去る5/13(水)、大相撲の三段目力士・勝武士(しょうぶし)さんが、新型コロナ肺炎による多臓器不全のため28歳という若さでご逝去されました。
新型コロナで日本のプロスポーツ選手が亡くなるのは初めてであり、また20代の死亡例も他に報告されていません。
我々国民にとって衝撃的であり、また大相撲ファンにとっても痛ましい出来事でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。
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1.力士特有の潜在的リスク
今回の件では、発症後も保健所となかなか連絡が取れず、受け入れ病院もすぐに見つからなかったなど急性期対応の遅れをうかがわせる報道もあります。
東京(関東)の医療機関がそこまで逼迫していたという事なのでしょうか…。
それでも平素から相撲協会と繋がりの深い医師ないし医療機関はあるでしょうし、もう少し迅速に対応できなかったのかという疑念は残ります。
ただ、私は当時の状況を詳細には知り得ないので、勝手な想像に基づいてコメントをするのは慎みたいと思います。
このたび亡くなられた方は身長165㎝・体重108㎏と、力士としては小兵ですが、一般人の基準に照らすと「体重過多」になります。
2型糖尿病の診断も受けていたようですが、これは力士にとって職業病とも言われます。
軽量力士が、体重を増やすため吐き戻すほど大量の食事を摂る…というようなやり方は、昔から常態化していました。
ちなみに現在の幕内力士の平均体重は、160㎏台。
成人男性の2~3倍もの体躯でぶつかり合う格闘技、それが大相撲です。
当然ながら心肺機能を含め全身への負荷が大きく、ひとたび疾病に罹ると重篤化しがちであり、突然死をまねくリスクも一般人より高いと考えられます。
過去、現役中に急逝した主な力士は、私が覚えている限りでは
幕内:龍興山関
などがあげられます。
それぞれ死因は異なりますが、力士特有の潜在的リスクが遠因となっていることは否定できません。
2.体重は勝負を左右する大きな要素
なぜ健康上のリスクを冒してまで体重を増やすのでしょうか?
体重が重ければ重いほど強いとは限らない。初代横綱若乃花(107㎏)や千代の富士(125㎏)など、小兵の強豪力士もいたではないか…という声も聞こえてきそうです。
※画像引用元:Number web 2016年8月23日配信
けれども、彼らは例外中の例外。
飛び抜けた相撲のスピードや卓越した技術で、体重の軽さをカバーしていたのです。
若乃花・千代の富士はまさに究極の「異能力士」です。
また、小兵の強豪力士はたいてい気性も激しいものです。
常に気力・集中力がみなぎっていないと、ちょっとしたスキを突かれた時に軽量のハンデが顕在化するからです。
実際、あの千代の富士でさえ絶好調の時でもあっけなく完敗することがありました。
立合いでカウンターを食らうと、一気に吹っ飛ばされてしまうのです。
自動車をみても分かりますが、馬力や衝突安全性など性能を全般的に向上させたい時、手っ取り早いのは「ボディサイズを大きくする」ことです。
軽量化で性能向上を狙う場合もありますが、衝突安全性との両立など技術的には難しいようです。
実際、モデルチェンジするたびに大きく重くなる自動車の何と多いこと。
力士も同じです。
立合いに当たり負けせず土俵際でも押し込まれず、安定した成績を挙げようと思えば、体重を増やすのが一番の近道。
やや不適切な表現ですが、多少気力が充実していなくても、一定程度の体重があれば余裕を持って闘うことができる…それが大相撲という競技の特質と言えます。
3.力士の身体作りを変革すべき時?
現役力士の病死という報道を受けて、ネット上では
◆健康診断の頻度増加を。
◆身体作りの方法を改めるべき。
◆柔道などと同様、体重別に階級を分けてはどうか?
