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【歩行補助具の基礎知識:その7】歩行器の種類と適応 …<前編>室内用歩行器について

f:id:sunao-hiroba:20201107185105p:plain福祉用具としての歩行器にはさまざまなタイプがあり、使用者の身体能力や住環境に応じて適切に選択する必要があります。

今回は、医療・介護施設や在宅で使われることの多い2つの室内用歩行器について述べたいと思います。

※主に一般向けの基礎的な内容となりますが、医療・介護従事者の方々にも参考になれば幸いです。

 

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1.はじめに…歩行器の安定性に影響する要素

この歩行器シリーズ記事では下図4種類についてご説明しますが、前編の今回は室内用の左側2つを主に取り上げます。

 

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※画像引用元(屋外用歩行車のみ):島製作所

※名称は統一的なものがないため、PTの現場でよく使われる通称を用いています。ご容赦下さい。

 

過去記事(【歩行補助具の基礎知識:その1】杖の種類と適応について)でも述べましたが、物体の安定性(バランスを崩しにくい)は、その支持基底面の広さと相関があります。

歩行器の場合、支持基底面の広さに加え、以下2つの要素も安定性に大きく影響することを覚えておきましょう。

◆車輪付きか否か
⇒車輪が無いものは体重を支えやすく安定するが、動かしにくい。
⇒車輪付きのものは動かしやすいが、支えにくく不安定。

◆歩行器の支持基底面内に使用者の身体を収められるかどうか
⇒歩行器と身体が離れていると不安定になりやすい。

 

2.『ピックアップウォーカー』

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※画像引用元:アビリティーズ・グループ

 

両手で持ち上げて前に進むことから、この名称がついています。
別名『4点歩行器』などと呼ぶこともあります。

使用方法は以下の通り、3動作パターンになります。

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①歩行器を持ち上げ、ポンと前に出します(出し過ぎに注意)。

②患側(悪い方の脚)を前に出し、歩行器の支持基底面内に入ります。
③健側(良い方の脚)を前に出し、患側と揃えます。

能力の高い人なら2動作パターン(歩行器と患側を同時に出す→健側を出す)でいける場合もありますが、バランスは3動作よりも悪くなりがちです。

1)長所

①支持基底面内に身体を収められる

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4点で囲った支持基底面のなかに、身体をスッポリと収めることができます。

支柱でしっかりと体重を支えられるため、安定性はかなり高いです。

あたかも「持ち運び可能な平行棒」として使用できるのが、この歩行器の最大のメリットです。

②段差のある床面でも使用できる

車輪タイプとは違い、杖のように取り回せるため、床面に少々の段差があっても使うことができます。

2)短所

①ある程度の腕力が必要

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この歩行器はそれほど重いものでもありませんが、持ち上げたり支えたりできる程度の腕の力は必要です。

脳卒中片麻痺患者など、腕力や巧緻性に左右差のある人は適応になりにくいと言えます。

②動作パターンが覚えにくい

前述のように、『歩行器を持ち上げて前に→患側を前に→健側を前に』の3動作パターンになります。

f:id:sunao-hiroba:20201107194214p:plain通常の歩行様式とはかなり異なるため、高齢者、特に認知症の人には習得しにくいようです。

混乱して手足の出し方がバラバラになると、バランスもますます不安定になってしまいます。

3)適応する身体状況

下肢の筋力はMMT(徒手筋力テスト)で3程度、すなわち「膝折れするかしないかぐらい」のレベルでも使えます。

※MMT3レベルとは、「重力に抗して、かろうじて身体を支えられるぐらいの筋力」と考えて下さい。

そのため、病院では整形外科手術後(骨折や人工関節置換術など)の急性期リハビリの場面で用いられることがあります。

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平行棒内での歩行練習をクリアし、歩行車や杖歩行へ移行するまでの「つなぎ」として一時的に使うなどが有効な活用方法でしょう。

4)使用に適した住環境

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病院や介護施設のみならず、和式住宅にも適応しています。
少々の段差であれば乗り越えられるからです。

下肢筋力の弱い高齢者が自宅内を歩いて移動する手段として、ピックアップウォーカーは選択肢のひとつとなり得るでしょう。

ちなみに屋外でも使えないことはありませんが、脚力のかなり弱い人が使用することを想定すると、相当な危険を伴うのは言うまでもありません。

 

3.『室内用歩行車(馬蹄タイプ)』

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※画像引用元:日進医療器株式会社


腕を載せる部分が馬のひづめのような形であることから、『馬蹄形歩行器』とか『U字歩行器』などと呼ぶこともあります。

病院でよく見かける歩行器です。

1)長所

①支持基底面内に身体を収められる

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4つの車輪で囲まれた支持基底面のなかに、身体をスッポリと収めることができます。

