彼は、自分がどこで生まれたのか知らない。
しばらくの間、ゆらゆらと船に揺られていたような気もするが、夢の中の出来事のようで記憶は曖昧だという。
そして気がつくと、とある小さな村に漂着していた。
どうやら、ここは日本という国らしい。
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1.ホームレスのフィギュア
彼の身体は、ポリ塩化ビニルとABS樹脂で出来ていた。
要はプラスチックの一種だ。
そんな彼に対し、村人はあからさまに好奇の目を向けた。
なんで俺だけこんな体なんや……。
彼は、うらぶれた空き家で寝泊まりしていた。
何か仕事に就くわけでもなく、ただ日々を生きるだけであった。
彼の心は荒んでいた。
村の子供たちも容赦なかった。
わぁ、ホームレスのフィギュアだ。
汚ったね~!
いつしか、彼には『ダーク』というあだ名がつけられていた。
ねずみ色の暗いやつ……キモ~い。
ダーク! ダーク! 村から出てけ~!!
……。
2.出会い
えっと……ダークさん?
なんや、俺のことか?
いったい何の用や。
ん? 何やそれ。
ぶどうパンだよ。おいしいよ😊
ダークさん、おなかすいてると思って。
余計なお世話や。
俺はメシなんかいらん。人間とちゃうからな。
そう、ごはん食べないのね……。
……おまえ、名は?
ふふっ、直美だよ🎶
……。
じゃあね、ダークさん。
ナオミ……か。
3.人間になる方法
おい、ここで一番偉い坊主はおるか?
ちょっと話がしたい。
……住職のことですか?
ちょ、ちょっとお待ち下さい。
そなたは、確かダークと申したな。
ダークやと? そんなもん、近所のガキが勝手につけたあだ名や!
ふぉっふぉっふぉっ🎵
しかしよう似合っておるわい。
くっ……。
おい坊主、俺はどうしたら人間になれるんや?
おぬし、人間になりたいのか?
なぜじゃ。
理由なんかどうでもええ。
強いて言えばな、これ以上バカにされたくないんや。
同じ人間になって、アイツらを見返してやるんじゃ!
そうか……。
では、そなたも人間と同じように働いてみよ。
それも、皆が忌み嫌う仕事をな。
みんなが嫌がる仕事?
“ 汚いもの、嫌なものを全部引き受けて、下水道はいつも土の下 ”
昔、わしの尊敬する人物が言っていたことじゃ。
……。
下水道のように生きてみよ。愚直にな。
さすれば人の気持ちが分かるじゃろ。
それをやれば、俺は人間になれるんか?
そなたの心がけ次第じゃ。
ふん、誤魔化しやがって。まぁええ、いっぺんやってみるわい。
おい坊主、もし人間になれんかったらタダじゃ済まんからな💢
ふぉっふぉっふぉっ🎵
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4.愚直に生きる
ダークは人間に雇われ、働くこととなった。
誰もが嫌がる仕事を。
やがて、彼の身にある変化が現れた。
身体が、徐々に大きくなっていくのだ。
体調が悪いわけではない。
いや、むしろ身体の隅々にまで力がみなぎっているようだった。
俺は……いったいどうなってるんや。
あっ、ダークさん。お仕事頑張ってるんだね!
いつも見てるよ。ありがとう🎵
……。
ダークは、その後も愚直に働き続けた。
住職の言葉を信じて。
しかし、彼が人間になる気配はなかった。
<後編につづく>
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