前回に引き続き、腰痛の原因別対処法について整理していきます。
この記事では主に脊椎圧迫骨折の詳細をご説明するとともに、腰痛に似た症状を引き起こす各種疾患、そして最も頻度の高い非特異的腰痛(慢性腰痛)についての概要を解説したいと思います。
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3.脊椎圧迫骨折
脊椎の椎体(ついたい)が、尻もちなどの外力によって押し潰されるように骨折するものです。
よく起こる部位は、比較的負担の掛かりやすい「胸椎下部~腰椎上部」の間です。
骨粗鬆症との関連性が大きく、高齢者や50代以降の女性(閉経後)に圧倒的に多いです。
骨密度が著明に低下している人は、尻もちなどの明確な外傷がなくとも複数の椎体が徐々に潰れていき、背中・腰が曲がってしまいます。
俗に「いつのまにか骨折」と呼ばれるものです。
尻もち骨折にせよ「いつのまにか骨折」にせよ、胸椎~腰椎が前屈した状態で圧迫力が加わるため、たいていは椎体の前側が潰れていきます。
しかし、加わる外力が強かったり骨粗鬆症が重度であったりすると、まれに椎体の中心部分や後ろ側が損傷を受けてしまいます。
こうなると脊柱管狭窄症などと同様、後方にある神経を傷つけてしまい、脚の筋肉の麻痺や排尿・排便障害に至るケースもみられます。
1)治療法
◆痛みへの対症療法:
骨折それ自体によって起こる急性の腰痛は、骨膜(骨の表面にある薄い膜で、痛みを感じる神経が豊富に存在する)の損傷や、患部の炎症によるものです。
消炎鎮痛剤などによって痛みを緩和します。あくまでも一時的な措置ではありますが、日常生活の維持・向上につなげるためにも適切に活用したいものです。
◆コルセット:
体幹装具とも言います。
腹圧を高めて脊椎に掛かる負担を減少させるとともに、前屈や捻り(回旋)の動きを制限します。
尻もちなど、明確な受傷エピソードのある圧迫骨折に用いられます。
※画像引用元:川村義肢株式会社
装着期間は、骨折後の経過や担当医師の考え方にもよりますが、長くても受傷後3ヶ月くらいまででしょう。
◆手術療法:
椎体の圧壊が強く神経障害の恐れがある場合などは、金属の棒やスクリュー(ねじ)で固定する方法もありますが、適応としてはまれです。
最近では『BKP(Balloon Kyphoplasty:バルーン椎体形成術)』といって、潰れた椎体を風船で膨らませ、そこへセメントを注入する手術が広く行なわれるようになってきました。
2)予防・改善策
◆骨粗鬆症の薬物療法:
近年、骨密度を効果的に高める内服薬や注射薬が続々と開発されています。
運動療法や食事療法と併用すると、より効果的です。
◆生活指導・運動療法:
基本的には姿勢・動作の指導、ウォーキング、ストレッチ・筋トレ等、他の一般的な腰痛とほぼ同様です。
特に脊椎圧迫骨折では、「上半身(胸・腰椎)の急激な前屈・捻り動作」を避けながら背筋をしっかり鍛え、活動性を高めることが重要となります。
3)対処法のポイント(私見を一部含む)
<安静・コルセットの害について>
かつては、「痛みが緩和し骨折部が安定するまではベッド上安静」という消極的治療法が行なわれてきました。
しかし、それが「寝たきり→全身状態悪化→死亡(最悪の場合)」という不幸な結果をまねく事が分かり、今では可能な限り早くベッドから離れ、痛みをコントロールしながら活動性を高めていくのが一般的な治療(リハビリ)方法となっています。
ですので、「早期離床・日常生活の自立」を目的としてコルセットや薬を活用するのは有効と考えられますが、依存し過ぎるのも宜しくありません。
特にコルセットなど、半年を過ぎても「着けてないと不安だから…」と言って装着し続けている人をたまに見かけます。
しかし、骨折部が安定し神経損傷などのリスクが無くなれば、医学的にみてコルセットは不要です。
無用な長期使用は、活動の制限や体幹筋の弱化などのデメリットを作り出す恐れがあります。
装具を外す時期について主治医がきちんと説明していない事も多々あるようですが、患者さん(ご家族)の方も努めて疑問に思い、診察時に質問してみるのも大切です。
