脚の筋力低下や痛み、骨折後の歩行リハビリ等、中高年~高齢者の方々には最も用いられることの多いT字杖。
最近ではホームセンターなどでも安価に購入できるようになりましたね。
そこで今回は、T字杖の選び方や調節方法等について解説したいと思います。
※例によって一般向けの内容となりますが、PT・OT・Nsなど医療従事者をめざす学生の方々にも参考になれば幸いです。
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1.T字杖の選び方
まずは、私がかつて父親と義母のために購入した杖をご紹介します(今は両方とも形見になってしまいましたが…)。
ずいぶん前に某ホームセンターで購入したものです。価格はハッキリ覚えていませんが、両方とも3,000円台だったと思います。
この価格帯でもSGマーク(※)が付いており、強度・機能性ともに充分なものと言えます。
※SGマークとは『Safety Goods(安全な製品)』の略で、一般財団法人 製品安全協会が定めたものです。
最近では通販で購入される方も多いと思いますが、自身の身体の一部として用いるものなので、できれば店頭で実物を確認した上でお買い求め頂くことをおススメします。
1)各パーツの名称
パーツの呼称は多少の相違があります。当記事では上記の名称で統一してご説明します。
2)固定式・伸縮式、どちらが良い?
私のおススメは、伸縮式(長さ調節ができるもの)です。
固定式の場合、パイプカッター等で支柱を切断して、使用者の身長・体格に合わせます。
当然ながら、一度切ってしまうと元の長さには戻せません。
杖を適合させる過程では、使用者が慣れるまで色んな長さを試して頂く場合もあります。
なので、いつでも微調整できる伸縮式の方が使い勝手は良いです。
3)折りたたみ杖のメリットは?
例えば、「外出先で脚が痛くなった時だけ使用したい」という方は、折りたたみできる杖はちょっと便利ですね。
まぁ、私の父は杖が常時必要なレベルだったので、折りたたみ機能は結局ほとんど使いませんでしたが…(^_^;
使用する際は、継ぎ目部分をしっかりはめ込んで下さいね。
折りたたみ杖はパーツ数も多く、劣化や強度不足などが気になるところですが、使い方を誤らなければ機能性・耐久性ともに通常のT字杖と遜色ありません。
強いてデメリットを言えば、伸縮の調節範囲が少ない(10㎝程度)ことでしょうか…。
4)グリップの材質・形状は?
材質は木・発泡プラスチック・アクリルなど様々です。
誤って杖を床に倒してしまった時など、木製のグリップは後端の部分が割れてしまうことが多いです。
※プラスチック製でも同様のことは起こり得るので、まずは倒してしまわないように注意しましょう。
形状については普通どれも似たようなものですが、手の小さい人は細めのグリップが握りやすいです。
個人的な好みもあるでしょうから、実際に握ってみて確認してから購入した方が良いです。
掌(てのひら)の形に合わせた、以下のような特殊なグリップもあります。
※画像引用元:アビリティーズ・グループ
杖をついていて掌が痛むという人に適していますが、一般の方には特におススメというわけではありません。
このタイプは右手用・左手用で形状が異なるので、ご購入の際は注意して下さい。
5)支柱の太さは強度・耐久性に影響する?
細い杖は何となく心許ない…という患者さんもいらっしゃいましたが、上記の価格帯でSGマーク入りのものであれば、通常の使用では特に問題は無いようです。
ただ、無造作に扱うとどんなに太い支柱でも曲がり・凹みは生じるので注意が必要です。
ほとんどの支柱はアルミ製なので、横からの衝撃にはあまり強くはないのです。
2.T字杖の長さ調節
ここからは、杖の長さの適合方法をご説明します。
ご自身で調節する際の参考として提示しますが、医療(介護)機関にかかっている方は専門職(PT・OTなど)にご相談下さいませ。
1)長さ調節の基本
まず、手を下ろして普通に立ってみて下さい。
※写真の人形は裸足ですが、実際は靴を履いた状態で合わせましょう。
脚の小指の外側15㎝あたりに杖をついた時、グリップの上端が手首のラインと一致する高さに調節しましょう。
この高さでグリップを握ると自然に肘が軽く曲がり、身体を支えやすくなります。
ちなみに、患側(かんそく:悪い方の脚)が左であれば、杖は健側(けんそく)の右に支えます。
悪い側につくと思っている方々が多いようですが、特殊なケースを除き、基本は健側です。
詳細は次回の「歩き方」の記事で述べますが、くれぐれも左右を間違えないように注意しましょう。
2)少し長めに設定してもOK
杖の調節方法をご存じでない一般の方々は、たいてい上記の基本よりも長めに合わせる傾向にあるようですが、それは決して間違っていません。
「ロフストランド杖」や「松葉杖」などは、長過ぎると色々と不具合が生じるのですが、T字杖の場合は自由度・許容度の幅が大きいので、ちょっと長めのほうが扱いやすい場合もあるものです。
ただ、あまりにも長過ぎると肘の曲がりが大きくなって支えにくかったり、歩く際に杖が地面に引っ掛かったりします。そのような場合は、少し短く調節し直してみましょう。
逆に、短か過ぎると上半身が杖側へ傾き、これまた支えにくくなってしまいます。
T字杖の場合、どちらかと言うと長過ぎるよりも短か過ぎる方が扱いづらくなる印象ですね。
3)大転子で長さ合わせ?…医療従事者の方々へ
私がPTの学生だった頃、杖のグリップの位置は大腿骨の大転子のレベルに合わせる…と習ったものです。
しかし、大転子は突出範囲が広く、皮膚表面や衣服の上からでは非常に触知しにくいランドマークです。
一般の方々と同じく手関節のラインとするか、橈骨の茎状突起で合わせると良いでしょう。
ちなみに、よく「肘の角度は30°」と言われますが、これも目安のひとつに過ぎません。
しばらく歩いて頂き、最もスムーズかつ安全に歩ける長さを評価した上で、最終決定しましょう。
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3.取扱い上の留意点
一般の方々、医療(介護)従事者ともに注意すべき項目を列挙しますので、ぜひご覧下さい。
1)杖を倒さないよう注意!
