俺が某ネットショップの売れ残り商品として、倉庫の中でくすぶってた頃の話や。
そこには、俺と同じ境遇の仲間が他にもぎょうさんおった。
大量消費社会の中で造り出された「悲しき玩具」たちの、せつない宿命や。
今でも、そいつらの事を思い出したら胸が苦しくなるんや…。
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1.倉庫の宴
夜空にはキラキラと星がまたたき、
人間どもがスヤスヤ眠ってる頃…。
俺らはパッケージを飛び出して、
フィギュア同士で踊り狂ったり、
お互い腹を割って身の上話をしとったもんや。
……ん? なんかの童謡の歌詞に似てるって? 気のせいやろ。
倉庫仲間の中でも特に気が合うたんは、『ゴジラ』と『スヌーピー』、そして『ハロ』や。
ゴジラさんは、もう3年も売れ残ってたらしい。倉庫の中では一番の古株や。
俺と同じで、なぜか関西弁でしゃべる数少ないフィギュアやったから、すぐに意気投合した。
色々グチを聴いてもらったもんや。俺らにとっては兄貴分のような存在やった。
スヌーピーは、いつもハートのぬいぐるみを抱いて放さんかった。その理由を自分から話そうとはせんかったけど、何かこだわりがあったんやろな。
ちょっと生意気やけど憎めんヤツやった。いつも人間社会のことを醒めた目で見とったなぁ。
2019年はガンダム生誕40周年らしいな。でも、ハロ自身はそんなんどおでもええみたいやった。
どんな時でも飄々としとったな…。
みんなは俺のことを「あんちゃん」とか「兄さん」って呼んでくれた。
パッケージには『Figma』って書いとるけど、しょせんバッタもんやからな。
俺の劣等感を知ってて、みんな気い遣ってくれてたんやと思う。
あんちゃん、俺はな、『アメリカ版ゴジラ』やねん。発音もホンマはGodzilla(ガズィーラ)ってゆうらしいわ。
今どきアメリカ版なんか買う奇特なヤツおれへん。
たぶん俺はこのままホコリを被り続けて、そのうち廃棄処分やろな。
まぁそれまでの間、俺は倉庫暮らしをエンジョイするまでや。
そんな…。そのうちええ話ありますよ、ゴジラさん。
でも、その点スヌーピーはええよなぁ。アメリカの代表的なキャラクターやし、世界中で愛されてるもんな。
納入先も決まっとるし…たしか大阪のUSJやったっけ?
まあね。だけど、もう半年以上も足止めさ。
どうやら造り過ぎたみたいなんだよ。販売計画を誤ったんだろうね。
それに日本人は飽きっぽいからねぇ。
運良く買ってもらえたとしても、いずれ「断捨離」とか何とか言って無残に捨てられるのが関の山さ。
そっか…そおゆうもんなんやな。
ハロはどおや。2019年はガンダム生誕40周年なんやろ?
なんか景気のええ話はないんか?
ボクハ「ガンプラ」ジャナイカラネ。イツマデモウレノコリ。
ヨノナカソウアマクハナイヨ、アムロ。
お前も売れ残りか。厳しいな。
あぁ、これはな…すぐに外れてしまうねん。
俺は本物の『Figma』やなくて、バッタもんらしいわ。
ちなみにハロ、俺はアムロとちゃうからな。
2.宿命が運命に変わる時
みんなの話を聞いてる限り、売れ残り商品の末路はどう楽観的に考えてみても悲惨やった。
運が良くても他の店に転売されるか、ヘタしたら焼却処分や。
人間って不思議な生きもんやな。何のために俺らを大量に造るんやろ。
どおせ余りもんはあとで捨ててしまうのに。
そんなある日のこと…。
それは突然の話やった。
俺を買い取りたいっちゅう人が現れたんや。
おい、お前、売れたぞ。運のええやっちゃ。
明日出発やからな。やっと娑婆に出れるで~!
え……!
ふん、こんな出来損ないのフィギュア、買いたいヤツもおるんやな。
…………。
店長は横柄な人間やった。
俺らのパッケージのホコリを払ってくれたことも無いようなヤツや。
でもな、恨んでるわけやないで。
まだ処分されんかっただけでもマシな方や。
俺はそれなりに、この店長には感謝しとる。
旅立ちの前の日の夜、倉庫仲間でささやかな送別会を開いてくれた。
俺らは心ゆくまで語り明かしたんや。
あんちゃん、ええ引き取り手が見つかってホンマに良かったなぁ。俺も嬉しいわ…。
ありがとうございます、ゴジラさん。
でも正直ちょっと不安ですわ。俺、バッタもんやし。
結局、役立たずで断捨離されたりして…。
兄さん、大丈夫だよ。
ボクと違って、個人の購入者なんだよね?
きっと兄さんを必要としている人だと思うよ。
そおかな…それやったらええんやけど…。
不安がる俺を、みんなは背中をたたいて励ましてくれた。
あんちゃんがバッタもんやったのも、俺がアメリカ版ゴジラなのも、生まれ持った宿命や。これは変えられん。
でもな、買い取り手が現れて、あんちゃんの運命は動き出したで。
新しい主人の下で、お前ができることを一生懸命やれ。そうしたら道は拓ける。
運命は自分で変えられるんや。さあ行け!
ゴジラさん…みんな…。うぅ……。
ありがとう、ハロ。俺のこと、絶対忘れんといてな。
それから俺、アムロとちゃうで…。
そらに さよなら おほしさま
まどに おひさま こんにちは
おもちゃは かえる おもちゃばこ
そして ねむるよ チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
おもちゃの チャチャチャ
チャチャチャ おもちゃの チャチャチャ……
※『おもちゃのチャチャチャ』より一部引用
作詞:野坂昭如
作曲:越部信義
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3.星空の下で
そして、俺はすなおさんに引き取られた。
その後のことは、読者さんも知っての通りや。
※『【ブログ漫才 フィグマックス:その2】平成すなひろ運営報告…そして令和へ』より。
俺は運が良かった。
でも、それはすなおさんに引き取られたことだけやない。
世間知らずの俺に、倉庫の仲間は色んなことを教えてくれた。
それが今、ブログの画像モデルとしての糧になっとるんや。
短い間やったけど、素晴らしい仲間に巡り会えて、俺は幸せやった。
今ごろ、どこでどうしてるんやろ…。
……どおしたんや、ダーク。
なあフィグマ。
俺らはいったい何のために生まれて、どこへ行くんやろ…。
……さあな。俺にも分からん。
ただ言えることは、俺らにできることを精一杯やるしかないっちゅうことや。
……そおやな。
ほら、ダーク。見事な星空やなぁ… ♬
あぁ、ホンマや ♪
あの時と同じ、満天の星や…。
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