<骨粗鬆症の予防について>
骨粗鬆症の薬物療法は、前述のように運動療法や食事療法と併用することで効果を発揮します。
筋肉の収縮や、重力に逆らう活動(起立・歩行等)は、すべて骨を強くする原動力です。
骨はカルシウムとコラーゲン(たんぱく質)が結びついたものであり、骨細胞は血管から多くの栄養を受けています。
すなわち骨代謝を高めるためには、適度な運動とともに、全ての栄養素をバランスよく摂取する必要があることが分かります。
また、特に女性の方で、紫外線を極度に怖がって夏場の外出を避けたり、防護服さながらの格好で外出している姿をよく見かけますが…あまり極端なのもどうかと個人的には思います。
日光がビタミンDなどを活性化し骨密度を高めるのは科学的にも明らかな事です。
中高年になって骨粗鬆症→圧迫骨折に悩まされたくなければ、若いうちから「抗重力活動・バランスの取れた食事・適度な日光浴」の3つは意識して行ないたいものです。
<手術療法について>
手術に関しては、BKPなどは侵襲(メスで体を傷つける)が少なく、術後早期から活動性を上げていくことが可能です。
私も何例か担当しましたが、なかなか有効だと感じました。
ただ、全身麻酔で行なうとか、骨セメントが身体に及ぼす影響など、デメリットがまったく無いわけではない事も申し上げておきたいです。
ほとんどの症例は手術適応ではなく、装具・薬物・食事・運動療法の併用で早期から離床を図るのが一般的です。
活動性を高める過程で椎体の圧壊が進行していくこともありますが、それでも安静による弊害よりはマシ、という考え方です。
椎体の前側が徐々に潰れていくことに関しては、大きな問題にならないケースが多いです。
ちなみに、「ベッド上安静」or「積極的に離床」どちらでも、椎体の圧壊の程度はたいして変わらない…というデータもあるようです。
4.その他の疾患
この記事では字数の都合上、全て詳細には述べられませんが、腎臓の病気や転移性の癌など、腰痛の原因には思いがけないものも含まれています。
内科疾患によって生じる腰痛は割合としては数%未満なので、必要以上に怖がることはありません。
しかし、明確に鑑別することは治療上重要です。
1)感染性脊椎炎
黄色ブドウ球菌などの細菌が、脊椎を化膿させてしまう病気です。
高齢者や糖尿病・胆嚢炎など、易感染性(感染症を起こしやすい傾向)がベースになっていることが多いようです。
急性期では、腰背部の強い痛みや高熱を伴います。
細菌感染の結果、脊椎が潰れて圧迫骨折や脊柱管狭窄症などと同様の状態を呈することがあります。
急性期は安静と抗生物質の投与、回復期では圧迫骨折と同様、徐々に離床を図ります。
2)癌の脊椎転移
脊椎の腫瘍は、たいてい他の場所にある癌からの転移です。
乳癌・前立腺癌・肺癌などは比較的高い頻度で脊椎に転移するようです。
転移する部位によって、圧迫骨折や脊柱管狭窄症と同様の状態になります。
3)腹部大動脈瘤
心臓からお腹へ向かう太い動脈が、部分的に膨らんだ状態です。
前兆なくいきなり破裂することもある怖ろしい病気ですが、前駆症状として腹痛・腰痛を伴うこともあります。
動脈硬化がベースにある病気なので、中高年~高齢者には注意が必要です。
4)尿路結石・腎障害など
尿路結石やその他の腎臓関連疾患でも、腰背部痛が起こることがあります。
腎臓は、腎被膜という膜に覆われています。腎臓が何らかの理由で腫れ、腎被膜が引き伸ばされると痛みが生じるというわけです。
排尿痛・尿量の減少・頻尿・顔や足の浮腫(むくみ)・高熱など、腎障害を疑う症状を併発していれば直ちに受診することをお勧めします。
上記のような疾患では、慢性腰痛のような身体表面の症状(筋肉のダルさ)とは違う種類の痛みとして感じられるようですが、ハッキリと判別しにくいこともあります。
腰に負担を与えるような姿勢や動作を繰り返したというような特段のエピソードも無いのに突然痛くなった…とか、寝ていても痛みが楽にならない(だんだん痛みが強くなる)…というような時は要注意です。
場合によっては受診して医師に状態を確認してもらうことも必要でしょう。
