中高年をはじめとした多くの方々にとって、悩みの種である慢性腰痛。
今回は、従来から提唱されてきた様々な腰痛予防・改善策について、私なりに優先順位をつけてみたいと思います。
筆者は理学療法士(PT)ですが、自身も長年にわたり頑固な腰痛と付き合ってきました。
腰痛でお悩みの方々にとって、私の拙い知識と経験が少しでもお役に立つなら幸いです。
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1.はじめに
巷で紹介されている腰痛の対処法には、定説と言って良いものもあれば、いささか怪しげな方法も未だ存在します。
私としては、今回それら方法論の効果・効能について、
◆最新のエビデンス(科学的根拠)に基づいている。
◆PTとしての臨床経験上、妥当と考えられる(患者さんへの適応実績がある)。
◆自身の腰痛経験からも、効果が実感できた。
上記のような観点から、順位づけをしたいと考えています。
可能な限り客観的に述べたいですが、経験則も一部含まれるため、順位については各方面から反論もあるかと思います。何とぞご容赦下さい。
ちなみに当ブログは、「いつも結論を後回しにする不親切な記事」を自認しております(^_^;)
今回はその反省を踏まえ、私なりの結論を先にザックリと示し、各項目の詳細は次回以降の記事で述べます。
腰痛の対処法については、すでに多くの優良な文献・ウェブサイト等で詳細が提示されています。
この記事で「概要は理解できたよ」という方については、次回以降はご覧にならなくても良いかと思います。
2.腰痛の原因
先に、腰痛の主な原因について簡単に触れておきます。
※参考資料:腰痛対策 - 厚生労働省(一部改変し引用)
腰痛には、原因をある程度特定できる「特異的腰痛」と、レントゲン・MRIなどの各種検査でも原因を特定することが難しい「非特異的腰痛」の2つに大別されます(図1)。
多くの方々がお悩みの、いわゆる慢性腰痛と呼ばれるものは、基本的に「非特異的腰痛」であると言って良いでしょう。
当シリーズでは、主にこの「非特異的腰痛」への対処法について解説します(※便宜的に「慢性腰痛」の方を多用させて頂きます)。
ただし、特異的腰痛の中に含まれる
◆脊柱管狭窄症
◆脊椎圧迫骨折
などについては、慢性腰痛の対策がそのまま適用できる面もありますので、これらの疾患をお持ちの方々にも参考にして頂きたいです。
3.腰痛のセルフコントロール法 BEST3
慢性腰痛の対処法について、優先順位をつけた上で概要を述べたいと思います。
キーワードは「セルフコントロール」です。
第1位:日常生活動作の工夫
現代人、特に日本人は、デスクワークの時間が諸外国の労働者よりも多いと言われます。
直立状態(基本姿勢)では、腰椎はやや前弯(ぜんわん)していますが、長時間イスに座っていると、逆に後弯(こうわん)を強いられます。
腰椎後弯は腰の後方組織に持続的な負担を掛け、徐々に慢性的な腰痛へと進行していきます。
また、重い荷物を不用意に持ち上げたりすると、腰椎後弯の状態でさらに強い負担を腰に与えてしまいます。
ギックリ腰なども、多くは上半身をかがめた時に起こるものです。
ともかく、慢性腰痛の主たる原因は、
①同じ姿勢を長時間続けること。
②腰に負担の掛かる動き方を繰り返すこと。
主としてこの2つであると言っても過言ではありません。
根本的な原因をまず取り除くという意味で、日常生活や職業上の姿勢・動作に注意し、工夫するのは「腰痛セルフコントロール」の根幹です。
なので、この【腰痛とともに生きる】シリーズでも後々詳しく述べていく予定です。
第2位:ウォーキング&バランスの取れた食事摂取
ただの風邪でも、低栄養で全身の抵抗力が落ちていれば重篤な肺炎につながることもあります。
身体の一部になにか不具合があった時、それを修復するには心肺機能・消化機能・運動機能などの全身状態が良好で、調和が取れていることが大切です。
歩くことでその勢力範囲を拡げてきた人類にとって、歩行はもっともエネルギー効率の良い全身運動です。
