前回に続き、私が管理職をしていた時に自主作成したPT向け接遇マニュアルを掲載します。
接遇の対象は患者さんのみならず、同僚・上司・部下や他施設の職員なども含みますので、そういった内容も含まれています。
一般企業にお勤めの方々にとっては拙い内容かも知れませんが、なにぶん「世間知らず」と揶揄される医療従事者向けに作成した小冊子ですので、ご容赦下さいませ。
《スポンサーリンク》
4.言葉づかい
1)言葉づかいの基本
①敬語は相手との立場の違いを表す言葉です。敬語を正しく自然に使うために、日頃からできるだけ敬語に慣れ親しみましょう。
②『親しさ』と『なれなれしさ』は違います。患者様やご家族様と親しくなっても、丁寧語よりは崩さないようにしましょう。
2)敬語の使用例
①だれですか?
⇒「どちら(どなた)さまでしょうか?」
②何の用ですか?
⇒「どのようなご用件でしょうか?」
③ちょっと待ってください
⇒「少々お待ちいただけますか?」
④すぐに呼んで来ます
⇒「ただ今呼んで参ります」
⑤もう一回来てください
⇒「もう一度お越しいただけませんか?」
⑥また電話してください
⇒「のちほど改めてお電話いただけませんか?」
⑦あとで電話します
⇒「のちほどお電話いたします(差し上げます)」
⑧あの女の人、男の人
⇒「あちらの女性(の方)、男性(の方)」
3)話し方のポイント
①丁寧に、かつハキハキと話しましょう(とくに語尾をはっきりと)。
②語調はソフトに、親しみを込めて話しましょう。
③専門用語・略語・カタカナ言葉は、分かりやすい表現に置き換えましょう。
4)クッション言葉の使用例
患者様の意向に沿えない場合でも、否定的表現はできるだけ避けましょう。
クッション言葉を上手に活用すれば、謙虚で柔らかな表現になります。
①「恐れ入りますが…」~をお願いしてもよろしいでしょうか?
②「よろしければ…」ご用件をお伺いいたしましょうか?
③「お手数ですが…」こちらにご記入いただけますか?
④「あいにくですが…」席を外しております。
⑤「ご足労をおかけいたしますが…」明日改めてお越しいただけませんか?
⑥「申し訳ございませんが…」もう一度お願いいたします。
5)患者様の呼び方
※当ブログの記事では「患者さん」「ご家族」という呼称を用いることが多いですが、私が勤めていた以前の職場では基本的に「患者様」「ご家族様」で統一していました。
敬称としてどちらが好ましいかは意見が分かれるところですが、いずれにせよ職場内で統一しておくことが望ましいです。
①好ましい呼び方
⇒「◯◯さま」「△△さん」
⇒直接、患者様に「◯◯さま」と呼びかけると、心理的に敬遠されてしまうケースもあります。その場合は、あえて「さん」づけで呼びましょう。
⇒子どもの患者様の場合、「くん」づけでも良いでしょう。
⇒患者様に関するスタッフ同士の会話では、いかなる場合でも必ず「さま」づけで話しましょう。
②好ましくない呼び方
⇒「おじいちゃん(おばあちゃん)」、ニックネーム
6)スタッフ同士の呼び方
①上司を呼ぶ時
⇒役職名のみ:「院長」「師長」
⇒名字+役職名:「◯◯科長」「△△主任」
※好ましくない呼び方:「院長先生」「主任さん」
②先輩・後輩・同僚を呼ぶ時
⇒名字+さん:「◯◯さん」
⇒名字+資格名:「◯◯PT」「△△OT」
※好ましくない呼び方:「◯◯くん」「△△ちゃん」、ニックネーム
※療法士を「先生」呼称する職場もありますが、私の勤め先では控えていました。
③職場外の人にスタッフのことを話す時
⇒名字のみ呼び捨て:「田中」
⇒役職名のみ:「院長」
⇒役職名(資格名)+名字:「院長の田中」「医師の田中」
⇒名字+資格名:「田中医師」
④他施設の人の呼び方
⇒名字+役職名:「鈴木課長」
⇒役職名+名字+さま:「課長の鈴木さま」
5.就業中のマナー
1)出勤時のマナー
①始業時刻には業務に取り掛かれるよう、余裕を持って出勤しましょう。
⇒時間を守る職員は信用されます。また、時間の余裕は心の余裕にもつながります。
②出勤してからの朝食・歯磨きは控えて下さい。
③やむを得ない遅刻や、急に休暇を取る時は、できるだけ早く職場へ電話連絡をしましょう。
2)業務中のマナー
①公私混同を避けましょう。
⇒職場の備品と私物を区別しましょう。
⇒業務時間中の喫煙・携帯電話の使用などは慎みましょう。
⇒プライベートでのストレスを職場に持ち込まないように留意しましょう。
②整理整頓を心掛けましょう。
