インフォームド・コンセントの概念が日本に導入されて約30年が経ち、今や「おまかせ医療」を良しとする考え方は過去のものと言ってよいでしょう。
しかしながら日常のリハビリ診療の場面においては、充分な説明の無いまま「体力的にきつい事」や「痛い事」を患者さんに行わせるPTも少なからず存在しているようです。
私自身、我が身を振り返り反省しながらこの記事を綴っていきたいと思います。
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1.インフォームド・コンセントの意味
医療法第一条の四・2項には、以下のように記されています。
◆医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
インフォームド・コンセントはよく「説明と同意」と単純に解釈されがちですが、それを医療者にとって都合良く曲解し、
「通り一遍の説明をして、理解してもらえたかどうかも確認しないまま同意書にサインを求める」
というように運用するのは極めて不適切です。
◆できるだけ論理的かつ易しい表現を用いる。
◆理解して頂けたかどうかを再確認する。
◆必要に応じて複数の選択肢を提示する。
◆双方の合意により、診療を開始・継続する。
医療従事者としては、専門知識の無い患者さん(ご家族)に対して難解な用語を多用して困惑させ理解を妨げることの無いよう、上記のようなプロセスを踏むことが必須であると考えます。
かつて「納得診療」という言葉が提案された時期もありました。
あまり定着していないのが残念ですが、ある意味「説明と同意」よりもふさわしい表現かもしれませんね。
2.リハビリテーション実施計画書の説明義務
厚労省が定める「リハビリテーションの診療報酬に関する通則」では、
◆リハビリテーションの開始時及びその後3ヶ月に1回以上、患者に対して当該リハビリ実施計画の内容を説明し、診療録(カルテ)にその要点を記載すること。
と記されています。
ここでは「3ヶ月に1回以上」とありますが、実際ほぼ全ての医療機関で1ヶ月ごとに作成・交付されています(その都度「計画評価料」を算定できるので…)。
この計画書の内容は、
①これまでのリハビリ実施状況(期間及び内容)。
②前月の状態との比較。
③到達目標・今後のリハビリ計画・改善に要する見込み期間。
④具体的な改善の状態等を示した、リハビリを継続する理由。
などを記載したもの、とされています。
厚労省の推奨する様式に基づき、私が過去に作成し運用していた計画書を添付します。
見にくくて申し訳ありませんが、参考までに…。
ちなみにこのリハビリ計画書は主治医や看護師なども含め他職種と共同で作成されるものであり、PTが単独で作るわけではありません。
しかし運用上、患者さん(ご家族)に対する計画書の説明は担当PTが行うことが多いです。
この計画書は内容が盛り沢山であり、その説明を診療時間中に行うことになります。
1ヶ月に1回とは言え、これは(あえてPT目線で言わせて頂ければ)なかなか手間のかかることではあります。
また、「詰め込み」的に説明される患者さん側にとって負担になることもあります。
もちろん、かと言って「いい加減な説明をしても良い」というわけではありませんが、詳細になればなる程、難解になりがちでもあります。
ですので、担当PTはできるだけ要点を絞って分かりやすく説明することが求められます。
詰め込み的な説明、そして「機械的な同意のサイン記入」を防止するには、
◆普段の診療場面のなかで「説明→理解→合意→実行」のプロセスを繰り返す。
これが基本であると私は考えます。
新しいリハビリメニューを始める際など、それを行う目的・意義、また将来の見通し(継続することによって、どれくらいまで改善するのか)などをその都度お話ししていれば、すでに信頼関係が出来上がっているはずですから、計画書を改めて詳細まで説明する必要はありません。
もちろん相応の理解力がある患者さんに限られますし、ご家族の方々にも別途説明しなければならない場合も多々あるのですが…。
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3.科学的根拠に基づいた説明を
例えば患者さんに対し大腿四頭筋の筋力トレーニングを行って頂きたい場合、
①目的・効果(何のために?)
⇒膝の痛みを和らげる。
⇒歩行・階段などの動作能力UP。
②方法(どのように?)
⇒1kgの重りで膝を曲げ伸ばしする。
⇒1日2セット・1日おきに行う。
⇒1ヶ月続けると効果が明確になる。
このような事前説明は必須ですが、さらに
「大腿四頭筋を使った膝の運動は、なぜ関節痛の軽減につながるのか?」
「なぜ1kgで? 1日おきに行う根拠は? 1ヶ月以上続けることの意味は?」
という領域にまで突っ込んだ解説も、場合によっては必要となります。
真の意味で患者さんを納得させるためには、「科学的根拠」を示さなくてはならないのです。
ここが、(私も含め)多くのPTにとっての弱点ではないでしょうか。
筋肉に一定の負荷を与え続けると筋線維が太くなり筋力がUPすることは、医学的知識のない人間でも経験的に分かっていることです。
それを論理的に説明するのがPTであり、そのことで信頼を得て職務が成り立つわけです。
ちょっと余談ですが…特に筋力トレーニングに関しては第二次世界大戦における戦傷者のリハビリとか、宇宙開発(無重力状態での長期滞在など)を契機に研究が盛んに進められ、基礎理論はすでに確立されています。
方法論自体は現在でも進化しているものの、あくまでも既存体系の応用にしか過ぎません。
それをPTが説明できないとなると、勉強不足も甚だしい…と言われても仕方がないのです。
まぁそこまでマニアックな説明が全ての患者さんに必要かどうかはともかく、
「いま行っている運動にはどのような目的があり、自分の生活をどう変えてくれるのか?」
「このリハビリを続けることによって、将来の自分にいかなる利益をもたらすのか?」
といったことを具体的に説明できない(or しようとしない)PTは、少し怪しいな…と思って頂いてよいでしょう。
4.探究心と謙虚さを前面に
前項でお話ししたことと矛盾するようですが、リハビリ開始当初は「問題点」がはっきりせず、うまく説明のつかないケースも少なくありません。
代表的なのが、
「非特異的腰痛症(慢性腰痛)」
「肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)」
といった、痛みとか関節の動きを制限している要因が不明確な疾患です。
ここで大切なのは、
◆医療従事者として現状をどのように評価し、いかなる推論を立てているのか。
といった思考プロセスを、ちゃんと患者さんに伝えるということです。
どんな名医であってもすぐには診断が下せない場合があるものですし、検査や治療の選択肢が複数あることも珍しくありません。
リハビリも同様にアプローチ方法は千差万別であり、ある程度の時間を費やして評価(アセスメント)していかないと、答えはなかなか導き出せないものです。
詳細は次回の記事に譲りますが…現状で分からないことは分からないと認め、原因を探究する姿勢が現れていれば、患者さんはそれを信じて担当PTと一緒に頑張って下さるものだと思います。
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