現代人は、イスに座っている時間がとても長いです。
何も意識せずに長時間座っていると、腰椎は徐々に後弯し、知らず知らずのうちに腰に負担を与えてしまいます。
それが慢性腰痛の大きな原因のひとつになっていることは、疑いの余地がありません。
今回は、座位姿勢の留意点について述べたいと思います。
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1.「腰痛予防」と「作業効率」を考慮した座位とは?
直立状態では、腰椎はやや前弯(ぜんわん)しています。
これがヒトの腰椎における基本状態と言ってよいでしょう。
長時間イスに座っていると、徐々に疲労が溜まって姿勢は崩れていき、やがて後弯(こうわん)を強いられます。
腰椎後弯は、腰の後ろにある重要組織(筋肉・靱帯・神経など)に持続的な負荷を与えてしまいます。それが椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、また慢性腰痛の遠因になるのです。
事務処理業務や食事摂取など、机の上で作業を行なう際の姿勢は非常に重要です。
それでは、「腰痛を予防しつつ、作業のしやすさを重視した座位姿勢」とは、どうあるべきなのでしょうか?
以下、順を追ってご説明します。
ポイント①:深く座って骨盤を立てる(骨盤の前傾)
まずは、お尻を座面の奥まで入れて、深く座ってみましょう。
骨盤を立てるよう意識すると、腰椎は立位の時と同様、自然に前弯します。
この座り方は、背もたれが有っても無くても基本的には同じです。
背もたれについては、腰~肩甲骨の下あたりをサポートしてくれるものが良いでしょう。
ポイント②:足の裏をしっかりと接地させる
深く座った際、足の裏が床にピッタリと着けば、座面の高さは適切と言えます。
身体を支える下側の面積(支持基底面)は、広ければ広いほど体重を分散させることができ、骨盤~上半身も安定するからです。
また、机の上で作業する際にも、両足に体重を載せることで上半身の前傾が容易になります。
「スツール」のような足が届かないイスは、局所(坐骨や尾骨・仙骨の出っ張り部分)に圧が集中してお尻が痛くなり、座位姿勢の崩れ→腰痛の原因となります。
ちなみに一般的な事務用イスの座面高は、42㎝であることが多いです。
※正確には、座面の前側42㎝・後ろ側40㎝程度。
これは、いわゆる「新JIS規格」で身長165㎝前後の成人を基準にしているためです。
ゆえに、高齢者や女性・子供では座面が高過ぎることもしばしばあります。
そのような時は、台などを設置してでも必ず足の裏を着けるようにしましょう。
ポイント③:膝の後ろに少し余裕を持たせる
大腿部&下腿部の後面と、イスの座面前方部との間に「2横指」程度の余裕があれば良いでしょう。
ここを窮屈にすると、膝裏が当たって痛くなったりします。
また、少し隙間があった方が、脚やお尻などを微妙にずらしたりするのが容易になるということもあります。
医療・介護従事者が「良肢位保持(ポジショニング)」の際によくやる失敗なのですが、あまりにピッタリ適合させ過ぎると、自然な動きを阻害してしまうものです。
ポイント④:肘を曲げ、前腕を机に載せる
イスに対応した机の高さに関する基準です。
肘関節を直角近くまで曲げた時、自然に腕を載せられるくらいの高さであれば、作業がしやすくなります。
※イスと机の高さの対応関係については計算式が用いられることもありますが、あまり実用的ではないので特におススメしません。
一般的な事務机やご家庭の食卓のテーブルなどは、高さが70㎝であることが多いです。
これも「新JIS規格」がベースになっています。
この規格は「新」と言いつつ、実は1971年に作られたものです。現在は日本人の体格向上に対応し、72㎝くらいの机もよく出回っているようです。
やはり、高齢者や小柄な方には適合しない場合も多いですね。
2.作業姿勢と環境のチェック
