れているように私には感じられます。
またまた相撲界を批判するような内容となってしまいましたが、大相撲をこよなく愛するファンとしての一途な気持ちであることをご理解頂ければと思います (;^_^A
できれば次回からは、相撲の魅力を具体的に伝えられるような前向きな内容にしたいです。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
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