対象者のリハビリ拒否に思い悩む療法士は多いことでしょう。
私の印象としては、病院の療養病床や介護施設における高齢者で顕著な気がします。
ここでは、利用者(患者)さんがリハビリを拒む理由や、その対処方法について考察してみたいと思います。
《スポンサーリンク》
1.拒否の理由と対処方法について
私は介護老人保健施設(以下、老健)に勤務していますが、利用者さんのリハビリ拒否に遭遇する場面はとても多いです。
「拒否」という強い言葉を用いると、まるで利用者さん側に非があるかのような誤解を与えてしまうかも知れませんが、便宜上あえて使用させて頂きました。
不快に感じられる方々にはお詫び申し上げます。
実際のところ、消極的ながらも渋々応じて下さるといったケースもあれば、
リハビリ~?
そんなもんいらんわっ!!
と強く拒まれる場合もあり、反応は千差万別です。
以下、拒否の理由と対応例について述べたいと思います。
1)体調不良
リハビリ拒否の理由としては比較的了解しやすいものです。
体調不良の要因は多岐に渡りますが、高齢者の特徴のひとつとして
「1人で多くの疾患・合併症を有している(multiple pathology)」
ということがあります。
これに加え、睡眠量・食事量・排便状況・気候変化等も体調にかなりの影響を与えるものです。
今日はなんかちょっとしんどいから、やめとくわ…。
もし倦怠感・痛みなどの訴えがあれば、上記を念頭に、ご本人や他職種からしっかりと情報を取り、様子観察や然るべき対処をすることが大切です。
そうですか…心配ですね。
昨晩はよく眠れましたか?
失礼ですが、今日はお通じはありましたか?
リスク管理はもちろんの事、その後の信頼関係の構築という意味でも、対象者のちょっとした訴えをないがしろにしてはいけません。
2)精神・心理面の変化
高齢者の精神・心理的変化として、「孤独への不安」や「家族・介護スタッフ等への不満」「疾病・死に対する恐怖」などが考えられます。
これら老年期特有のストレスが積み重なることによって、徐々に自己主張が強くなり、他者の意見を客観的かつ冷静に取り入れる寛容性に欠けてくるようになると言われています。
こう書くと偏見や老人蔑視のようにも取られかねませんが、一般的傾向としてはあり得る話です。
高齢者にリハビリをお勧めする理由は色々ありますが、認知症予防や動作能力の維持など、全ては科学的に実証されているものです。
しかし、多くの高齢者は(認知症でなくとも)論理的な判断をすることが難しくなるものです。
その結果、「リハビリを中断することによって生じる悪い結末」を想起できず、拒否に向かうというわけです。
では、認知症がある場合はどうでしょうか…?
私の経験上、認知症が重度なほどリハビリの拒否傾向も強まるかというと、そう単純ではなく、色々な要素が絡まり合っているように思えます。
私は先日、拒否傾向の強い女性利用者・Sさん(入所期間は1年以上・認知症は重度)に対応しました。
Sさんは、数ヶ月前までは他のスタッフの誘いは拒否するものの、なぜか私にだけは比較的友好的な人でした。
そのため実質的に私が専属でSさんを担当していたのですが、ここ最近は私に対しても頑なに拒否するようになりました。
スタッフ全員、理由が分からず首をかしげるばかりです。
私はある時、業務に少し余裕のあるときを見計らい、腰を据えてSさんとの会話を試みました。
Sさん、こんにち…
あ~リハビリやろ?
いらんいらん。どっこも悪い所ないから!
ちゃんと歩けてるしな、ほら…(座ったまま足踏みでアピール)
そうですか、お元気なんですね。良かったです ♫
では、お手数ですがしっかり歩けるところを一度見せてもらってもいいですか?
またそんなこと…。
あたしゃもうだまされへんで!!
ここからの会話は長くなるので省略しますが、じっくり話しているうちにSさんの心配事が見えてきました。
うまいことゆうて…。
あんたら、後でコレ(👌…指で丸を作る)取るんやろ?