膝や股関節痛など、どうしても一定距離歩けない理由があれば別ですが、少なくとも「歩けるレベルの腰痛持ち」の人は、まずウォーキングで全身の機能を高めること。これを最優先します。
目標歩数は人それぞれですが、中高年なら大雑把に言って「1日8,000歩」くらいを日々の目標にしてみましょう。
それが可能になった頃には、腰痛をコントロールできるようになっているはずです。
ここではウォーキングを第2位としていますが、実質的に「同率1位」と言っても良いかも知れません。
栄養学については私は専門外ですが、「腰痛に効く栄養素」などという特異的なものは無いと思います。
やはり全身の調和が大切ですから、選り好みせずバランスよく摂取するのが望ましいですね。
ちなみに、精神的ストレスも慢性腰痛に悪影響を及ぼすというのが定説のようです。
こればっかりは、分かっていてもなかなか対処が難しいですが…。
第3位:ストレッチ&筋力トレーニング
一般的に、体が硬い人ほど腰痛になりやすいです。
関節の柔軟性に乏しい人は、身体の重心が集中している骨盤および腰椎に負担が掛かりやすいからです。
ただし、やみくもにストレッチ体操をすれば良いというものではありません。
なぜなら、体の柔らかさというのは元々の体質(いわゆる「生まれつき」)に左右される面があるからです。
元々硬い人は、頑張ってストレッチしてみても一定の限界があるように思います。中高年以上になると、なおさらです(ストレッチをしても無駄だ…という意味ではありません)。
例えばラジオ体操などはなかなか良い運動ですが、反動をつけて動かすため、体の硬い人はヘタをすると余計に腰を痛めてしまうこともあります。
腰椎の関節は「前後に曲げる」のは構造的に可能ですが、「ねじり(回旋)」にはあまり対応していないので注意が必要です。
タイガー・ウッズを始めとしたプロゴルファーに重度の腰痛者が多いのは、そのためです。
前述のように「腰椎後弯」の姿勢になりがちな現代人ですから、腰を反らすストレッチは有効であることが多いです。
また骨盤に連なる筋肉(太ももの裏側など)のストレッチも、それなりに効果があるようです。
筋力トレーニングについては、まず1日8,000歩のウォーキングを行なった上で、それでも余裕があれば(あるいは逆に、諸々の理由で歩くのが難しい場合)追加してみても良いでしょう。
それも、ストレッチと筋トレを分けて行なうのではなく、
「柔軟性の向上を図りながら、同時に筋肉にも軽い負荷を掛ける」
くらいが理想です。
そういう意味でも、ラジオ体操的な運動は、方法を間違えなければそれなりの効果が見込めます。
体が硬い人は、くれぐれも「勢い・反動」をつけ過ぎず、ゆっくり目に行ないましょう。
いずれにせよ、「局所の筋力up」よりも柔軟性の方が大事。そう考えてもらって間違いはありません。
「腹筋を鍛えて腹圧を高めれば、腰椎への負担が減らせる」という考え方は、どうやら今でも根強く存在するようです。
これは決して間違いではないのですが、では「腹筋が割れている」ほどの人は腰痛など起こらないか…というと、そうでもないようです。
ま、腹筋は「無いよりあったほうが良い」くらいのものでしょうか。
あえて言えば、「柔軟性を確保しつつ、腹筋・背筋などの体幹筋をバランス良く使ってやる」のが理想でしょう。
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4.その他の腰痛対処法
以下の対処法については特に優劣をつけていません。
どちらかと言うと「対症療法」の部類ではありますが、適切に使えばセルフコントロールの補助にもなり得るので、一応ご紹介しておきます。
1)鎮痛剤による痛みの緩和
慢性腰痛でもっとも避けたい事、すなわちワースト1位は「過度の安静」です。
痛いからと言っていつまでも寝込んでいると、ますます全身の機能が低下し、腰痛の治癒にも悪影響となるからです。
そうは言っても本当に痛い時は動くのがイヤになるものですが、そんな時、鎮痛剤が役に立つこともあります。