⇒自分の机や共用部分の整理をし、すっきりとした印象を与えましょう。
③スタッフ同士の私的な立ち話や内緒話(耳打ちなど)は、患者様や来客の前では慎みましょう。
④患者様やスタッフとすれ違う時は、自分から声掛けや会釈などのあいさつをしましょう。
⑤困っている患者様やご家族様を見かけたら、声を掛けて手伝いを申し出ましょう。
3)離席・外出時のマナー
①席を外す時は、行き先と戻る時間の目安を他のスタッフに知らせましょう。
②私用や外出の時は、上司の許可を得るようにしましょう。
③自分が不在の時に予測される事態については、事前に段取りをしておきましょう。
4)休憩中のマナー
①休憩所までの道中(廊下など)でも、身だしなみを崩さないようにしましょう。
②休憩所では、大声で話をしないように注意しましょう。
③休憩中でも、必要に応じて患者様の用事を優先しましょう。
※労働基準法 第三十四条 3項には「使用者は休憩時間を自由に利用させなければならない」とありますので、がんじがらめにするのは望ましくありませんが、医療従事者として常識的な範囲でマナーに留意すべきでしょう。
5)終業時のマナー
①黙って帰らず、周囲のスタッフにあいさつをして帰りましょう。
②周囲が忙しそうな場合、可能であれば協力を申し出ましょう。
※残業を奨励するものではありません。チームワーク・思いやりの意味合いです。
6)室内環境のマナー
①室温の調節に気を配りましょう。
②まぶしく(暗く)ないようにするなど、光線・照明に気を配りましょう。
③掲示物は、美しく見やすいように貼付しましょう。
④騒音を避けましょう(足音・ドアの開閉・器具の移動など)。
7)個人情報・プライバシーについてのマナー
①患者様に聞こえる場所で、患者様やご家族様の話をしないように注意しましょう。
②カルテなど個人情報に関わるものは、他の人に見られないように持ち歩きましょう。
③個人情報に関わる書類は、伏せて置くようにしましょう。
④病室のカーテンは無言でいきなり開けてはいけません。「◯◯さま、今よろしいでしょうか?」と声を掛けてから余裕をもって入りましょう。
⑤職場の外では、業務上の出来事や患者様・ご家族様についての会話は慎みましょう。
《スポンサーリンク》
6.さいごに…『接遇ミニ研修』で毎日コツコツと
接遇マニュアルの主な内容は以上です。
項目的にはまだまだ不十分ではありますが、新入職員のオリエンテーション時に冊子として手渡し、ひと通りの説明をザックリと行っていました。
そしてこのマニュアルをベースに、『接遇ミニ研修』を毎朝のミーティングで行っていました。
教育としてはむしろこちらがメインになります。
◆身だしなみチェック
◆お辞儀の練習
◆言葉づかいの練習
◆接遇ロールプレイング
『身だしなみチェック』は毎週月曜日。それ以外については日替わりローテーションで行いました。
ミーティングの最後の5分間で実施できる程度のものですが、マニュアルに記載されていない細々とした内容(電話応対の具体例など)は、全てこのミニ研修の中でカバーするようにしました。
「年1回、2時間みっちり」といった研修方法では、接遇はなかなか身につくものではありません。
やはり「少量頻回」で毎日コツコツ行うことが、学習理論的にも有効のようですね。
ここで重要なのは、教育する相手は分別のある大人だということです。
「この職場ではこう決まっているから守って下さい!」と頭ごなしに押しつけるのではなく、「どうして医療者には接遇技術が求められるのか」を粘り強く説明していくことが、リーダーや先輩の役割です。
端的に言えば、接遇とは「おもてなし・思いやり・いたわりの気持ちを形にして伝えること」です。
「形」がなぜ大切なのか?
心の中でいくら相手のことを思っていても、それを適切な言葉や態度にして示さないと伝わりませんし、伝わらなければ「思っていない」のと同等だからです。
接遇の重要性をすでに理解している人には「釈迦に説法」ですが、初心を忘れ、謙虚さに欠けている医療(介護)従事者は残念ながら多いです。
接遇研修はまず「形」から入りますが、医療従事者の社会的責任について再認識し、より良い医療(介護)サービスの提供に結びつけることが最終的な目的だと私は考えます。
次回の記事では、接遇ミニ研修『身だしなみチェック』の方法についてご説明します。
最後までご覧下さいましてありがとうございましたm(_ _)m
《スポンサーリンク》