コレとは、もちろんお金のことです。
あぁ……。Sさん、それは大丈夫ですよ。
リハビリで別料金は頂きませんので。
入所費用の中にリハビリサービス費も予め含まれていることを順序立ててご説明しても、全く通用しません。
むしろ論理的に説明すればするほど、ますます不信感が増幅する始末です。
もしかすると認知症が進行している徴候なのかも知れませんが、入所期間が長くなり不安が強くなっていることも考えられます。
金銭の心配をされる利用者さんはよくいらっしゃいますが、傾向としては女性の方が比較的多いようです。
やはりご家庭の主婦としての経験上、お金にシビアな面が顕在化するのでしょうか…。
Sさんについては、その後も有効な解決策が無いまま現在に至っている次第です。
3)目標喪失による意欲低下
老健の本来の目的は、在宅復帰を支援することにあります。
「在宅強化型」などと呼ばれる老健は、これを積極的に行なっている施設です。
詳細は割愛しますが、私の職場は強化型ではありません。
そのため、施設で看取りをする利用者さんも数多く入所されています。
俗に「特養(特別養護老人ホーム)化した老健」と言われるものです。
◆2ヶ月後に自宅へ戻るために、まずは独りでトイレまで歩けるよう施設内で練習する。
こういった明確な目的・目標があれば、一般的にリハビリの意欲は高まります。
一方、在宅復帰のめどが立たず、施設が「終の棲家」となることが目に見えている場合、頑張ってリハビリをする理由が無く、モチベーションも上がらないというわけです。
一概に「目標が無い人はリハビリ拒否に陥りやすい」とは言い切れませんが、要因のひとつにはなり得るのでしょう。
であれば、日々の施設生活の中で「モチベーションを維持できる何か」を創出することも必要となります。
例えば、施設内の移動を車いすから歩行器へ…というような前向きな目標は正攻法で良いのでしょうが、実現不可能な場合も多いものです。
少なくとも「リハビリをすれば何か良いことがある」と思わせるには、時として手段を選ばないこともあります。
「リハビリしましょうか?」ではなく、
◯◯さん、マッサージの時間ですよ ♫
といった導入方法も、そのひとつです。
「マッサージ」、これは病院の療法士にとっては禁句のように扱われていますね。
私自身、このような「ニンジンぶら下げ型」のアプローチを積極的に肯定するつもりはありません。
それでも、利用者さんにとって本当に有用なことは何か…を追求する過程では、倫理的に許容される範囲内でそういう手段を用いる事も有りではないかと考えます。
4)療法士の会話力・接遇の問題
前項のように、お誘いする時の声掛けの仕方にもさまざまな工夫が必要ですね。
単刀直入に、
◯◯さん、リハビリ行きましょうか?
で応じて下さるのは、あうんの呼吸が通じるリハビリ意欲の高い方々だけです。
一方、やや消極的であったり、「リハビリ」という言葉にネガティブな印象をお持ちの方なら、相手の身を案ずる形からの導入が必須となります。
◯◯さん、(自然な笑顔で)こんにちは。
調子はいかがですか?
今日はどこか痛い所はありますか?
もちろん、その際の目線の高さ、聞こえやすい声質なども重要です。
難しいのは、必ずしも「丁寧な言葉遣いが拒否を防ぐ」わけではないという事実です。
あえて敬語を少し崩して親しみやすさを前面に出すとか、場合によっては「タメ口」に近いほうが受け入れられやすいことも…。
これが、介護施設の職員がタメ口を常用する理由のひとつになっているのは過去記事で述べた通りです。
私の信条として丁寧語よりは崩さないように話し掛けるのですが、利用者さんが頑なに拒否して困っていたところ、通りかかった介護士の方が
◯◯さん、何グズグズしてんの!?
はよリハビリ行っておいでっ!!
