前回の記事に対し、読者さまから「一度すり減った軟骨は元に戻らないと思い込んでいました」といったコメントを多く頂きました。
軟骨再生の可否については、医療の世界でもさまざまな見解があります。
私自身、前回は説明不足のため少し誤解を与えてしまったのではないかと反省しております m(_ _)m
そこで今回は予定していた内容を変更し、従来の見解と最新の知見について整理してみたいと思います。
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1.関節軟骨の構造と性質
まずは、関節軟骨の構造について簡単にご説明します。
関節軟骨は、軟骨細胞と軟骨基質からなります。
軟骨細胞はあたかも「ぶどうパン」のレーズンのように、まばらに存在しています。
軟骨には血管が通っていないため、関節液(滑液)によって栄養を受けています。
細胞が作り出す軟骨基質は、水分が豊富で耐衝撃性にも優れています。
表面はツルツルで、氷の摩擦係数よりも低いといわれるほどです。
これらの性質は、体重を支え関節を滑らかに動かすことに貢献しています。
2.軟骨は消耗品か?
◆骨や皮膚・内臓では組織細胞が密集しており、栄養血管も豊富。
◆一方、軟骨では細胞がまばらで血管も存在しない。
上記の理由により、硬い骨や皮膚・内臓などと比較すると軟骨の再生能力は高くありません。
多くの研究者の見解も「一度すり減った軟骨の再生は、ほとんど期待できない」というのが通説であり、ましてや一般の方々がそう思い込むのも無理はありません。
「軟骨は消耗品である」
こんな表現を使っているウェブサイトも、多く見受けられます。
しかし私は、そのような説明の仕方は非常にまずいと思います。
あたかも「消しゴム」のように、使えば使うほど削れてゆくかのような誤解を与えてしまうからです。
実際のところ、健康な若年者でも使用するたびに関節表面は微妙に摩耗していると考えられます。
それでもどんどん減っていかないのは、細胞の働きが活発で軟骨基質の弾力・水分が保たれており、摩耗したり古くなった成分は随時入れ替わるからでしょう。
そのためには適度な運動による刺激が不可欠です。
もちろん、トカゲの尻尾やイモリの脚のような、完璧な再生をイメージするのも間違っているとは思います。
歳とともに軟骨細胞の働きは衰え、細胞数そのものも減少すると云われています。また、栄養供給源である関節液も、ヒアルロン酸の減少などの加齢変化が生じます。
そうすると軟骨基質の弾力性・保水性も低下し、再生よりも摩耗の方が勝ってしまうのです。
ケガ・加齢・女性・肥満・運動不足などのリスク要因が重なると、すり減りに拍車をかけてしまいます
『外傷性軟骨損傷』や『変形性膝関節症(重度)』のような病的状態に陥ると、若い頃のように元通りになるというのはさすがに難しいです。
しかし、完全に諦めてはいけません。
軽い運動によって関節軟骨が徐々に再生するというデータも出つつあるからです。
3.「貧乏ゆすり」の効能について
近年、変形性股関節症に対する運動療法として「貧乏ゆすり(ジグリング)」が有効であるという知見が出ています。
当初は股関節症に適応されていたようですが、膝にも応用できるものです。
詳細は上記ウェブサイトに譲りますが、要約すると、関節を小刻みに動かすことで筋肉の血流や関節液の循環を高め、軟骨の再生を促すというものです。
NHKの某健康情報番組でも紹介されたことがあるので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います(個人的には、この番組の内容にはいくぶん問題があるように感じます😅)。
このような番組を視聴して、
へぇ、貧乏ゆすりで軟骨が再生するのか~。
ガッテン!
と、うわべだけで理解するのもいかがなものかと思います。
要は「低負荷で関節を動かすことが再生を促進する」という理屈ですから、必ずしも「貧乏ゆすり」である必要は無く、他の運動でも代用できます。
私の経験上、関節の可動域がある程度保たれていて痛みの軽い人であれば、動かす範囲はもっと広い方が良いようです。
前回の記事でご紹介した『膝伸ばし』などはその一例です。
私がまだPT1年目、両変形性膝関節症の80代後半の女性患者さんを担当した時のことです。
その患者さんの膝を曲げ伸ばししてみると、紙やすりを擦り合わせるような「ザラザラッ」とした感触が手に伝わってきました。
私は先輩に言われるままに、両脚に1㎏の重りを巻いて『膝伸ばし』を1日10~20分、週3回行って頂きました。
とても小柄な方でしたが、やがて2㎏でも平気で挙げられるようになりました。
そして1年ほど経った頃でしょうか。ザラッとした感触が無くなり、極めてスムーズに動くようになったのです。軟骨が再生し、関節表面が滑らかになったのだと思われます。
このような事例は、その後も多く経験しました。
通所リハビリを利用中の、やはり80代後半の女性利用者さん。つい最近のことです。
両膝の痛みと内反変形が強く、当初は伝い歩きも難しい状態でした。
そこで、『ピックアップウォーカー』を介護保険でレンタルし、自宅内で使って頂くようにしました。
両手に体重を分散したことで膝への負担が軽減し、自宅での歩行量は一気に増えました。
半年ほど経つと痛みがほとんど消失し、ご本人も大喜び。今では通所施設内を4点杖で歩けるようになりました。
これらの症例からも分かるように、程よい負荷が軟骨の再生を促す可能性はあると思われます。
もし再生しなかったとしても、痛みの軽減や動作能力の改善にはつながるはずです。
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4.エビデンスは不明確でも
「貧乏ゆすり(ジグリング)」の効果についてはまだデータが不足しており、エビデンス(科学的根拠)は明確ではないと云われています。
けれども、「適度な負荷が体に良く、過度な負荷は体を壊す。負荷が少な過ぎると衰える」のは生物の組織・器官すべてに共通する性質であり、今さら根拠を示すまでもない事実です。
原理原則をおさえた上で、既存の医療常識を疑ってみることも時には必要であり、そうした姿勢が新たな知見を生み出すのではないでしょうか。
関節軟骨についても、
◆「正常な軟骨」への「通常の負荷」は、再生を促す。
◆「正常な軟骨」への「過度な負荷」は、損傷を促す。
◆「脆弱な軟骨」への「通常の負荷」は、損傷を促す。
◆「脆弱な軟骨」への「軽度な負荷」は、再生を促す。
おおよそ、このように考えれば良いのではないかと思います。
当ブログとしては、根拠に乏しい健康法はなるべく紹介しないように留意しています。
しかし、一般的なエビデンスにのみ準拠した内容であれば、現場のPTとしてブログを発信する意味もあまり無いような気もします。
なので、臨床の中で得た経験、読者の皆さまに役立ちそうな知見については、誤解を招かないように注意しながら今後もお伝えてしていきたいと考えています。
拙い内容ではありますが、ご容赦下さい。
最後までご覧下さいましてありがとうございました <(_ _)>
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