前項①~④を確保した上で、効率よく作業が行なえるかチェックしてみましょう。
机の上で各種作業を行なうには、
◆骨盤が立った状態を保てる。
◆足の裏に体重を載せることができる。
少なくともこの2つが揃っていると下半身が安定し、上半身を前傾させ、腕を前方に伸ばし自由に使いこなすことが可能になります。
逆に、骨盤が寝ている(後傾)状態で作業をしようとすると、無理やり上半身を前傾させなくてはなりません。
そうすると、ますます腰椎の後弯を助長し腰痛が悪化してしまいます。
同時に「ストレートネック」など、首・肩の痛みも誘発します。
1)上半身の前傾が困難な場合
前述のように、通常のイスの座面はほんの少し「後ろ下がり」になっています。
これは、お尻の前ズレを防止し、背もたれにもたれて安楽に座れるようにするための措置です。
言い換えれば、「後ろ下がり」の状態は安楽性に優れる一方、作業性にはやや劣ると言えます。
健康な若年者であれば、座面が後ろ下がりになっているのを意識することは無いでしょう。
なぜなら、作業の際に骨盤を立て、上半身を前傾させることは身体能力的に全く難しくないからです。
ところが、要介護高齢者などはそうもいきません。そもそも骨盤・上半身を前傾させる能力が低下しているので、意識すれば改善する、というものではないからです。
なので、作業をする際や、リハビリで「イスからの立ち上がり練習」などを行なう際は、イスの後脚に2㎝程度の薄い冊子などをかませて、座面の後ろ下がり状態を解消させるのも有効であったりします。
ただし、あまり前傾させ過ぎると前ズレを助長するので注意して下さいね。
2)机が高過ぎて作業が困難な場合
私は介護老人保健施設に勤めていますが、食卓が高過ぎるせいで上手く食事が摂れず困っている高齢者をよく見かけます。
こうなると、腰痛予防以前の問題ですね…。
テーブルの高さを変更するのは運用上難しいこともあるので、座面を高くして足台を設置するなど、医療・介護従事者がしっかり配慮すべきところでしょう。
3)どうしてもお尻が痛くなる場合
まずは前記①~④の条件を整えた上で、それでもお尻が痛いという場合、プラスアルファの要素としてクッションを検討するのは良いでしょう。
特に、足の裏をちゃんと接地し、お尻に掛かる体重を分散できているかどうかを先に確認することが大事です。
座面に載せるクッションについては様々なものがあり、骨盤を立てた状態(前傾位)で保持してくれるという謳い文句の商品もあるようです。
座り心地という観点では有効な場合も多いですが、作業性の向上とか腰痛予防という意味では「どちらとも言えない」というのが個人的な意見です。
クッションを使用すると相対的に座面が高くなるので、必ず足の接地状況を確認するのは言うまでもありません。
3.自動車運転時の座位姿勢
タクシーや長距離トラックのドライバーなど、慢性腰痛や脊柱管狭窄症に悩まされている方々が非常に多いですね。
車を運転する際の座り方も、基本は普通のイスと変わりありません。
まずは深く腰掛け、座席の調節を始めましょう。
ここで重要なのは、「走る凶器」となり得る鉄の塊を動かすわけですから、
◆とっさの時に、ハンドル・ペダルなどの操作を素早く行なえる。
このことを最優先しなければならないのは言うまでもありません。
しかし実は、この「操作性の最適化」と「運転時の腰痛予防」は相容れないものではなく、むしろ両立する要素が多いのです。
以下、私自身の運転経験のみならず、プロのドライバーが推奨する内容も盛り込んで述べたいと思います。
ポイント①:ペダルを踏み込んだ時、膝に余裕がある
まず、座席の前後位置から決めます。
ブレーキペダルを最後まで一杯踏み込んでも、膝が軽く曲がっていて余裕がある位置に調節しましょう。
MT(マニュアル)車であれば、クラッチペダルを床まで踏み込んでも脚が伸び切らない位置です。
