歩行器シリーズ後編の今回は、高齢者のニーズが高い『屋外用歩行車』と『シルバーカー』について解説します。
これらは汎用性に優れており、私が勤めている老健・特養の利用者さんの所有率も高いですが、使用に際してはいくつかの注意点があります。
そのため、適応判断のアセスメントは重要です。
※主に一般向けの基礎的な内容となりますが、医療・介護従事者の方々にも参考になれば幸いです。
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5.『屋外用歩行車』
単に『手押し車』などと呼ぶこともありますが、れっきとした歩行器の一種であり、介護保険制度でレンタルが可能です。
私が現在勤めている老健で「通所リハビリテーション」サービスをご利用中の高齢者もよく使用しているものです。汎用性があり、お薦め度も高いです。
1)長所
①支持基底面内に身体の一部を収められる
前編でご紹介した『ピックアップウォーカー』や『室内用歩行車(馬蹄タイプ)』ほどではないにしても、4つの車輪で囲まれた支持基底面のなかに足を踏み込むことが可能です。
また、グリップが進行方向に対しておおよそ平行に向いているため、身体の側方で体重を支えることができます。
※画像引用元:島製作所
これら構造上の利点により、後述する『シルバーカー』と比べて体重支持性・安定性ともに優れています。
②屋外の走破性に優れる
屋外使用を想定しているため『室内用歩行車(馬蹄タイプ)』よりも軽量であり、車輪径も大きめなので少々の段差でも大丈夫です。
日常よく使う道路の舗装状況が良くないのであれば、できるだけ軽くて車輪の大きなタイプを選ぶことをお薦めします。
※画像引用元:アビリティーズ・グループ
③動かし方が簡単
平地を普通に歩くだけなら、特別な動作パターンを習得する必要はありません。
④収納スペースがある
ちょっとした買い物の際に便利です。
携帯式の酸素ボンベを載せるタイプもあり、呼吸器疾患の人には助かります。
⑤簡易式の座面がある
歩いていて急に体調が悪くなった場合などに役立ちます。
手前側に座面が付いているので、いざという時にすぐ座れるのも利点のひとつです。
ただし座面は小さめであり、どっしりと座れるものではありません。
座面高も低いものが多く、立ち座りは少し難しいです。また、使用する前にちゃんと駐車ブレーキを掛けておかないと危険です。
あくまでも「緊急用の補助イス」と考えた方がよさそうです。
2)短所
①意図しない方向へ転がる危険性がある
このタイプの製品は、使用者の身体能力に応じて前輪の動きを『直進固定→90°回転→360°自在』といったように2~3段階に調節できるものが多いです。
※画像引用元:幸和製作所
それでも、車輪タイプの歩行器は総じて一旦バランスを崩すとズルズルと転がっていく危険性を有しています。
②駐車ブレーキの操作が難しい
ハンドブレーキは自転車と同じ感覚なので簡単ですし、ちゃんと調整されていればよく効きます。
一方、駐車ブレーキ(自動車のサイドブレーキのようなもの)は認知症の高齢者にとって操作方法の習得が難しいようです。
※画像引用元:幸和製作所
駐車ブレーキの掛け忘れは、使用開始・終了(起立・着席)の際にバランスを崩す要因となりがちです。
3)適応する身体状況
必要な下肢筋力はMMT(徒手筋力テスト)で4レベルといったところでしょう。
※MMT4レベルとは、「重力に抗して身体を支えられるが、健常には及ばない筋力」と考えて下さい。
屋外用歩行器は、体重を支える機能は『室内用歩行車(馬蹄タイプ)』には及びませんが、杖歩行に比べるとはるかに支持性・安定性ともに優れています。
すなわち、適応範囲もその中間レベルの身体能力ということになるでしょう。
グリップが進行方向に向いており側方バランスに優れていることから、歩行時に身体が横ゆれを起こす人には、後述する『シルバーカー』よりもこちらの方が適合しています。
◆股関節疾患(変形性股関節症・人工股関節置換術後・大腿骨頚部骨折など)
◆膝関節疾患(変形性膝関節症・人工膝関節置換術後など)
上記疾患には特に有効と思われますが、その他の整形外科疾患や、内科疾患で筋力・体力が低下している人なども全般的に対象となります。
麻痺やバランス障害が軽度であれば、脳卒中片麻痺やパーキンソン病などの中枢神経疾患でも適応になり得ます。
4)使用に適した住環境
便宜上『屋外用歩行車』と表記しましたが、病院や介護施設内で使っている人も多いです。
屋内外をカバーする汎用性の高さから、介護保険の通所サービス利用者の使用率が高いのも頷けます。
ただし、狭いスペースでは車体・車輪の大きさがネックになります。
住居内で使用する場合、フローリング中心のバリアフリー住宅で廊下の幅も十分あれば、ある程度実用的に使えるでしょう。
6.『シルバーカー』
※画像引用元:島製作所
当シリーズでご紹介する製品のなかで唯一、介護保険制度でレンタルできないものです。
厳密には歩行器の範疇に入らないものではありますが、ある程度の歩行能力を有する人には、それなりに汎用性のある便利な歩行補助具と言えるでしょう。
1)長所
①構造が丈夫で、屋外の走破性にも優れる
製品によってピンからキリまであるとは思いますが、10年以上にわたって使い込まれたシルバーカーを目にすることもよくあります。
荷物をたくさん積んだり人が腰掛けたりすることを想定しているためか、フレーム構造はしっかりしているものが多いです。
②動かし方が簡単
小回りは効きにくいのですが、まっすぐ駆動する分には特に難しくありません。
③収納スペースが大きい
シルバーカーの構造は、ベビーカーによく似ています。