と叱った途端に、
しゃあないなぁ、もう…
と応じて下さった…ということも多々あります。
介護スタッフの方々には、悪役になって頂き申し訳ない気持ちです…(^_^;)
…が、倫理的にみて許容範囲内かどうかとなると、微妙のようにも思えます。
利用者さんの利益のために、どこまで手段を選ばず対応すべきなのか…。
これは永遠の課題と言えるでしょうね。
5)とにかく嫌!!(理由は不明)
実際の現場では、理由が不明確なことも多いです。
論理的に説明のつかない拒否は、療法士にとって一番の悩みどころです。
先述のSさんは、一時期私にだけは少し心を開いて下さいましたが、逆に全リハビリスタッフの中で私だけが拒否されるというケースもあります。
自称ベテラン(?)の私も、さすがに凹んでしまいますね…(~_~;)
ここまで来ると、やはり人間同士ですから、もう「互いの相性」としか言いようがありません(最初からそう決めつけてはいけませんが)。
ちなみに介護現場では、女性療法士の方が利用者さんからのウケは比較的良好のように思われます。
やはり第一印象としてソフトな雰囲気を与えやすいからでしょうか…。
ともかく、利用者さんがリハビリを拒否する理由は多種多様です。
療法士としては拒否されてストレスを感じることもありますが、理由をなるべく論理的に分析・解釈し、精神的に引きずらないようにするのが得策でしょうね。
特に、純粋で真面目な若手療法士にとって対象者から拒否されるのは辛いところですが、誠意を持って対応していればそれほど気に病むことはないと思います。
2.時代背景・生育環境との相関性は…?
私はPT歴2年目(今から20年前)の頃、勤めていた病院の同法人系列の老健に半年ほど出向していたことがありますが、当時は利用者さんのリハビリ拒否にそれほど悩まされてはいなかったように記憶しています。
現在と何が異なるのかはよく分かりませんが、強いて言えば「利用者さんの世代構成が違う」ということでしょうか。
当時は明治40年代の方々がまだまだ多かったのですが、今の職場では明治生まれの方は居ません。大正10年代の方も、全利用者の10%未満と思われます。
大半は、昭和ひと桁生まれの方々ではないでしょうか。
あれから20年経過しているのですから、当たり前なのですが…。
だからどやねん?
そう突っ込まれると、どう答えてよいのか分かりません…(^_^;)
ま、根拠のない私のテキトーな印象ではありますが、生まれ育った時代背景が人の価値観や言動に影響を与える可能性はありますし、リハビリという「少ししんどくて辛いこと」をご提案した際の反応にも、何らかの傾向として現れるのかも知れません。
「リハビリ拒否と各世代との相関関係」…無論、そういう研究論文など目にしたことはありませんが、個人的にはちょっと興味があります。
2025年には「団塊の世代」が後期高齢者となり、2040年には「団塊ジュニア世代」が高齢者に…。
団塊ジュニアとは1971~1974年生まれの世代を差しますが、これはまさに私自身です。
その頃には、介護施設におけるサービスのあり方にも大きな変革が求められるのではないでしょうか。
《スポンサーリンク》
3.さいごに…利用者(患者)さん本位のアプローチを
先述のように、拒否する方々は自らの状況を客観的に把握できていないことが多いですから、利用者さんの将来的な利益のためにも、できればリハビリを行なって頂けるよう専門職としてさまざまな工夫を凝らしたいところです。
ただその一方で、たとえ認知症で判断力が低下していたとしても、
ご本人の意思に反してでもリハビリを強いる必要があるのだろうか?
といった自問自答も、医療・介護従事者にとっては不可欠ではないでしょうか。
特に病院の療法士は、職場側から厳しい成果目標が課されており、ついつい「ノルマ」が脳裏にチラつくこともあるものです。
しかし、そういう時こそ「対象者にとっての本当の幸せとは何か」を熟考し、追求する必要があるのではないかと私は思います。
「意に反してリハビリをさせる」ことが真の目的ではありませんから…。
最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
《スポンサーリンク》