といったコメントも散見されました。
体重別にすべきという議論について言えば、アマチュア相撲ならともかく、プロの大相撲に導入することには私は否定的です。
それは「小よく大を制す」という相撲の本質を根底から否定する考えだからです。
一方、力士の健康管理の厳格化や身体作り方法の再考については、「大筋では」賛成です。
成人男性の2~3倍の体重を有し、命を削ってぶつかり合う特殊なスポーツ競技者に対し、一般人と同等の健康生活を求めるのは無理があるとは思います。
力士は現役生活も人としての寿命も、概して一般人より短いですが、人生長生きすれば良いというものでもなく、本人が充実していれば他人がとやかく言うことではありません。
が、それでも「吐き戻すほど胃に食物を詰め込む」ような方法は、まともなスポーツ選手の取るべき行動ではない…そういう意見もまた正論ではあります。
できれば、相撲界入門から5ヶ年計画のような形で
①相撲の基本動作を習得しつつ、筋力・持久力・柔軟性の向上を狙った基礎トレも重点的に行う。
②体脂肪率や血液データ・心肺機能データのモニタリングを随時行う。
③パフォーマンスの向上に合わせて、栄養摂取量を段階的に増やしていく。
といったプロセスを踏むことが大切でしょう。
※このような事は、一部の大相撲関係者の方々には釈迦に説法であり、すでに医師や管理栄養士、理学療法士等の指導に基づく「科学的トレーニング」を導入している相撲部屋や力士も存在することと思います。
4.相撲技術の原点回帰とセットで…
体重増加優先の「不健康な」身体作りを、相撲協会全体として本気になって改めるのであれば、相撲の取り口そのものの変革(と言うより、原点回帰)とセットで考える必要があるかも知れません。
「引き落とし」や「はたき込み」といった引き技が多くなる一方、足技などを駆使した技能相撲が少なくなり、最近は取組が面白く無くなったとも言われます。
「吊り出し」も目に見えて少なくなりました。
※『【ダークフィグマの毒舌日記:その9】新型コロナをぶっとばせ!! ウイルス退散 神事相撲 …PART2』より。
これらは全て、力士の体重増加が大きな要因です。
しかし、それはごく最近のことでしょうか…?
私は30年以上前(千代の富士全盛時)からリアルタイムで相撲を観ていましたが、当時すでに幕内の平均体重は140㎏を超えていました。
実はその頃から、引き技の増加と足技の減少は繰り返し指摘されていたのです。
ところが力士を指導する親方のほとんどは、相撲の基本は「押し」だとして、稽古場で足技を使うことを良しとしません。
それどころか、むしろ「半端相撲」などと言って、小兵の技能相撲を揶揄することも多いものです。
私はプロの力士でも指導者でもないので、こんな事を述べるのは恐縮なのですが…。
際限ない体重増加と「押し」を追求した結果、押し切れない時は安易な引き技でお茶を濁し、さらに墓穴を掘る…という情けない相撲の連発に繋がっているのではないでしょうか?
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5.さいごに
力士の健康を考慮し、パフォーマンス向上に合わせた段階的な体重増加を推奨することは、相撲の醍醐味の復活にも結びつく可能性はありますね。
それには、「内掛け」や「出し投げ」といった高度な技能を伝授する能力が指導者側に求められますが、今の親方たちにそれが可能でしょうか…。
※『【ダークフィグマの毒舌日記:その9】新型コロナをぶっとばせ!! ウイルス退散 神事相撲 …PART2』より。
私個人的には、切れ味鋭い足技で相手力士をひっくり返す、鮮やかな技能相撲をもっと観たいものです。
大相撲が「無差別級」のプロスポーツである以上、体重を増やすため意図的に栄養過多の状態を作るというやり方を改めることは、実際なかなか難しいでしょう。
スポーツであれ趣味活動であれ、高みを目指して突き詰めていくと、どんどんマニアックかつ先鋭化していくのが世の常です。
さりとて、力士にとっては引退後の人生も大切ですから、身体作りの方法については今一度考え直してみる良い機会なのかも知れませんね。
ともかく力士の健康管理や取組内容の充実など、今後の大相撲界の発展に少しでも繋げられれば、それが亡くなられた力士への最大の手向けになるのではないかと思います。
最後までご覧下さいましてありがとうございましたm(_ _)m
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