毎年7~8月頃になると、PT業界でも求人活動が活発になります。
私もリハビリ科の所属長として病院に勤めていた頃は、養成校で開催される就職説明会にたびたび出向いていたものです。
今年はコロナ禍によって例年とは様相が異なるものの、規模を縮小し感染対策も施しつつ、徐々に行われているようです。
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1.就職説明会のやりとり
医療業界でよく行われる就職説明会も、一般の合同企業説明会などと同様、各病院・施設ごとにブースが設けられ、集まった学生さんに向けて病院の概要や事業内容、先輩PTの話などを紹介するといった形式が取られることが多いです。
ブースに訪れた学生さんにひと通りの説明を済ませた後は、質疑応答に移ります。
何かご質問はありますか?
どんなことでもご遠慮なく🎶
よく質問される内容としては、どのような疾患の患者さんが多いか、とか、1日の診療実施数、新人教育の方法などでしょうか。
それらに関してはすでに概要を説明し終えているのですが、質問があれば更に詳細な説明を加えるようにします。
訪れる学生グループごとに対応する時間枠は、養成校の裁量で区切られていることが多いので、ポイントを押さえて端的に説明するのはなかなか大変です。
それでも、熱心に質問して下さる学生さんであれば、こちらも自然と説明に熱が入ります。
一方、説明を聴くだけ聴いて、ほとんど質問をしない学生さんも意外に多くいらっしゃいます。
こちらからは特に…。
いま全部説明してもらったんで。
…………(^_^;)
事前に質問事項を用意していないのか、それとも私の職場には興味がないのか…。
こういう場合、私は「今どきの学生さんの意識調査」という意味合いも含め、コミュニケーションを楽しむようにしています。
こちらから、逆にいくつか質問します。
◯◯さんは、どんな職場をお探しなんですか?
何かご希望はありますか?
はい、回復期病棟で働きたいです。
残念なことに、その時の私の職場には回復期リハビリ病棟がありませんでした。
そうですか…。
どうして回復期がイイんですか?
臨床実習の時、回復期で働いてる現場のPTの方々が、すごく楽しそうに活き活きとお仕事されてたんで…。
そうなんですね。
楽しくてやりがいのある職場という感じ?
そうですね~🎵
2.総務課長の厳しいご意見
その説明会では、アシスタントとして総務課のA課長にも同行してもらっていました。
総務課長は事務方の採用担当者でもあります。
A課長は私より5才ほど年下。真面目が服を着て歩いているような、実直な性格の人です。
学生さんとのやりとりを隣で静かに聴いていたA課長。
説明会が終わり、職場へ戻る自動車の中で、おもむろに口を開きました。
今どきのPTの学生さんって、みんなああいう感じなんですかね?
ん~まぁ、みんなってことはないでしょうけど…。
僕の願望かも知れませんけど、医療従事者って患者さんのために貢献したいと思って志望する人が多いものだと思ってましたから。
楽しそうに活き活き仕事してるから、とか…。ちょっと安易というか、自分本位じゃないですか?
すなお科長には申し訳ないんですが、僕ちょっとガッカリしましたね。
…………。
私には、返す言葉も見つかりませんでした。
医療専門職ではないA課長なりの捉え方には、私も一理あると感じたからです(この学生さんが明らかに消極的な態度だったことも一因と思われます)。
3.自己満足を求めてはいけないのか?
誤解の無いように申し上げておきたいのですが、私は
「医療従事者は常に献身的で自己犠牲をいとわない人格者でなければならない」
とか、
「医療という仕事に、自分のやりがい・楽しさを求めてはならない」
と思っているわけではありません。
対象者(患者さん・利用者さん)の方も、自分のリハビリを担当するPTが内心「やりがいのない仕事だなぁ」「ちっとも楽しくないよ」と感じながら仕事していたとしたら、嫌だと思います。
できれば、患者さん・医療従事者の双方がハッピーになればそれに越したことはありません。
ただ…。
自己満足や楽しさを職場選びの優先事項と考えるのは、対象者の不幸を飯のタネにしている医療者としてはあまり感心できるものではないようにも思えます。
お笑い芸人が観客を笑わせるためには、陰で血の滲むような努力をしていることでしょう。
そのプロセスは、決して楽しいこと、やりがいのあることばかりではないはずです。
医療従事者も同じで、患者さんを少しでも幸福に近づけるためには、不断の努力で知識・技術・経験を積み重ねていく必要があります。
PTが日々の業務のなかで感じることは人それぞれですが、私自身は20年以上この仕事をしていて、楽しいと思ったことはほとんどありません。
対象者のことを真剣に考えれば考えるほど、「自分のアプローチ方法が、良くも悪くもその後の患者さんの人生に影響を及ぼす」ことに強いプレッシャーを覚えるからです。
9割の苦悩のなかで、対象者が少しでも良い方向へ向かい、笑顔を取り戻した瞬間に、結果として1割のやりがいが得られる…というのが私の感じ方です。
長くPTを続けていれば、時には患者さんから拒絶されることもありますし、他のスタッフとの人間関係につまずくこともあります。
そんな時、「患者さんに感謝されたい」とか「楽しさ・やりがいを求めたい」といった自己満足をベースに仕事をしているPTは、
「こんなはずじゃなかった…」
と、モチベーションを下げてしまいがちです。
医療従事者・PTは何のために(誰のために)存在するのか?