車輪付きであることと、肘~前腕の広い面で体重を支持することから、ピックアップウォーカーほど腕力・握力を必要としないのもメリットのひとつです。

②動かし方が簡単

普通に歩くような感覚で動かすことができ、平地をまっすぐ移動するだけなら特別な動作パターンを習得する必要もありません。

2)短所

①意図しない方向へ転がる危険性がある

通常、このタイプの歩行器は前輪が360°自在に動き、後輪は安定性確保のため前向きに固定されているものが多いです。

が、いずれにせよ車輪付きのものはひとたびバランスを崩すと、そのまま転がり滑っていく危険性を有しています。

それを防止するために、ブレーキや抵抗器の付いているものもあります。

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※画像引用元:日進医療器株式会社


パーキンソン病など、バランスを崩しやすい人に提供する際はこれらの製品も検討に値するでしょう。

②サイズが大きく、重い

見た目通り、「かさ高い」のが弱点です。

広々とした病院・施設なら問題ありませんが、狭い戸建住宅などでは扱いにくくなります(一般家庭向けにサイズが小さめの製品も出回っているようですが…)。

 

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また、重量が重いのも難点のひとつです。

施設で使う場面でよくあるアクシデントが、エレベーターの出入りの際に継ぎ目の溝に前輪を落としてしまうことです。

重いため、いったん落ちてしまうと使用者自身で持ち上げるのはかなり難しいです。

平地はスイスイ押していけますが、ちょっとした上り坂になっていると途端に重みを感じます。
逆に、下り坂は勢いがつくと止まらないので十分注意が必要です。

3)適応する身体状況

必要な下肢筋力はMMTで3~4程度といったところでしょう。

※「重力に抗して身体を支えられるが、健常にはまだまだ及ばない筋力」と考えて下さい。

やはり平行棒から杖歩行へ移行するまでの「つなぎ」として使われることが多いです。

歩行様式が普通の歩き方に近いため、ピックアップウォーカーよりもスムーズに杖歩行や独歩へつなげられると言えます。

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基本的には整形外科疾患や内科疾患で体力が低下している人が対象になりますが、脳卒中片麻痺患者でも適応となり得ます(麻痺やバランス障害が軽度の場合のみ)。

ピックアップウォーカーと違い、両手の機能に左右差が少々あっても使えるからです。

4)使用に適した住環境

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車輪付きの歩行器は総じて段差に弱いものですが、このタイプは最初から屋内使用のみを想定しているので、車輪径が小さめ。
ちょっとした段差を乗り越えるのも苦手です。

ゆえに、病院や介護施設での使用率が高いのも頷けます。

在宅で使用する場合、床がフローリングのバリアフリー住宅で廊下の幅も十分あれば、実用的に使えるでしょう。

 

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4.レンタル制度を活用しよう

今回ご紹介した歩行器は、介護保険制度にもとづく居宅サービス『福祉用具貸与(レンタル)』の対象品目です。

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福祉用具貸与は居宅サービスのため、入院中の方や、介護保険制度で定められる施設サービス(老健・特養・介護療養型医療施設・介護医療院)を利用中の方はレンタルを受けられませんのでご注意下さい。

 

歩行器は消耗の激しい福祉用具です。

車輪・ブレーキはもちろんのこと、可動部は頻繁に使っているとすぐに劣化するので、自費購入はあまりお薦めできません(これらの歩行器はなかなか高価です)。

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要介護(or 支援)認定を受けている人には、レンタルを利用することを強く推奨します。

そして、歩行器の選定や調節については担当ケアマネージャーを通じて福祉用具業者やPT・OTにご相談頂くと良いでしょう。

 


最後に、ケアマネージャーや福祉用具業者、PT・OTその他医療・介護従事者へのお願いです。


例えばトイレの出入りの際は、歩行器をいったん外に乗り捨てる形になります(施設の車いす用トイレのように、トイレ内に大きなスペースが確保されていれば別ですが…)。
この場合、歩行器をどこに・どのような向きで乗り捨て、どう動けば安全に出入りできるかを確認する必要があります。

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ベッドへのアプローチや立ち座り時の取り回しなども、狭いスペースのなかではやりにくく、バランスを崩しがちです。

なので、歩行器の適合に当たっては身体能力や基本的な使用方法の確認のみならず、実際の住環境における使用状況をしっかりと目で見てアセスメントして頂きたいものです。

 


今回はここまでとさせて頂きます。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m

 

<次回予定>

歩行器の種類と適応 …<後編>屋外用歩行器について

 

 

 

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