近年、高齢ドライバーのペダル踏み間違いによる急発進・暴走事故についての報道が世間を騒がせています。
愛車遍歴・番外編の今回は、12年近くマニュアル(MT)車を乗り継いできた理学療法士(PT)の私が、オートマ(AT)車との対比も含め、自動車の安全性について少し考えてみたいと思います。
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1.私が考えるMT車の利点と欠点
私は車の免許を取得して30年近くになりますが、ここ12年(正確には11年半ぐらい)はずっとMT車に乗り続けています。
※画像引用元:クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・カーグラフィック
まず、MT車の利点・欠点を列挙してみましょう。
1)利点
①運転操作が楽しい
私がMT車を好むいちばんの理由です。自分で車を操っているという実感が味わえます。
脳と身体の協調性を養う訓練も兼ねて、楽しみながらドライブしています。
②『ながら運転』の防止になる
MT車では両手・両足を同時に使う状況が多く、運転中にスマホなどを操作する余裕はほとんどありません。
運転操作に集中する必要があり、結果として「ながら運転」や居眠りの防止にもなります。
③燃費が良い(?)
同車種のAT車と比較すると、燃費は少し良い傾向にあります。
※最近ではほとんど差が無いか、逆にATの方が燃費が良い車種も多くなりました。ATシステム自体の技術革新や、コンピューター制御の適正化によるものと思われます。
④車両価格が安い(?)
構造的にシンプルであるため、同車種のAT車と比べて少し安価なことが多いです(価格差は少なくなりつつあるようですが)。
2)欠点
①操作が複雑で難しい
利点の①・②と表裏一体の関係であると言えます。
このことは、「MTとATどちらが安全か?」を考える上で重要です。
②渋滞が苦手
これも運転操作の複雑さに由来するものです。特にクラッチペダルを踏む左足がつらくなることが多いです。
発進・停止を繰り返すことの多い交通事情が、日本におけるAT車の普及拡大にも拍車をかけたようです。
③購入できる車種が限られる
今やAT普及率は98~99%ということもあり、MT車を買おうにも車種が極めて限定されてしまうというのが実状です。
2.MT車は事故を防げるか?
近年、高齢運転者のペダル踏み間違いによる急発進や暴走事故が問題視されています。
下図のデータを見ても、75歳以上の高齢者には操作ミスによる事故が多いことが分かります。
※図表引用元:平成29年における交通死亡事故の特徴等について 平成30年2月15日 警察庁交通局
この事実に対し、「高齢者はMT限定にすべし」といった過激(?)な論調も一部で見受けられます。
その根拠としては、「MT車ではペダル踏み間違いによる事故はほぼ起こり得ないから」ということのようです。
一方、私個人の見解としては、
MT車ではペダル踏み間違いによる急発進・暴走は一定程度防げるが、それ以外の「不注意による事故」はむしろ増える可能性がある。
というものです。
理由としては、MT車は運転操作が複雑であるがゆえに、周囲への注意が行き届きにくくなるからです。
◆注意障害
私の専門であるリハビリテーション(理学療法)の分野でも、患者さんの機能回復において注意力の低下が問題になることがよくあります。
脳血管疾患や認知症の症状のひとつである注意障害は、大きく分類すると以下の4つになります。
①選択性注意の低下
周りの状況から必要な情報だけを拾う機能が低下し、様々な物や雑音に反応し過ぎてしまう。
②持続性注意の低下
ひとつの事象に集中力を持続させる能力が低下し、疲れたり途中で投げ出してしまう。
③転導性注意の低下
ひとつの事象に集中している時に、必要に応じて他のことに注意を切り替える能力が低下する。
④分配性注意の低下
いくつかの事象に対し、同時に注意を振り分ける能力が低下する。
車の運転においては前記①~④すべての注意機能が必要になりますが、私の経験上、通常走行では④分配性注意、とっさの場面では③転導性注意が特に重要ではないかと思われます。
注意障害を持つ患者さんに対するリハビリでは、余分な刺激が入らないよう環境に配慮し、気が散る要因を取り除くのが一般的です。
それは脳血管疾患や認知症の人でなくとも同様で、運転中の情報量・作業量の増加は注意の分配や切り替えに悪影響を及ぼします。
MT車はハンドル・アクセル・ブレーキに加え、クラッチペダルとシフトレバーの連係動作が求められます。
運転操作に注意力を傾ける割合が大きくなるため、よく言えば「運転そのものに集中できる」のですが、悪く言えば「周囲の環境に注意を分散させることが難しい」とも考えられます。
実際、私自身もMT操作中に側方不注意でヒヤリとしたり、シフトミスを起こしたこともあります(単にヘタだからかも知れませんが…)。
この12年あまり、プライベートではMT車に乗っていますが、仕事等ではAT車を運転することもありました。
ATは運転に余裕があって、周囲へ注意を振り分けるのもラクです。特に疲れている時はそう感じます。
もちろん「余裕」と「油断」は紙一重であり、AT車特有の事故を起こす要因にもなり得るのですが…。
私が自動車の免許を取得したのは『第二次交通戦争』と呼ばれた時代ですが、当時交通事故死者数は年間1万人を超えていました。
※図表引用元:平成29年における交通死亡事故の特徴等について 平成30年2月15日 警察庁交通局
現在では、年間3,000人程度にまで減少しました。その要因としては
◆自動車の安全技術向上
◆交通環境の整備
◆交通安全教育の啓蒙
主にこれら3つが挙げられるでしょうが、あるいはAT車普及率の向上も関係しているのかも知れません。
ともかく、私なりの結論としてはMTもATもそれぞれ一長一短あり、どちらが安全とは言い切れないというものです。
少なくとも、高齢ドライバーにことさらMT車を薦めるだけの確たる根拠は無いと思われます。
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3.さいごに…自動車事故を減らすには
最近では「SRSエアバッグ」や「衝撃吸収ボディ」「誤発進抑制機能」「自動(衝突被害軽減)ブレーキ」などなど、自動車の安全技術は飛躍的に向上しつつあります。
鉄の塊が高速で動いている以上、死亡事故をゼロにすることは不可能に近いですが、万一の時の安全を確保するためにもそれらの装備は大切な要素です。
現在『池袋暴走事故』の裁判が進んでいますが、交通事故の加害者を厳正に裁くことについては、私は基本的に肯定派です。
けれども、「厳罰化すれば事故が防止できる」というわけでもありません(飲酒運転やあおり運転のような故意性の高いケースは別として)。
医療安全の世界でも、個人の過失を責めることに偏らないよう十分配慮しながら事故分析を行います。
ヒューマンエラーは誰でも起こし得るものですから、テクノロジーで予防できるものについては積極的に導入すべきです。
ついでに付け加えるなら、車の各部の操作系は人間工学的にできるだけシンプルなものにすべきです。
最近のAT車のシフトレバーには、操作方法やシフトポジション(どのギヤに入っているか)が分かりづらいものも多いです。
※画像引用元:WEB CARTOP
また、免許の取得・更新要件についても更なる改正が必要でしょう。
その上で、個々のドライバーも自身の能力を客観的に判断し、行動することが求められるのではないでしょうか。
私は今年の2月、視力や運動能力の低下を自覚しバイクを降りました。
自動車については「あと10年(還暦まで)」をひとつの区切りと考えていますが、それ以降も運転できるかどうかはその時の能力次第ですね。
私自身は車大好き人間なのですが、MT車の操作ができなくなったら、悲しいけれど運転はやめようと思っています😅
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