よく杖を下の写真のように無造作に立て掛ける人がいますが、こういうのはちょっと触れただけで簡単にバタンと倒れてしまいます。
たいていのT字杖は購入時にストラップが付属しているので、最大限に活用しましょう。
歩く時もストラップに手を通していれば、誤って掌を滑らせても倒さずに済みます。
テーブルなどに立て掛けるためのパーツ(写真右)も、最初から付属していたり、別売りでも購入できます。
※画像引用元:アビリティーズ・グループ
そのような付属品が無く、適切に立てておく場所も無い場合などは、横に寝かせる(※)か、せめて角に立てるようにしましょう。
※床に寝かせるのは、間違って踏んづけてしまうこともあるのでおススメしません。
ここまで神経質に気を配るのも、倒すことでグリップが割れてしまったり、支柱の曲がり・凹みにつながることが非常に多いからです。
最悪、買い直さなくてはならなくなりますので、絶対に床へ倒さないように気をつけましょう!
2)ロックナットの緩み・長さ調節穴の拡大
歩いていて、杖をつくたびに「カチャッ、カチャッ」と音が鳴る場合、ロックナットが緩んでいる事が多いです。時々、確認してみましょう。
ただし、あまり強く締め込むと固着してしまい、今度は緩められなくなってしまうことも…(^_^;
緩まない程度に、ほどほどに締めておくようにしましょう。
長さ調節穴の劣化も、カチャカチャ音が鳴る原因のひとつです。
長期間繰り返し杖をつくことにより、ボタンが調節穴を押し拡げてしまうのです。
T字杖の場合それほど体重を強く支えるわけではないので、松葉杖ほど調節穴が拡がってしまうことは稀ですが、使い込んでいるT字杖にはあり得ることです。
3)杖先ゴムの摩耗
頻繁に杖をつく人は杖先ゴムの摩耗も早いですが、ホームセンターで1個400円前後で購入できます。
ご購入の際は、支柱の径を間違えないように注意しましょう。
ゴム製品は劣化によるヒビ割れ等にも留意すべきですが、一番気をつけるのは「片減り」です。
普通に使っていれば、身体に近い側から削れていきます。
毎日使用する人であれば、少なくとも3ヶ月に1回くらいの頻度で杖先ゴムを90°ほど捻りましょう。まんべんなく摩耗させるためです。
自動車の「タイヤローテーション」と同じ理屈ですね♬
4.さいごに…PT・OTの方々へ(お願い)
1)グリップの割れに対して
私自身の臨床経験の中でも、担当患者さんの杖のグリップ後端が割れてしまっているのを多く見かけました。
割れたグリップは、棘などで手を傷つける恐れがあります。
ヤスリ・サンドペーパーで、割れた部分を滑らかに整えて下さい。
これくらい、PT・OTなら「お手のもの」だと思います。これも医療サービスのひとつとして、私は必ず行っていました。
しかし、何よりも杖を倒してしまわないことが第一ですので、患者さんに対し予防策をしっかりお伝え下さい。
2)杖の異音に対して
ロックナットの緩みは「カチャカチャ音」の主たる原因ですので、最初にチェックして下さい。
調節穴の拡大に関しては、修繕は困難です。しかし、これには裏技(?)があります。
杖の長さを伸ばして、まだ使っていない穴の位置へボタンをずらし、伸ばした分はパイプカッターで切断するというものです。
通常は穴1個分ずらせば良いでしょうから、特に支障はありません。
私が過去に勤務していた病院のリハビリ室には、たいていパイプカッターが常備されていました。
かつては伸縮式の杖も少なかったため、切り落とすことで長さを調節するのが普通だったからです。
今では使うことも少なくなりましたが、それでもリハビリ室には必需品かと思います。
使い方にはちょっとしたコツが必要ですが、PT・OTならいつでも使えるように準備しておくことをおススメします(もちろん、杖を切る際には持ち主の同意を得るようにしましょう)。
3)杖先ゴムに対して
ゴムの溝が無くなってツルツルの状態だと、濡れた床面では簡単に滑ってしまいます。
そうなると危険ですので、患者さんの杖先は時々チェックするように習慣づけて下さい。
図らずも、杖の選び方や調節・取扱い方法だけで文面を大きく割いてしまいました…申し訳ございません。
肝腎の「T字杖による歩行・階段昇降の方法」は次回の記事に譲りたいと思います。
今しばらくお待ち下さい… m(_ _)m
最後までご覧下さいましてありがとうございました。
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