※画像引用元:島製作所
ベビーカーは使用者であるお母さんの体重を支えるのが主目的ではなく、赤ちゃんを運ぶためにあります。
シルバーカーも同様で、体重支持性はあまり期待できませんが、物を運ぶ能力はそれなりに高い構造になっています。
高齢者がまとまったお買い物をする際には非常に有利と言えます。
④簡易式の座面がある
イスとしての構造自体は『屋外用歩行車』よりもしっかりしています。
※画像引用元:島製作所
ただし座面は前側にあるので、座る際には駐車ブレーキを掛けた上で、歩いて前方に回り込まなければなりません。
もちろん、立ち上がった後は逆の手順になります。
一定の歩行能力を有する人でなければ、これらの動作はちょっと危ないかも知れません。
2)短所
①支持基底面内に身体を収められない
※画像引用元:島製作所
『屋外用歩行車』では、後輪の間をつなぐフレームやブレーキプレートがU字型に加工されており、両脚に干渉しないよう工夫されています、
一方、シルバーカーは後輪の間にまっすぐ渡しているため、支持基底面内に足を踏み込むことができません。
また、ほぼ全ての歩行器はグリップが進行方向に対し平行かつ身体を取り囲むような形になっており、支持基底面内でしっかりと体重を支持することができます。
対してシルバーカーはベビーカーと同様、横棒タイプ(バーハンドル)であり、体重を支える構造にはなっていません。
グリップから下ろした垂線も、かなり後輪寄りであることが分かります。
これら構造上の違いはシルバーカーと他の製品とを明確に区別する要素であり、介護保険制度上『歩行器』と認められない理由でもあります。
②意図しない方向へ転がる危険性がある
車体の支持基底面と使用者の身体が離れているため、方向転換時にバランスを崩しズルッと行く可能性があります。
当然ながら小さいシルバーカーほど、その傾向は強いです。
③駐車ブレーキの操作が難しい
『屋外用歩行車』と同様です。認知症の方々にとっては駐車ブレーキの操作ミスが鬼門になるようです。
3)適応する身体状況
必要な下肢筋力はMMTで4~5レベルです。
※「重力に抗して十分に身体を支えられるが、健常には少し及ばない筋力」と考えて下さい。
シルバーカーの取扱説明書にも、必ず「主として自立歩行できる高齢者が、より安定して歩行できるように補助的に使用するものです」との注意書きがあります。
日常生活は自立しているので介護認定は受けられないけど、買い物で重い荷物を運ぶのは大変…💦
そういう方は、購入を検討してみても良いかも知れませんね。
介護保険を使ってのレンタルはできないものの、最近ではホームセンターの介護用品コーナーなどでも安価でしっかりしたシルバーカーが購入できるようになりました。
シルバーカーは物を運ぶ役割こそが主体であり、歩行を補助する能力は限定的である。
…あまりにもシルバーカーをディスり過ぎた感がありますが、そう捨てたものではありません (^_^;)
シルバーカーと使用者の支持基底面をつなぎ合わせると、前後に長い長方形になります。
ということは、横方向への安定性には欠けるものの、前後方向には強いわけです。
脊椎圧迫骨折や脊柱管狭窄症など、背中や腰が曲がりがちな疾患の人にはなかなか有効であると言えます。
ちなみに、シルバーカーを押す際にはつい腰を丸める姿勢になりがちですが、ますます腰痛を助長してしまいます。
なるべく腰を伸ばして歩けるように、グリップの高さを調節しましょう。
※画像引用元:島製作所
4)使用に適した住環境
基本的な考え方は『屋外用歩行車』と同様で、屋内外をカバーする汎用性の高さが利点です。
私が以前担当した高齢の患者さんの話ですが、バリアフリーではない戸建住宅で小型のシルバーカーを使いこなしている方がいらっしゃいました。
安定感には劣るものの、小回りの利く車体特性をうまく活かした利用方法に感心させられました。
患者さん・利用者さんから学ぶことはたくさんありますね😄
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7.さいごに…歩行器はレンタルがベター
前編でも述べた通り、歩行器(シルバーカーは除く)は介護保険制度にもとづく居宅サービス『福祉用具貸与(レンタル)』の対象品目です。
種類にもよりますが、自己負担は月200~500円程度でしょう。
歩行器は消耗の激しい福祉用具です。
また、身体能力の変化などに応じて種類を頻繁に変更しなければならない場合もありますから、介護保険が適用できる方には購入よりもレンタルをお薦めします。
とは言え、身体能力が高く「自立判定」になるなどして要介護(or 支援)認定が受けられない人もいらっしゃるかと思います。
自費レンタルもひとつの方法ですが月2,000~5,000円程度は掛かるので、下手をすると1年で購入金額に達してしまいます。
使用する期間も想定して、自費レンタルか購入かを検討しましょう。
ある意味、身体の一部として使用するものなので、ネット通販で購入するのはあまりお薦めできません。
面倒でも店頭へ出向くなどして販売員のアドバイスに耳を傾け、適合性や使用感・デザインを確認してから購入するようにしましょう。
今回ご紹介できなかった製品もまだまだたくさんありますが、歩行器シリーズはここでひと区切りつけさせて頂きます。
疑問点やご質問等ございましたら、コメント欄へ。
ご相談等はお問い合わせフォームからご遠慮なく🎶
それでは、最後までご覧下さいましてありがとうございました m(_ _)m
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