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5.非特異的腰痛(慢性腰痛)
全腰痛患者の85%がこれに当たると言われます。
長期にわたる腰部周囲の頑固な鈍痛が主な症状ですが、椎間板ヘルニアなどと似た、お尻~脚の痛み・シビレを伴う場合もあります。
痛みの原因となる部位がハッキリと特定できないということで「非特異的」と呼ばれていますが、元々レントゲン・MRI・脊髄造影などの画像検査も万能ではないので、全ての原因がピンポイントで把握できるわけではありません。
軟骨や関節包・靱帯・筋肉・血管・神経などの軟らかい組織は通常のレントゲン写真では見えませんし、MRIでも詳細を掴むには限界があります。
大体において、腰痛関連疾患は画像所見と実際の症状がピッタリ一致することが少ないと言われており、それは私の臨床経験とも合致します。
しかしながら、何の原因も無いのにテレビ画面が突然映らなくなる、というようなオカルト現象が起こり得ないのと同様、腰痛という結果に紐付く原因は必ず存在するものです。
ということは、画像には見えなくとも身体のどこかに刺激・負荷が加わっていて、それを痛覚神経が察知し、脳に伝え、最終的に「痛み」として認識されるわけです。
その「刺激・負荷」の根本が、
◆日常生活の中で繰り返される姿勢・動作
◆職業やスポーツにおいて特有の姿勢・動作
であることは確実です。
そこに諸々の環境因子(寒さ・暑さ・疲労・精神的ストレス)が加わると、刺激が無い時でも脳が「痛い(かも知れない)」と感じてしまい、ますます痛みが慢性化・固定化する…という負のスパイラルに陥るのです。
1)治療法
◆痛みへの対症療法:
鎮痛剤や湿布、温熱などによって痛みを緩和します。
◆コルセット:
弾力性のあるベルト状のものがよく用いられます。
2)予防・改善策
◆生活指導・運動療法:
根本原因である姿勢・動作の工夫が最も重要です。
ウォーキングは全身の運動機能を無理なく高め、日常の活動性を向上させるには最適の運動です。
ストレッチ・筋トレについては、関節の柔軟性を高め、血流を良くするなど多くの利点があります。
3)対処法のポイント(私見を一部含む)
<痛みの緩和について>
鎮痛薬や物理療法は、一時的な対症療法でしかありません。
ただし、過度な依存に陥ること無く、日常の活動性を維持する目的で用いるなら良いでしょう。
神経ブロック注射も行なわれることがあるようですが、注射そのものが痛いわりには効果に乏しいので、慢性腰痛の人にはあまりおススメしません。
<コルセットについて>
運送業や介護職など、頻繁に重量物を持ち上げる職業の方が使う専用のベルトもあるようですね。
腰痛の慢性化に対して効果があるかどうかはともかく、急激な悪化を防止するという意味では有用と思われます。
<生活指導・運動療法について>
慢性化に至るまでのエピソードは人によって様々であるため、特にストレッチや筋トレについては個々の状態に応じて種類を選定する必要がありますが、バッチリはまれば著明な効果を挙げることもあります。
一方、姿勢・動作の工夫やウォーキングについては、ほとんどの慢性腰痛者に共通して適応できます。
ただし、基本的にどれも「実施した翌日からめざましい効果が出る」というようなものではありません。
1~3ヶ月は継続し、効果があれば一生続ける、くらいの気持ちで取り組む粘り強さが求められます。
◆さいごに
腎疾患や癌の転移などはともかく、その他の特異的腰痛(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・圧迫骨折)については、脊椎に掛かる力学的負荷が根本原因であるという点で、非特異的腰痛(慢性腰痛)と概ね共通しています。
すなわち、腰痛予防対策という点でも共通する部分が多いのではないか…ということが、前回&今回の記事でお分かり頂けたでしょうか?
それを前提として、次回はいよいよ「日常生活動作の工夫」についてご説明したいと思います。
今しばらくお待ち下さいませ…<(_ _)>
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