もちろん、医療を通じて広く社会に貢献するためです。
医療者の自己満足感は、それ自体が目的ではなく、真摯に対象者と向き合った結果として得られるものです。
そういう信念を持って職務に当たっていれば、対象者に感謝されずとも、意中の職場で働けなくとも、モチベーションが根本から揺らぐことはないはずです。
昨今のコロナ禍をみても、一般の方々がいかに医療従事者を頼りにし、感謝の意を示して下さっていることか。
私たちはそれを謙虚に受けとめねばなりません。
4.人間関係重視&5年後の成長を見越した選択
ちょっと理想論に走り過ぎました😅
重ねて申し上げますが、変なプレッシャーを感じることなく気持ち良く仕事したいのというのは、働く側としての本音だと思います。
先述の就職説明会で「現場のPTの方々が、すごく楽しそうに活き活きと…」と表現した学生さんの感覚は、ある意味とても大事です。
ゆえに、職場選びではスタッフ間の人間関係を重視したいところです。
そんなの就職してみないと分からないよ…。
と反論されそうですね😓
確かに個々のスタッフ間の相性については一緒に働いてみなければ分からないものですが、組織全体の雰囲気などは、病院(施設)見学の際に推察できます。
詳細は上の過去記事をご一読頂けると幸いです。
ありがたいことに、就職活動中の学生さんによる検索流入が一定数あるようです m(_ _)m
職場のジャンルとしては、「スポーツ分野に進みたい」「小児リハに興味がある」など、明確なビジョンがあるのなら最初からそういう施設を選択するのもアリでしょう。
近年では、新卒で老健などの介護施設を選ぶ人も増えつつあります。
私個人としては現在、慢性的な人手不足に悩まされている老健に勤めていることもあり、学生さんが介護保険分野を選んで下さることは大変ありがたいことです。
しかしながら、いちPTの先輩としては最初から老健を選ぶことはあまりお勧めしません。
なぜなら、知識や経験に偏りが生じやすいからです。
詳細は上の過去記事で述べているのでここでは割愛しますが、
「現時点で明確なビジョンはないものの、5年先の自身の成長(ひいては、対象者への良質な医療の提供)につなげるために幅広い経験を身につけておきたい」
というのであれば、急性期~回復期~維持期、老健・訪問リハビリなど、同一法人内で幅広く事業展開をしている職場を選ぶことを推奨します。
※一般的なPTが一人前になるまでに必要な期間は、大体5年と私は考えています(確たる根拠はありませんが)。
一人前とは、理学療法に対する基本的な考え方や技術が確立し、どんな対象者を担当してもそつなくこなせるレベルです。
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5.さいごに
「脳卒中の急性期リハビリに興味がある」「回復期で働きたい」というような希望を持つ学生さんは多く、実を言うと若い頃の私もそうでした。
実際、急性期や回復期の分野では、文字通り患者さんの回復速度(入退院のサイクル)が速く、現場は活気にあふれているようにも見えます。
けれども、ケガや病気で苦しみながら頑張ってリハビリに取り組んでいる方々は、PTのやりがいのために存在しているわけではない、というのも事実です。
コロナ禍の中、PTの求人数縮小や給与削減など、就職戦線は学生さんにとって厳しい状況になりつつあるようですが、だからこそ、この当たり前の事実をしっかりと胸に刻みつけておいて頂きたいと切に願います。
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