もちろん、これは素早いペダル操作を可能にするためですが、ペダル位置が遠いと踏む込む際に腰を前にずらさなくてはならず、結果として腰椎の後弯につながるということも大きな理由です。
普段ふんぞり返って運転している人にとっては、最初はちょっと窮屈に感じることでしょう。
ちなみに私はMT車を運転しているので、座席はかなり前です。
脚が短いこともあるのですが…(^_^;)
ポイント②:ハンドルの頂上を握った時、肘に余裕がある
次に、背もたれの角度(ハンドルの位置)を調節します。
ハンドルを「9時15分」の位置で握った時、両肘が軽く曲がるのが基本です。
さらに、片手でハンドルの頂上を握った際にも肩甲骨や背中が座面から離れず、肘が伸び切らないくらいが良いとされます。
背もたれの角度はかなり「立ち気味」にしておく必要がありますが、これが骨盤の前傾位保持につながり、結果として腰痛予防にもなるというわけです。
最近ではハンドルの位置や角度を微調整できる「チルト&テレスコピックステアリング」が採用されている車も多くなりましたね。有効に活用しましょう。
やはり私はレーシングドライバーばりに、ハンドル位置は結構近いです。
MT車の場合、片手でハンドル操作をすることも多いので、なおさらです。
「ふんぞり返り姿勢」は一見ラクなように思えますが、運転操作のたびに腰椎を後弯させてしまい、ボディーブローのように腰に負担を掛けてしまうのです。
今一度、ドライビングポジション(運転姿勢)をチェックしてみることをおススメします♫
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4.さいごに…最も悪いのは「長時間の同一姿勢」
ここまで座位姿勢の基本をご説明してきましたが、誤解の無いように申し上げておきたいのは、
最も腰に悪いのは「同一姿勢を長時間続けること」
です!!
骨盤を前傾して腰椎も適度に前弯し、深く腰掛けるのは一見「きれいな座位」のようです。
しかし、そのままの姿勢で何時間も動かないでいると、同じ身体部位に持続的な負荷が掛かり、血流も滞ってますます腰痛を増悪させてしまいます。
そういう意味では、時間の経過とともに姿勢が崩れていくのはごく自然な反応です。
本当は「良肢位(良い姿勢)」など有って無きが如し、なのです。
問題は、「崩れた姿勢を自分で戻そうと意図し、実際にそれが出来るかどうか」です。
自由に動ける若年者であれば、30分~1時間に1回程度、立ち上がって背伸びでもすれば、腰痛をある程度予防できることでしょう。
ところが、要介護高齢者などはたいてい「崩れるがまま」になり、自身で元の体勢に戻ることができません。
これも医療・介護従事者に多い過ちですが、崩れているのを業務の忙しさにかまけて放置したり、あるいは車イスの隙間という隙間にクッションを詰め込み、「きれいに座れているから」と言って何時間も見過ごしているケースがやたら多いです。
施設では、人員不足などやむを得ない事情もあるのは私にも理解できますが、若年者ですら全く姿勢を変えずに1時間座っていることなど難しいのですから、もっと想像力を働かせるべきだと思います。
ご自身で姿勢を修正できない方には、たとえ崩れていなくても座り直しの介助を随時行なうことを推奨します!
車の運転にしても、良い姿勢を保てているから何時間も…というのは、腰痛の悪化という意味でも、集中力の低下による事故の誘発という観点でも、非常に危険です。
やはり1時間に1回は、降車して休憩したいところですね。
今回は主に作業性の観点から座位姿勢についてご説明しましたが、電車のシートに座る時など、様々な場面で応用して頂ければ良いかと思います。
長文になり申し訳ございませんでした。
次回は、日常生活や職業上の動作における留意点を記事にする予定です。
最後までご覧下さいましてありがとうございました。
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