内服薬などで痛みが緩和し、その間だけでも体を動かせるのなら、それに越したことはありません。
もちろん薬には消化器症状その他の副作用もあるので、使用に当たっては医師や薬剤師に相談し、自分の体質や痛みの程度に合った薬を見つけることが重要です。
ちなみに私は、特に痛みの強い時に限り「ロキソニン」を使っています。
服用して痛みがゼロになるわけではありませんが、とりあえず仕事に行ける程度には動けます。
ともかく、「痛いなりにも活動性は維持しておく」事が一番重要なので、濫用するのでなければ服薬もひとつの方法です。
2)物理療法(温熱・牽引・電気刺激など)
よく、整形外科の診療所や整骨院に何年も継続して通い、ホットパックや腰椎牽引・電気刺激などを受けている人がいますね。
まぁ、それがその人にとっての日課であり、体調管理の一環になっているのなら全否定はしませんが…。
ただ、慢性腰痛へのアプローチという意味では、それを何年も続けることで将来的に症状が改善するとは到底思えません。
それどころか、身体的・精神的依存が強くなり、ますます慢性化を助長させるというのが現実です。もっとハッキリ言えば、医療費の無駄遣いです。
いわゆる物理療法の中でも、温熱は鎮痛剤と同様に痛みを緩和する効果があるのですが、あくまでも対症療法であり、持続的効果は見込めません。
冬場など、特に高齢者はよく使い捨てカイロを貼り付けたりしますね。
これもあえて否定したくはありませんが、局所への温熱は時間を限定して(20分程度)行なうからこそ「血管拡張→痛み物質の除去」という身体反応が起こるのであり、常時温めていると体が慣れてしまい効果が薄れます。
薬剤でも、濫用すると効かなくなるのと同じです。
それに低温ヤケドの危険もあるので、カイロは個人的にあまりおススメはしません。
とは言え、女性や高齢者には冷え性の方が多いものです。温めることで日常生活の活動性が少しでも改善するのであれば、ヤケドに注意した上で使ってみても良いかと思います。
腰椎牽引や電気刺激などは、一部の人には効果があるようですが、同じく慢性腰痛の根本的改善にはなり得ません。
特に牽引なんて、ほとんど「おまじない」のように思えます。
3)マッサージ
マッサージは気持ち良いものですし、痛みの緩和という意味では即時効果があります。
マッサージも、物理療法(物理的な力を利用して、身体の痛みや関節の硬さなどを改善する手法)の一種と言えます。
やはり基本的には「受け身的」なものなので、一定の依存性を有しています。
私は「自分自身で痛みをコントロールする」という方向性で慢性腰痛を考えるのが長期的にみて大切だと考えているので、受動的な手段はあまりおススメしません。
4)コルセット
コルセットにも様々な種類がありますが、腰痛に対しては弾力性のあるベルト状のものがよく用いられます。
運送業や介護職の方などが使っているのをたまに見かけます。腹圧を高めて腰椎への負担を軽減させるというわけです。
いわば体幹筋の代わりを担ってくれるものですね。
労災の防止という意味で効果的ですが、「慢性腰痛のセルフコントロール」とは少し用途が異なります。
日常でも癖になって、装着したまま手放せなくなる…といったケースもみられますね。依存し過ぎないよう注意が必要です。
5.さいごに
他にも様々な考え方・方法論があるようですが、今回はここまでとさせて頂きます。
…最後に、ダークフィグマが読者の皆さまに何か大切なことを言いたいようです。
慢性腰痛は治らんで。
一生仲良く付き合って、墓場まで持って行け。それもまた人生の醍醐味や。
最終目標は、あくまでも「痛みのセルフコントロール」やからな ♪
相変わらずの毒舌で申し訳ございませんでした…m(_ _)m
次回以降は改めて最初に戻り、
◆腰痛の原因別対処法
◆日常生活動作の工夫
◆ウォーキング
◆ストレッチ&筋トレ
主にこの4項目について、詳細を述べていきたいと思います。
最後までご覧下さいましてありがとうございました<(_ _)>
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