前回までの記事で、T字杖の使用目的・および調節方法等についてご理解頂けたかと思います。
そこで今回は、T字杖による歩き方・階段の上り下りの手順についてご説明します。
基本的な動作パターンを習得することで、杖の機能を最大限に活かすことができます。
すでにT字杖を使用している方々にも復習になれば幸いです ♪
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1.杖は「健側に持つ」のが基本
前回も少し述べましたが、杖は健側(良い脚の側)に持つのが基本です。
<理由>
杖の使用目的のひとつは、患側(悪い方の脚)に掛かる負担を減らすことです。
ということは、歩行・階段などの動作時は常に「悪い脚と同時に」杖をつく必要があります。
そうすると、患側に杖をついて歩いた場合、支持基底面が狭くなってしまいます。
当然ながらバランスは悪くなりますし、体重の分散も不十分となります。
2.T字杖の歩行パターン
杖を健側の方に持つ理由がお分かり頂けたところで、いよいよ歩行パターンを習得しましょう。
※写真のモデル『フィグマ君』は、左脚(白い包帯を巻いている側)を患側としています。
1)基本パターン
①杖と患側を出す
⇒ほぼ同時に出しますが、杖は一瞬早くても良いでしょう(後出しにはならないように!)。
②次に健側を出す
この繰り返しです。
このように図解でご説明すると、逆に難しく考えてしまう人もいらっしゃいますね…済みません(^_^;
ただ、杖をつかない場合でも、歩く時は脚と反対側の手を前に振るのが普通ですよね。そう思えば案外難しくはないものです。
2)習得が難しい場合
それでも頭が混乱して上手く杖を使えない人は、手すりをT字杖に見立てて練習しましょう。
まずはこれで体を慣らしてから、杖へ移行するとスムーズにいくはずです。
3)バランスが良くない人は…
1)の基本パターンで歩行が安定しない人は、以下のように健側の歩幅を少な目にしてみましょう。
歩行スピードは遅くなりますが、バランスは崩しにくいです。
これでもなおバランスが悪いという人は、そもそもT字杖は不適応なのかも知れません。
医療(介護)機関にご相談の上、「ロフストランド杖」や「多脚杖」などを検討するのもひとつです。
4)健側に杖をつくことができない場合
例えば右手をケガしていて、健側(右脚)の方に杖を持てない場合などです。
左手と左脚を同時に出すという変則パターンになりますが、前述のように杖は常に「悪い脚と同時に」支えておかなくては意味がありません。
健側につくのと比較して支持基底面は狭くなりますが、こうするより仕方ありません。
ともかく、基本パターンであれ変則パターンであれ
「杖と患側は仲良く一緒に ♪」
このように覚えて頂けると良いです。
この原則は、次項の「階段昇降」にも応用できますからね。
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3.T字杖の階段昇降パターン(2足1段)
ここでは、1段上る(下りる)ごとに両脚&杖を同じ段に揃える方法をご説明します。
この方法は、専門用語で
◆2足1段(にそくいちだん)
と呼びます。
スピードは遅くなりますが、患側に負担が掛かりにくく、安全です。
※これに対し、普通に上り下りするのを
◆1足1段(いっそくいちだん)
と言います。
1)上りの基本パターン
①健側を上げる
⇒健側を先に上げることで、体を上段に持ち上げるのが容易になるからです。
②次に杖と患側を上げる
⇒ほぼ同時ですが、杖を先に上げても良いでしょう(後出しにはならないように!)。
この繰り返しです。
2)下りの基本パターン
①杖と患側を下ろす
⇒ほぼ同時ですが、杖を先に下ろしても良いでしょう(後出しにはならないように!)。患側の脚はなるべくゆっくり下ろしましょう。
②次に健側を下ろす
⇒健側は後で下ろす方が、体重を支えつつ患側をゆっくり下ろすのが容易になるからです。
この繰り返しです。
このように、
◆上る時:健側が先。
◆下りる時:杖&患側が先。
と、それぞれパターンが真逆になるので、混乱される方々が多いですね…(^_^;
運動機能の左右差が少ない人なら間違えてもそれほど問題にはなりませんが、そうでなければこの基本パターンは守って頂きたいです。
例えば、上りの際に間違って患側を先に上げてしまうと、悪い脚で体重の大部分を支えて持ち上げなくてはならず、相当な負担が掛かるからです。
ゆえに、2足1段の階段昇降では上り・下りともに「良い脚を上段に置く」のが基本ですが、理論で説明するとややこしいので
「行き(上り)は良い良い、帰り(下り)は怖い(悪い)」
患者さんには、このように覚えて頂きます。
3)患側に手すりがある場合
このように、患側(左)に手すりが有る場合は、必ずしっかり持つようにしましょう。
もちろん基本パターンは同様です。
では、手すりが健側にしか設置されていない場合は…?
4)健側にのみ手すりがある場合
はい、右で手すりを持ち、杖は左に持ち替えましょう!
上り・下りともに、杖の持ち手は逆になっても
「行きは良い良い、帰りは怖い」
の原則は不変です。
最近は、公共施設の階段なら、たいてい両側に手すりが設置されていますね。
◆両側に手すりがあれば、患側で手すりを把持する(杖は持ち替えなくて良い)。
◆健側(杖側)にのみ手すりがあれば、杖を反対側に持ち替え、手すりを把持する。
回りくどいですが、要は、
「手すりがあれば必ずそれを優先する」
という事です。
手すりほど安定した支持物はありませんからね。
4.エスカレーター・動く歩道の乗り降り
説明が分かりにくくて申し訳ございませんm(_ _)m
ちょっと混乱してしまったでしょうか…?
混乱ついでに(?)、エスカレーターや「動く歩道」の乗り降りにも言及しておきます。
まず、エスカレーター・動く歩道ともに「動く面に乗り、静止した面に降りる」という状況は変わらないので、基本的に両者の違いはありません。
また、エスカレーターの「上り・下り」によるパターンの違いも全くありません。どちらもフラットな面にアプローチすることに変わりはないからです。
私の経験上、乗り降りともに「健側の脚」からアプローチするのがベターと考えられますが、逆に「患側から」と推奨する療法士もいるようです。
諸説あるのも、「動いている面⇔固定されている面」の移動という特殊な状況であるがゆえでしょう。
健側・患側どちらから踏み出すにしても、それぞれメリット・デメリットはあります。
ただ、乗り降りともに前後への急激な姿勢変化をコントロールするという意味でも「健側アプローチ」の方が良いように思われます(特に患側の機能低下が著明な場合)。
もちろん、手すりは両側についているので活用します。
いずれにせよ、杖歩行でのエスカレーター・動く歩道の利用は一定のリスクを伴いますので、他の移動手段(エレベーターなど)が無理なく利用できる場合は、そちらを優先した方が無難でしょう。
5.さいごに
今回はT字杖による歩行・階段のパターンをご説明しましたが、その他の杖でも基本的な動作パターンはほぼ同じ(松葉杖は少し異なる部分もありますが…)です。
ということで、次回の当シリーズでは松葉杖の使用方法について解説したいと思います。
今しばらくお待ち下さい。
最後までご覧下さいましてありがとうございました (^_^)/♪
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