すなおのひろば

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◆両横綱の休場もあり、大相撲九月場所の優勝争いは混沌としています。貴景勝の復調に期待します…(9/18)

【大相撲の魅力:その3】立合い…③究極の立合い『後の先(ごのせん)』

f:id:sunao-hiroba:20190316115449p:plain今回は、昭和初期の大横綱双葉山が追い求めた究極の立合い『後の先(ごのせん)』についてお話しします。

理学療法士らしく(?)運動力学的な視点からご説明できればと思いますが、例によって私見が多く含まれておりますので、何とぞご容赦下さいませ。

 

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1.「運動エネルギー」と立合い

動いている物体は、他の物にぶつかるとそれを動かしたり変形させたりします。

すなわち「運動エネルギー」とは、

動いている物体が持つエネルギー(破壊力)

と言い換えてよいでしょう。

<計算式>

運動エネルギー(J:ジュール)= 1/2 x 質量 x 速度の2乗

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例えば自動車事故などは、スピードが速ければ速いほど凄まじいものになりますよね。
これは衝突時の運動エネルギーが理論通り、速度の2乗に比例するからだと言えます。

例えば…

1/2 x 自動車1,000kg x 時速40kmの2乗=61,728(J)

1/2 x 自動車1,000kg x 時速80kmの2乗=246,914(J)

速度が2倍なら破壊力は4倍、というわけです。

相撲の立合いも同様に、早く立ち上がり、速いスピードでぶつかるほど威力は増します。
だから各力士は少しでも早く(速く)立つために、功利的な立合いをしがちなのです。

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しかし、人間は自動車や鉄球などとは違い、互いの身体の形は取組のなかで刻々と変化していきます。

相撲の立合いは単に「早ければ有利」というわけではなく、もっと奥の深いものです。

 

2.『後の先』とは?

仕切り・立合いに関して、双葉山が語った言葉を要約します。

「仕切りで相手の虚を突くことのみに専念する、あるいは漫然と仕切り直しを繰り返すのは、明らかに相撲道として邪道である」

「向こうが立てば、私はいつでも受けて立つ。しかし立った瞬間には、いわゆる“後の先”で機先を制し、自分十分の体勢になる」

このような立合いを追い求め、常に一回一回、全身全霊を込めて仕切りを行っていたといいますが、「言うは易く行うは難し」です。

ここからは私自身の解釈も交えて『後の先』について述べることをお許し下さい。

1)図解:『後の先』の立合い

「フィグマ君」の側から説明を加えます。

まずは、しっかり腰を割って両者見合います。

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そして両手をつきます。

互いに動作を同調させるのは言うまでもありませんが、ほんの少しだけ遅れて相手に追随するのがポイントです。

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そうすれば、相手のダークフィグマ君にとっては「呼吸がピッタリ合っている(合わせてくれている)」ため、極めて自然に仕切っているように感じられます。

左のダークフィグマ君の方が早く立ち上がります!

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フィグマ君は、相手の動きを見ながら一瞬遅れて立ちます。
遅れるといっても、1/100秒単位のわずかな時間差と考えて下さい。

早く立った分、ダークフィグマ君の方が衝突時のスピードは速く、運動エネルギーでは勝ります。

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しかしその一方、上体が浮き上がるのも早く(緑線)、ぶつかった瞬間はフィグマ君の方がむしろ姿勢(重心)が低くなっているのがお分かりでしょうか。

低く、遅れ気味に良い角度で踏み込んだフィグマ君が、左腕でダークフィグマ君の右差し手をおっつけながら左上手のちょうど良い位置を取ります。

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ダークフィグマ君は一瞬早く立ったにもかかわらず、上手を引きつけられ腰・上体が伸び上がってしまいます。
こうなるとフィグマ君、右四つ・左上手で万全の体勢です。

2)『後の先』の利点

◆動作・呼吸を合わせやすい

あえて揚げ足を取るならば、

「両者とも相手が動くのを待っていたら、いつまで経っても動きが始まらないじゃないか!」

という理屈も成り立つでしょうが…。

通常は、お互い相手に追随するよう意識することで動作や呼吸の同調が図られ、「待った」「突っかけ」のないクリーンな立合いが可能となるはずです。

◆相手の動きを最後まで見切れる

早く立つことだけを意識し過ぎると、立合いの変化(相手に当たらず、左右に体をかわす)について行けず、バッタリ飛び込み…ということもよく見受けられますね。

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最後まで相手の動きを観察することで、このような失敗はほぼ無くなります。

◆重心を低く保てる

前述のように、わずかに遅れ気味にタイミング良く踏み込めば、相手より重心を下げてちょうど良い角度で当たることができます。

相撲では、腰(重心)は一般的に低ければ低いほど有利とされます。

3)『後の先』の欠点

◆立ち遅れのリスク

相手の動きを洞察し、やや遅れ気味に最良の角度で当たる理想の立合いは、タイミングが遅すぎると「立ち遅れ」となり、一気に出てこられるリスクと紙一重でもあります。

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明らかな立ち遅れは運動エネルギーの観点からも絶対的に不利であり、「相撲は立合いで勝負が8割以上決まる」と言われる所以です。

究極の立合いは、まさに難易度もMAXであると言えるでしょう。

 

3.双葉山・後の先の立合い

さあ、ここで双葉山の立合いをじっくりと見てみましょう。

1)1942(昭和17)年春場所:対 横綱男女ノ川(みなのがわ)戦

まずは、呼吸のピッタリ合った見事な仕切り動作にご注目下さい。

 


Futabayama vs. Minanogawa : Haru 1942 (双葉山 対 男女ノ川)



立合い、男女ノ川がいきなり左から張り手を行いますが、そのため上体が浮き上がってしまいます。

双葉山は一瞬遅れて立ち上がり、懐に飛び込むや左差し・右をおっつけながら前進し、一気に向正面へ寄り切ります。

男女ノ川は身長193cm(双葉山180cm)と、当時としては飛び抜けて長身であり、また相撲の取り口も腰高であることから、双葉山の方がより低く見えるということもあるのですが…。

それにしても、後の先の立合いがバッチリはまった会心の一番ですね。

2)1940(昭和15)年春場所:対 大関・前田山(まえだやま)戦

やはり、互いに動作をシンクロさせた仕切りが目を見張ります。
昨今の力士とは大違いです。

 


Futabayama vs. Maedayama : Haru 1940 (双葉山 対 前田山)



前田山が右から張り差し気味に立ち、すぐに右へ回り込みます。

双葉山は『後の先』というより若干立ち遅れのようにも見えますが、よく観察していたぶん前田山の右への変化に即座に対応しています。

この後は立合いの話から外れますが…前田山は当時「横綱に対して失礼ではないか」という批判も何のその、張り手を交えた猛突っ張りを果敢に繰り出します。

それに対し双葉山は「何だそんなものか、さぁもっと来い!」とでも言うかのように胸を出し、正々堂々と受けて立ちます。
まるで稽古でもつけているようです。

最後は格の違いを見せつけ、組み止めて吊り出し。さすがです。

 

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4.右眼のハンデを乗り越えて

双葉山が『後の先』を追求した背景には、右眼の視力がほぼゼロに近かったということもあったようです。

視界が狭い状態では、立合い自ら飛び込んでいくような相撲は難しくなります。

相手の出方を伺うため、よく見て受けて立つ。いわば「目で見る」のではなく「身体で感じる」立合い・取り口にならざるを得なかったものと思われます。

そしてそのハンデこそが、双葉山を比類無き大横綱にしたとも言えるでしょう。

第35代横綱 双葉山 定次(ふたばやま さだじ)

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横綱在位:17場所
横綱成績:180勝24敗22休 勝率.882
幕内最高優勝:12回
全勝優勝:8回(白鵬に次いで歴代2位)
幕内連勝記録:69連勝(歴代1位 ※昭和以降)

画像引用元:Number Web 2010年11月13日配信

 

双葉山の魅力については、またいつか記事にしたいと考えております。

 

5.さいごに

双葉山とて、常に『後の先』の立合いが成功したわけではなく、むしろ立ち遅れて攻め込まれ土俵際で辛くも勝利する、という場面も多かったようです。

相手を捕まえにいく「四つ相撲」の双葉山ならともかく、離れて取る「突き押し」タイプの力士ならば立ち遅れはさらに致命的となります。

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しかしそうかと言って、『後の先』の立合いが荒唐無稽・時代遅れということでは決して無いと私は考えます。

立合いの形は各力士の体格や取り口によって千差万別ですが、明らかに言えることは「強豪力士は、ほぼ例外なく立合いがうまい」ということです。

千代の富士北勝海(現・八角理事長)も『後の先』の流れを汲み、現代のスピード相撲に合わせて発展させた立合いの技術を見せてくれました。

最近の有望力士で言えば貴景勝なども、今回ご紹介した方法とは異なる仕切りではありますが、呼吸の合わせ方が巧みであり、将来性の高さを伺わせます(また機会があれば記事にしますね)。


皆さんも大相撲をご覧になる際は、今一度「仕切り・立合い」に着目して頂けると嬉しいです。

最後までご覧下さいましてありがとうございました ヾ(・・*)

 

 

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